年齢を重ねれば多くなる、親しい人との別れ
竹下景子!ふと孤独を感じるとき…明るく前に進むためにできること
竹下景子!ふと孤独を感じるとき…明るく前に進むためにできること
公開日:2025年10月23日
竹下景子さんのプロフィール
たけした・けいこ。1953(昭和28)年、愛知県生まれ。映画「男はつらいよ」のマドンナ役を3度務め、「学校」で日本アカデミー賞優秀助演女優賞受賞。舞台「海と日傘」で紀伊國屋演劇賞個人賞受賞。近年は舞台「アカシアの雨が降る時」「Silent Sky」、ドラマ「おかえりモネ」「離婚しようよ」、映画「君たちはどう生きるか」(声の出演)など幅広く活躍。
大切な人との別れ。思い返すことが恩返しや癒やしに

俳優としてデビューして半世紀以上たちます。おかげさまで、お仕事は充実しています。20代と比べてセリフを覚えるのに4倍くらい時間がかかって自分でもびっくりしますけど(笑)、これは致し方ないこと。大変ですがワクワクする日々を送っています。
2023の年秋には古希を迎えました。でも私は、母が57歳で亡くなって、60代、70代の姿を知らないまま別れてしまったので、年を重ねるということがいまだにピンとこないところがあるんです。
いたずらっ子みたいな西田敏行さんの笑顔が忘れられません
ただ、年齢を重ねて親しい人とお別れすることが多くなると、人は生まれてくるときも、亡くなるときも一人なんだなと、ふと寂しさや孤独を感じるようになりました。
2024年はNHKのオーディオドラマで16年以上ご一緒した西田敏行さんの突然の訃報にショックを受けました。またお目にかかって、向かい合わせで収録できるような気がして……。でもそういう日はもう来ないと思うと降り積もるような寂しさがあります。本当に魅力的な方でしたから。
最後の頃は西田さんは車いすでニコニコと収録に来られました。ご自分の体が不自由になられても、そのことをあまり気に留めていらっしゃらなかったですね。
ある日、近くのスタジオで大河ドラマの収録があり、親しいスタッフさんや俳優さんがいたのか、西田さんは自らサーッと車いすで中に入られて。現場の雰囲気を楽しんでいましたね。
おかしかったのは、収録を終えた西田さんが先にエレベーターにお乗りになって、下に降りるつもりが間違えて上の階へ行っちゃったみたいで。私が乗ろうとしたらエレベーターの中に西田さんがいらして、いたずらっ子みたいに無邪気に笑っていたんです。みんなで同じエレベーターに乗って大笑いして。あのときの笑顔は忘れられません。
大切な人とお別れした悲しみを癒やすには、やっぱり時間が必要ですね。その人のふとした日常のたたずまいだとか、人との接し方だとか、一つ一つの面影を心に留めおいて思い返したり、教わったことをしてみたり。それが恩返しにもなるし、私自身を癒やしてくれる気がします。
一人で生きる「83歳のおばあさん」を演じて

近年は、世界各地で戦争や内紛が続いて、心を痛めている方も多いのではないでしょうか。2025年2月~3月に上演したダブルビル(2本立て)の作品の一つ「ポルノグラフィ」は、2005年にロンドンで起きた連続爆破テロ事件前後の市民の日常を描いた作品。地球がどんどん小さくなって、誰にとっても他人事ではないと思います。
私が演じたのは、83歳のおばあさん。時間の感覚や日常生活がちょっとおぼつかなくなって、不安や孤独感を抱えながらも、一人で強く生きていこうとする――83歳の一人暮らしの女性の日常がリアルに描かれ、そのたくましさに惹かれます。私自身も役からエネルギーをもらっていますね。
小さな命に囲まれて、生きる喜びを大切にしたい
舞台に立ち続けるには体づくりが大切です。私は朝晩小一時間ずつ、愛犬のなんばんと散歩するのを日課にしています。朝一番に歩くと気分がすっきりしますし、夜は夜で星や月を眺めながら歩き、心をリセットする時間にしています。
「お月様がきれいね」なんてなんばんに話しかけて、返事はありませんけど(笑)、私にとって幸せな時間です。
我が家には小さな庭と鉢植えがいくつかあり、私は水やりをするくらいですが(笑)、元気に育つ植物たちの姿がとても愛おしく感じられます。3年前に植えたレモンの木に実がなって食卓に出したりすると、ご褒美をもらったような気分。70代になって、自分の足元にある幸せを感じるようになりました。
愛犬のなんばんや庭の植物たち……小さないのちに囲まれて生きる喜びを大切にしたいですね。
取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部)、撮影=中西裕人、スタイリスト=田中 舞、ヘアメイク=徳田郁子
※この記事は、雑誌「ハルメク」2025年月3号を再編集しています。




