国際霊柩送還士・木村利惠さんに聞く#1

国際霊柩送還士とは?海外で亡くなった人は「魂と一緒に帰ってくる」

国際霊柩送還士とは?海外で亡くなった人は「魂と一緒に帰ってくる」

公開日:2025年12月22日

国際霊柩送還士とは?海外で亡くなった人は「魂と一緒に帰ってくる」

「国際霊柩送還」という言葉を聞いたことはありますか。海外で亡くなった日本人の遺体を日本の遺族のもとに連れ帰る仕事のこと。世界各国からの遺体と遺族に寄り添い続ける木村利惠さんに、人の死に向き合うことについて伺いました。

木村利惠(きむら・りえ)さんのプロフィール

国際霊柩送還士。1961(昭和36)年東京都生まれ。勤務先の葬儀社で国際霊柩送還業を学び、2003年独立。日本初の民間による国際霊柩送還専門会社となるアムズコーポレーション(現エアハース・インターナショナル)を設立し、代表取締役社長に就任。同社は06年からFIAT-IFTA(国際葬儀連盟)に加盟、年間平均250体ほどの遺体・遺骨の送還に携わっている。その活躍ぶりは12年にノンフィクション『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(佐々涼子著、集英社刊)として出版され、開高健ノンフィクション賞を受賞。ドラマ化もされた。

「国際霊柩送還」の仕事とは?

「国際霊柩送還」という言葉は、私たちが会社を設立したときにつくった言葉です。海外で亡くなった日本人のご遺体やご遺骨を日本に連れ帰ったり、日本で亡くなった外国人のご遺体やご遺骨を故国に送り届ける仕事を専門にしています。

国内でも人が亡くなると、さまざまな手続きが発生しますが、海外で亡くなればもっと煩雑な手続きが――国際間のことなので、相手国の警察や葬儀社、日本領事館との間におびただしい書類や細かな連絡が発生するのです。

私たちは、長年かけて築いてきたネットワークを使って、各国の専門家たちと連携を取りながら、亡くなった方を故国へ連れて帰るまでをサポートする。そういう仕事をしています。

「海外で亡くなる」とはどういうことか

仕事や旅行で海外へ行って、不慮の事故に遭われるということもあるし、病気で亡くなるということもあるでしょう。日本で待っているご家族にしてみれば、突然、外務省や現地の領事館などから身内の訃報の連絡が届くわけです。

私たちのところには、ご家族と同じくらいのタイミングで、そうした領事館や葬儀社から依頼が入り、搬送のための手続きが始まります。私たちの役目はご遺体、ご遺骨を連れ帰ることに集約されるけれど、その仕事をする中で、ご遺族の方たちとも接することになります。

ご遺族の方は、大事な身内が亡くなったというショックに加え、身元の確認やらご遺体の出国手続きやら、考えたこともないようなやるべきことが押し寄せてきて、何もかもが五里霧中のような状態でしょう。

私はそうしたご遺族を放っておけないんですよね。それに、海外からご遺体が戻ってくるときに、彼らが落ち着いてちゃんと迎えられるようにしてあげることも国際霊柩送還士の役目だと思っています。

待っているご遺族には全力で寄り添う

だから、ご遺族の方には、領事の方や保険会社など間に入る役割の人たちを介して、いつでも私と連絡が取れるように携帯の番号を伝えてもらっています。先方さえよければ、私の方から、毎晩、電話をかけて「今、どうしてた? お風呂入った? ごはん食べた?」って話します。

そうすると「うん、食べて少し元気が出た」みたいな返事が返ってくる。そういうちょっとした普通の会話を毎晩していると、次第に心がほぐれてきて、亡くなった方のことを話してくれたりもします。

夫を亡くした方は、子どもたちの前では悲しみを押し隠してしまうだろうし、子どもを亡くした親たちは、互いに思いやって心にあることを吐露できないかもしれない。そういうとき私のような第三者には、話しやすいんでしょうね。そうやって日常生活が回るようになってきた頃に、「フライト決まったよ。待たせちゃったね」と伝えます。

コロナ禍のときは、大変でした。普段なら手渡したり口頭でできたりする作業が、すべて郵送での書類のやり取りになってしまって、何週間たってもご遺体をその国から出すことができなくなってしまったのです。ご遺族は不安と悲しみの中で、いつまでも待たなくちゃならない。そのときも、よく電話でご遺族の方々と話をしましたね。

まわりからは「そこまでする?」と驚かれるけれど、ご遺族が不安なくご遺体をお迎えできれば、それでいい。それが私たちの使命だと思っています。

ご遺体をできるだけ生前に近い形にしてご遺族にお渡しする

現実的な話として、海外で亡くなったご遺体は、貨物として空輸されるので、気圧の関係で体液・血液がもれ出てしまっています。事故や災害に遭われた方なら、欠損している部分もある。国によっては防腐の技術が拙かったり、保存状態が劣悪だったりすることもあります。

私たちは、独自に開発した特別な霊柩搬送車でご遺体をお迎えし、国家資格を持つ専門の技術者たちがカーゴスペースで、そんなご遺体の“ご機嫌の悪いところ”をすべてきれいにしてあげて、待っている家族のもとに返せるようにします。

海外で自死された娘さんを担当したことがありました。亡くなられてから日本に帰れるまで1か月半かかってしまったので、私が見たときには、目が陥没してまつ毛も抜けてしまっていました。地方の町でしたから、防腐(エンバーミング)の技術が行き届いていなかったのかもしれません。

なので、パスポートの写真を頼りに、陥没していた目には専用の詰め物をして膨らませ、つけまつげをつけて、服装も整えてあげました。

そうしたら後日、ご両親から「おかげさまで娘のお別れの会をすることができました。娘のお友達がたくさん来てくれて代わる代わる顔を見てお別れを言ってくれました。本当にありがとうございました」という連絡が届いたのです。

お別れの場をつくることは、本当に大事なこと。そのとき、生前に近い姿で対面ができると、身内もまわりの人たちも――特に日本人は気持ちの区切りをつけやすいのだと思います。

亡くなった方にも、おかえりの声は必ず届く

私は、ご遺体が飛行機で日本に帰ってきたときには、笑顔で「おかえり」と出迎えるようにしています。無事に帰ってきてよかったね、と。ご遺族がいらっしゃるときには、ご遺体に声を掛けてあげてください、とお願いします。体と一緒に魂も帰ってきていると信じているんですよね。だから、声を掛ければきっと亡くなられた人に届くと思う。

ご葬儀までに話したいことは全部話した方がいい、とも言います。「あんた、いつも私に細かいダメ出しばっかりしてたね」みたいな結婚生活での愚痴でもいいし、「あのときの家族旅行、楽しかったね」って思い出話でもいい。

何年も家族として一緒に過ごしてきた歴史があるのだから、どんなことでも、悔いのないように話し尽くすといい。お通夜の儀式というのは、そうやって最後に一晩を一緒に過ごす時間が必要だから、今も変わらず残っているのでしょうね。そしてやはり、生前に近い姿のご遺体だからこそ別れを告げやすいのかもしれません。

今、家族葬やシンプルなご葬儀がはやっていますが、私には、その人が生きてきた歴史にまわりが勝手にふたをしてしまっているようにも感じます。

家族はもちろん、亡くなった人とのつながりを持っていた人たちが、その人の死を受け入れるために、弔う、という儀式は必要なんじゃないか、と。多くのご遺体、そしてそのご遺族の方に向き合ってきていっそう強くそう思うのです。

ご遺体をできるだけ生前に近い形にしてご遺族にお渡しする、ということは、実は世界の中では独特の文化なのかもしれません。次回は、日本人の弔いの文化と私自身のお話をしましょう。

今の私にとって、この仕事は天から与えられた使命のようなものですが、40代に入る頃までは、普通の専業主婦で、こんなふうに世界中を飛び回ることになるとは思ってもいなかったんです。

取材・文=岡島文乃(ハルメク編集部)

※この記事は、雑誌「ハルメク」2025年3月号を再編集しています。

HALMEK up編集部
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