020:平端弘美さん(64歳)
50代未経験からドッグトレーナーへ!犬との出会いが変えた私の第二の人生
50代未経験からドッグトレーナーへ!犬との出会いが変えた私の第二の人生
公開日:2025年10月20日
平端弘美さんのリスタート・ストーリー
短大卒業後、勤めていた保険会社を結婚を機に退職後は、さまざまなパート勤務をしながらも家事育児を中心とした生活を送っていた平端さん。
50代で未経験からドッグトレーナーの資格が取れる学校へ入学。卒業後、もう一つの学校に入学し、当時は珍しかったシニア犬に特化した「ペットケアマネージャー」の民間資格を取得。現在は動物病院でのケアサポートや訪問ケアを中心に、活躍の場を広げている。
娘のひと言と一匹の犬が、人生を変えてくれた
――ドッグトレーナーの資格を取ろうと思ったきっかけは?
結婚してからは短時間のパート勤務をしながら、子育てと家事に忙しくしていました。自分の時間が持てず、イライラしていたこともありましたね。でも、そうかといって資格を取ろうとか、何かやらなくちゃ!といった気持ちもありませんでした。
次女が中学生のときに「犬を飼いたい」と言い出したことがきっかけで、ポメラニアンを飼い始めました。私が50歳のときです。飼い始めてから、犬って面白いな、癒やされるなと思うようになりました。
そんなときにテレビでドッグセラピーを紹介している番組を見て、「これを学んでみたい!」とビビッときてしまって。
――ドッグトレーナーの資格取得にかかった費用と時間は?
すぐにドッグセラピーの勉強と、ドッグトレーナーの資格が取れる専門学校を探して、入学しました。学費はそれまでパン屋、教材の配達などいろんなパートの仕事をして貯めたお金を使いました。2年間で約60万円くらいだったと思います。
学校には週1~2日、登校をして授業を受けるスタイル。授業といっても座学ではなく実践重視です。
当時は学校に通いながら、パートの仕事も続けていました。
50代で専門学校へ。若い生徒に混じって奮闘するも…

――学校での勉強はどうでしたか?
まわりには20代30代の若い方が多くて、 50代はいませんでした。
私は年齢を重ねているせいか覚えが悪くて、先生の厳しい指導に落ち込むことも多かったです。道すがら「なんで私、こんなことしているんだろう」と思いながら、学校に行く足取りが重くなることが何度もありました。
今でこそ物怖じしないで笑っていられるようになりましたが、当時は何をやるにも自信がないし、恥ずかしいしで思うようにできないことがたくさん。せっかくやりたいことを始めたのに、鬱々としていることが多かったように思います。
私の気持ちが犬にも伝わるのか、学校にいるモデル犬とも関係性を築くのに時間がかかりました。
――「あの過去があるから今がある」と思えることは?
ドッグダンス(飼い主と犬が音楽に合わせて歩く、踊る、ジャンプ、くるっと回るなどのトリックを組み合わせたドッグスポーツ)の授業のときです。
人前に立ち、人に見られる中で思いきりテンションを上げて犬と接しなければいけないのですが、プライドが捨てきれず、恥ずかしくなってしまって、体が硬直しちゃって……。先生に「女優になったつもりでやってみて!」と言われて、「無理〜」と何度も涙目になりました。
でも発表会がどんどん近づいていくうちに「ここまで来たら諦めたくない、絶対やり遂げたい、私にはもう後がないんだ」という気持ちが湧いてきて。最後は自分を捨てて、思いきりロックな曲を選び、ガンガンに踊りました(笑)
先生は「平端さんがこんな曲を選ぶとは思わなかった」って驚いていましたね。周囲で心配そうに見ていてくれた生徒のみんなもとても楽しんでくれて、声をかけてくれたのがとてもうれしかった。がんばった!やり切った!という達成感がありました。
あれを乗り越えた頃から、自分の気持ちの持ち方が変わっていった気がします。
学び直しの先に見えた、シニア犬ケアという新しい道

――ドッグトレーナーの資格を取得後、すぐに仕事に生かせましたか?
もともとはドッグセラピーの資格を取りたかったのですが、学校に行く日とパートの曜日が重なってしまって諦めざるを得ず、ドッグトレーナーの資格だけ取得しました。
卒業後は地元のホームセンター内にあるペットショップで、犬のしつけ教室を任されました。でも、犬も飼い主さんも元気にしてあげたいという私の思いと、営業に力を入れたい会社の方針と合わなくて、半年ほどで退職してしまったんです。
――そこからシニア犬のケアに注目したきっかけは?
犬のしつけ教室をしていたときに、飼い主さんから「散歩のときに歩くのが遅くなった」「ソファーに飛び乗れなくなった」といった話をよく聞いていました。犬も年を重ねて、体の変化にとまどっている飼い主さんがたくさんいると気付いたんです。
当時、シニア犬のことに詳しいトレーナーはほとんどいませんでした。だったら、シニア犬のケアや飼い主さんへのアドバイスができる専門職に就きたいなと思い始めたんです。
――新たにペットケアマネージャーの資格取得を目指した理由は?
その頃、犬のマッサージの勉強を始めていて、ある犬のイベントにボランティアで参加してマッサージをしていたら、たまたま隣のブースが、設立されたばかりの「Japanペットケアマネージャー協会」でした。そこで、シニア犬と飼い主さんが楽しそうにドッグダンスをしていたんです。
「体の動きが鈍くなっても、こんなに楽しくできるんだ」って、目から鱗でした。
そこでまたビビッときてすぐにパンフレットをもらって、老犬介護や犬の整体などの講座を受け始めました。58歳のときに1期生として卒業し、シニア犬に特化したペットケアマネージャーの資格を取得しました。

――ペットケアマネージャーの資格を生かした働き方とは?
資格を持っているのは全国で私を含めて13名です。学んでいる人は多いのですが、実際に活動をしている人はまだ多くはないのが現状です。
この資格は、試験を受けるというのではなく「こういう犬に対してこういうケアをしました」といった症例をレポートを出して、その良し悪しで合否が決まります。ですから、動物病院で働かせてもらうなどして、シニア犬をケアした経験を重ねないと、なかなか難しいのかなと思います。
私は幸いなことに、最初に飼っていたポメラニアンを子犬のときから診てもらっていた動物病院(癒しの杜〜こうご動物病院付属TAMA統合医療センター、東京都多摩市)で働かせていただいています。
週2回は定期的に病院内で、犬のマッサージやケアなどをしています。それ以外の日も通院が難しいシニア犬の訪問ケアをしています。
資格、経験……自分を生かせる場所の見つけ方
――資格を生かして活躍の場を広げるために、どんな工夫をしていますか?
この仕事は完全フリーランスなので、自分で働く場所や機会、顧客を開拓していく必要があります。私はビジネスのことを学んできたわけではないし、本当は営業もすごく苦手。だけど、最初の頃は「やらせてもらえませんか」とすごく営業しました(笑)
何よりペットケアマネージャーという資格を持って活動している人がいることを知ってほしかったですし、シニア犬に対してどうしていいかわからない飼い主さんがたくさんいると実感していたので、新聞社や出版社にメールしたり手紙を送ったりもしました。
そうするうちに、犬の雑誌で取材してもらったり、ドッグランやドッグカフェともつながって、整体のセミナーをしたり、ペット防災の講師の依頼も来るようになりました。SNSも得意じゃないんですけど、今はインスタやスレッズを見て直接連絡をいただくことも増えましたね。
待っているだけでは何も始まらない。これは50代になっていろいろチャレンジする中で学んだことの一つだと思っています。
――この仕事でやりがいを感じるのはどんなときですか?
犬のケアといっても飼い主さんとの関係が大切です。介護が大変な飼い主さんは「話を聞いてもらえるだけで楽になる」とおっしゃいます。シニア犬なので亡くなってしまうワンちゃんもいて、ペットロスになる方もいます。
でも、亡くなった後に飼い主さんから感謝の手紙をいただくことがあって、当時はお互い必死だったけど、振り返って「最期を幸せに過ごせてよかった」「平端さんのケアに行くことが犬も私にも癒やしだった」というような言葉をもらうと、胸に熱いものがこみ上げます。
一方で、これで十分だったのかと反省することもあり、心のケアの勉強ももっとしたいと思っています。犬の情報も日々アップデートしなければならないので、アンテナを張り続けて学んでいきたいと思っています。

――ビビッときたら即行動。その力はどこから来るのでしょうか。
私、割といろいろなことに興味があって、ビビッと来ると突き進めちゃうんです。犬のセラピーの学校に行くと決めたときも、犬は好きだったけど、何か資格を取って仕事をしようとまでは考えていませんでした。でも、その日のうちに学校の資料請求をしました。
もう一つ、ベトナムの自然療法で、顔の反射区を刺激する「ベトナム医道ディエンチャンセラピスト」の資格も取りました。もともとは人向けに施術するものですが、これをワンちゃん向けにアレンジして「インヤンアニマルセラピー」という登録商標を取得したので、これから活動していこうと思っています。これも出合ったときにビビッと来て、学校に入っちゃったんです。
実は、50代まではそんなに行動的ではなかったのですが、犬をきっかけに変わったのかもしれません。そういう意味では、私に行動するきっかけをくれた最初の飼い犬のポメラニアンには本当に感謝しています。
――現在60代、これからも働き続けるために備えていることはありますか?
この仕事は、体力勝負。病院でのケアのほかに、講演会やセミナー、個人のお宅に訪問したりと、移動が多いんです。犬のケアをするための荷物が多いので、普段は車に積んで移動していますが、電車移動をすることも。荷物を持ちながらの移動は足腰に来ます(笑)
犬のケアをしているのに、自分のケアは後回しになりがちなので、体調管理には気を付けています。でも、飼い主さんと話したり、犬と触れ合ったりすることでみなさんに元気をもらっていますね。

――平端さんの座右の銘は?
「人はいつからでも始められる」です。
まさにリスタート、私の経験そのものです。やりたいと思ったら、50代でも60代でも遅くないと思います。特に女性は、私がそうだったように家事や育児で縛られて、自分のことがなかなかできません。
でも焦らなくていいから、できるときに無理のない範囲で少しずつ始めればいいと思います。柔軟に新しいことに飛び込めるのも、女性の良さかもしれません。
私は58歳の頃、子どもが少し手離れした時期から数年間、ラジオ制作コミュニティ「ママ夢ラジオ」でラジオのパーソナリティをしていました。あの時も、SNSでたまたまパーソナリティを募集しているのを見て、その場で申し込んだんです。
ママであれば誰でも参加できて、現在も20代から70代の女性が活躍していて、とても楽しかった。ラジオを通して、昔の自分と同じように、やりたいことができない、やりたいことが見つからないと悩むママたちに、子育てが終わってからでも始められる、大丈夫ということを伝えたいと思っていました。
去年からはFM八王子でペットに関するラジオ番組「あつまれ!!しっぽファミリー」を立ち上げて、パーソナリティとして活動しています。この活動も、自分から営業して掴んだ場です。
――これからチャレンジしたいことは?
実は犬のことだけではなくて、自分自身の引き出しも増やしたいなと思っていて、日本語教師の国家試験を受けるために通信制の大学にも入学したところです。
もともと大学で英語を学んでいたので、これもビビッときて。日本語教師なら、70歳、80歳になってもオンラインで教えることができるかもしれないですしね。
50代のリスタートに必要な3つの備え
情報があふれる時代だからこそ、人と人との出会いが大切。ささいなことでも興味があったら行動する、その中から本当にやりたいことが見つかるかもしれません。
1.自由に使えるお金を持つ
とても現実的な話ですが、何かを学ぶにしても先立つものが必要です。やりたいことが見つかっても諦めることがないように、少しずつでも自分のためのお金を用意しておくこと。稼ぐ手段を持っておくこと。私もパートのお金を貯めていたから踏み切れました。
2.縁をつないでおくこと
私の場合、50代になってから知り合った人のほうが多いのですが、自分から働きかけることが大切だとしみじみ感じます。待っているだけではダメで、いろいろなところに出掛けて、そこで出会う人を大切にすること。「将来役に立つかも」なんて考えなくていいから、まずは人と知り合って話をしてみることです。
3.常にアンテナを張っておく
情報量が多いからこそ、SNSでも道端の張り紙でも、日々アンテナを張っておくのがいいと思います。私がそうだったように、いつどんな情報が飛び込んでくるかわかりません。ある日突然、本当にやりたいことに出合えるかもしれません。
取材・文=樋口由夏 写真=masaco 企画・構成=長倉志乃(HALMEK up編集部) 撮影協力:癒しの杜 こうご動物病院付属TAMA統合医療センター




