自分の常識と戦いながら、正解を自分で決めていく

50代でカフェ開業、70代で服作り。信田良枝さんのワクワクし続ける生き方

50代でカフェ開業、70代で服作り。信田良枝さんのワクワクし続ける生き方

公開日:2026年02月11日

50代でカフェ開業、70代で服作り。信田良枝さんワクワクし続ける生き方

栃木県益子町の元カフェオーナー、信田良枝さんは、50代でカフェを始め、仕事や病気、夫婦関係に悩みながらも「ワクワクするもの」を手がかりに、心地いい場づくりを模索してきました。77歳になった今も「自分で自分を驚かせる」暮らしを続けています。

信田良枝(のぶた・よしえ)さんのプロフィール

信田良枝(のぶた・よしえ)さんのプロフィール

1947(昭和22)年、東京都生まれ。26歳で結婚、33歳で益子に移住。一男一女を授かる。陶芸家の夫を支えながら子どもたちを育てた後、55歳でカフェ「ごはん屋ギャラリー『猫車』」をオープン。69歳でカフェを閉め、70歳でひとり暮らしを開始。暮らしぶりを紹介したYouTubeのkuchinashi*チャンネルの「益子、暮らしの便り」も大人気。また、手づくり服coromoを運営し、年に数回、自宅で展示会を開催。著書に『77歳365日の紡ぎ方』(主婦と生活社刊)がある。

いつも、自分で自分を驚かせたいと思って生きています

いつも、自分で自分を驚かせたいと思って生きています
春夏秋冬の草花が楽しめる広大な庭。庭にあるテーブルも手作り

初夏の雨上がりの日、信田さんの自宅を訪ねると、リビングの大きな窓から庭を一望でき、「木の葉に日の光が当たるときらきらと光って。この新緑の季節が大好きなんです」と迎えてくれました。

約45年前、水も電気も通っていない約900坪の土地に家を建て、梅や桜、椿などの木々を植え、今では十数種類の樹木や山野草が育つ空間が出来上がりました。

猪の罠にかかって片方の前足を失った愛猫のネルちゃんは、信田さんの姿を追いながら、気持ちよさそうに庭を歩いたり、テーブルの上でくつろいだり。ゆっくりとした時間が流れています。

40代、益子の自然の中で子育ての傍ら、物作り作家デビュー

40代、益子の自然の中で子育ての傍ら、物作り作家デビュー
信田さんが作ったウサギの人形。スケッチを元に作るのではなく、もし粘土が歪んだらその形を生かして作っている

信田さんが益子に暮らし始めたのは1980(昭和55)年、33歳の頃。6人兄妹の末っ子として東京で生まれた信田さんは、大学卒業後、百貨店関連の会社に就職。広告の仕事に携わりながら、26歳のとき、益子に住む陶芸家と結婚。東京と益子を行ったり来たりの生活を5年ほど送ります。

「当時、夫は陶芸の修業をしており、そろそろ家を建てようと考え、私も2拠点生活から益子に落ち着くことに。ここは山と川、田んぼしかない里山で、うさぎやリスなど小動物が出てくるような場所だったんです。テーブルやベッドなどの必要な物は夫が手作りしました。

夫は東北生まれの人で、自然の中での遊び方をよく知っていたので、子どもが生まれた後は一緒に川遊びをしたり、雪で遊んだり。子どもと一緒に私も育っていったと思います」

信田さんが作ったウサギの人形。スケッチを元に作るのではなく、もし粘土が歪んだらその形を生かして作っています

信田さんが40歳の頃、「庭の木々の横からウサギの人形がのぞいていたらかわいいだろうなと、粘土で人形を作ってみたんです。雨でぬれても大丈夫なようにアクリル絵の具で色をつけて。

決まった型通りに作るのではなく、粘土をこねて形を作り、もし前かがみになったら踊っている形にしようとか、自分で計算しなかったものになるのが面白くて。しばらくしたら夫が『窯で焼いてみる?』と言ってくれ、その人形を見掛けたギャラリーオーナーが『個展をしませんか』と声を掛けてくださり、開催したこともあります」

子どもが巣立ち55歳でカフェを開業。69歳まで夢中で経営

子どもが巣立ち55歳でカフェを開業。69歳まで夢中で経営
「健康って心が元気なこと。ゆっくり朝ごはんをいただく時間を大切にしています」と信田さん

二人の子どもを育て上げた55歳の頃。「子どもが家から巣立ち、夫婦二人になって。リビングの窓から庭を眺めていたとき、ここでおいしいおにぎりとおみそ汁を出したらどうかしら、と思いついたんです。

私はそれまで365日、家族のためにごはんを作っていて、温かい普通の家庭料理を出せたらと思って。でも店を開くなんて初めての経験で、わからないことだらけ。周囲の人たちに教えてもらいながら開店準備をし、ごはん屋ギャラリー『猫車』をオープンしました」

雑誌やテレビ番組などで『猫車』が紹介され、多くのお客様が訪れる人気店に成長。特に毎年、益子陶器市の時期は、行列ができるほどに。接客後、夜遅くに翌日の仕込みをする日々が続きました。

「健康って心が元気なこと。ゆっくり朝ごはんをいただく時間を大切にしています」と信田さん
道の駅で旬の野菜や甘酒などを買うことが多いそう

60代、夫婦関係に悩み、病気を経験して気付いたこと

60代、夫婦関係に悩み、病気を経験して気付いたこと
鮎釣り用の服をイメージして、サスペンダーのついた服を

60代に入り、人間関係や結婚生活で悩む時期も経験。「私は人見知りで、人付き合いが下手。今思うと、私は私に厳しかったんですね。自分のことが嫌いになり、つらい時期がありました」

69歳の頃、腰を痛めて動けなくなり、閉店することを決断。脊柱管狭窄症と診断され、手術をし、リハビリもしました。

「それまで一生懸命カフェの経営に取り組んできて、閉店後、15年ぶりにゆっくりした時間を持ったんです。心身ともにただただ解放感があったというか。ここまでこんなにがんばってきたじゃないと思えた瞬間があり、自分で自分をちゃんと認められるようになりました」

77歳の今、服作りをしながら、同世代が集まる展示会を開催

77歳の今、服作りをしながら、同世代が集まる展示会を開催

70歳の頃から夫と別居しひとり暮らしを始めた信田さん。起床は毎朝5時頃。家中の窓を開けてコーヒーを淹れ、リビングで庭を眺めながらほっとする時間を過ごします。7時頃、ゆっくり朝食をとり、家事をしたり散歩をしたり。午後からはアトリエで服作り。

そして2~3か月に1度、自宅で1日だけの洋服の展示会を開いています。

新しい自分と出会える。“解放区”のような場を作りたい

新しい自分と出会える。“解放区”のような場を作りたい

「服作りを始めたのは70歳の頃、友人からミシンをいただいたことがきっかけでした。私は持病のリウマチもあり、店で試着して服を買うことがつらくなって。ラクにはけるパンツを作ってみたら、友人が『それすごくいい! 私にも作ってくれない?』と言ってくれて。

外で仕事をしているときはそれに合った服を着るのが大切だと思いますが、家の中ではこれまで着なかった鮮やかな色や形を着てみたら楽しいと思うんです。

新しい自分と出会える。“解放区”のような場を作りたい

私も店頭ではこんな鮮やかなピンクの服を試着しようとは思わなかったけれど、自分で作って着てみたら新しい自分に出会えたような気がして。次は明るい色の靴下をはいてみようとか、一歩踏み出すとその先の世界が広がっている。

展示会にいらっしゃる人の中で、私は太っているとかセンスがないとか言う方がいるけれど、太っているからこそ丸みが素敵に出る服もあり、一人一人魅力が違う。痩せた方がいいとか一つの価値観にとらわれない“解放区”を作りたいというか。こぼれ落ちている自分の新しい魅力を見つけてほしいと思っています」

布や和紙、草花。組み合わせを考える瞬間がとても好き

布や和紙、草花。組み合わせを考える瞬間がとても好き
右/庭の草花を和紙に貼り付けた押し花のアート。木の皮を額にして。右/庭のさまざまな種類の草花を押し花にしたものを重ね、見本帳に。世界に一つの貴重なもの

服作りの他にも、庭の草花で押し花のアートを作るなど物作りへの情熱は尽きません。

「仕事を引退後、自分の中のリミッターをはずしていくと新しい自分に出会える。そうして自分で自分を驚かせることを楽しんでいます。年とともに体の変化もあり、楽しいことばかりではないけれど、心が動いたらこれを作ってみよう! と自分に正直に過ごしていたら、悔いのない人生になると思っています」

服の展示会についてなど、詳しくはインスタグラム(@minnano_coromo)で検索を。展示会に訪れたい方は、事前にメール(nobutayoshie@gmail.com)までお問い合わせを。

取材・文=野田有香(ハルメク編集部) 撮影=林ひろし

※この記事は、2026年1月現在の情報です。雑誌「ハルメク」2025年7月号を再編集しています。

HALMEK up編集部
HALMEK up編集部

「今日も明日も、楽しみになる」大人女性がそんな毎日を過ごせるように、役立つ情報を記事・動画・イベントでお届けします。