家庭内別居を選んだ夫婦!妻が感じる「一人の良さ」
2024.11.292025年01月09日
別居生活20年以上の「群言堂」松場夫妻が語る
「なかよし別居」を選ぶ夫婦のリアルとは?いい関係を保つために守るべき3か条
世界遺産にも登録されている石見銀山に本社と本店を構えるライフスタイルブランド「石見銀山 群言堂」。創業者の松場大吉さん・登美さん夫妻は「なかよし別居」をして20年以上になるといいます。その幸せの秘訣を伺いました。
お話を聞いた人:松場大吉さん、登美さん
まつば・だいきち
1953(昭和28)年、島根県生まれ。79年に名古屋で登美さんとともにパッチワーク商品を扱う「ブラハウス」を立ち上げる。81年に故郷に家族で帰京。94年「群言堂」を立ち上げる。98年株式会社「石見銀山生活文化研究所」を設立。2023年に「石見銀山群言堂グループ」の代表を退任し、現在は地域事業に取り組んでいる。
まつば・とみ
1949(昭和24)年、三重県生まれ。株式会社「石見銀山生活文化研究所」相談役。株式会社「他郷阿部家」竈婆(かまばあ)。74年に大吉さんと結婚後、79年から「ブラハウス」でデザイン、製作を担当、94年から服飾ブランド「群言堂」のデザイナーを務める。2001年には武家屋敷を買い取り、改修して08年宿泊施設「他郷阿部家」を開業。
最良のパートナーであり、最強のライバル
「群言堂」のデザイナーを引退後の現在も、古民家を改修した宿泊施設「他郷(たきょう)阿部家」の竈婆を務める松場登美さん。
そしてアパレル、飲食、観光などの事業を統合する「石見銀山群言堂グループ」の代表を退任後、観光や教育、防災など大森町のための取り組みを行う松場大吉さん。
二人は結婚して50年になります。結婚7年目に名古屋から大吉さんの故郷であり、後に「群言堂」の拠点となる島根県の石見銀山に戻り、今もそこで暮らしているお二人ですが、20年ほど前から別居をしています。
「仲が悪くて別居したわけではないんです。だから“なかよし別居”と呼んでいます」と登美さんは言います。
「大吉さんが新たなスタートの背中を押してくれた」
二人が別居生活を始めたきっかけは、一軒の武家屋敷との出合いでした。
「建物の老朽化が激しくて買い取り手がつかず、土地の一部を所有する我々が購入せざるを得なくなりました」(大吉さん)。でもそれが登美さんにとっては大きなチャンスとなりました。
当時「群言堂」のデザイナーとしてアパレルの仕事にやりがいを感じながらも「自分が本当にデザインしたいのは“衣”だけでなく、食・住・美を含めたライフスタイルだったのです」(登美さん)
そこで武家屋敷を改修して、理想とする暮らしを表現してみたいと大吉さんに相談したところ「あなたがここで住む覚悟でやらないと、理想は実現できないのでは」と助言されたのだと言います。すでに子どもたちは3人とも独立し、お互いの親も見送ったタイミング。
「『結婚はこうあるべき』という考えにしばられず、登美さんの夢を応援したかった」と大吉さん。「それまで料理をしたこともなかったけど、自分の好きなものを作るのが楽しいし、実験のようでわくわくしました。今では隣に住む中学生の孫の朝食も一緒に作って食べていますよ」
一方の登美さんも「古民家再生」というライフワークに向き合いつつ、「自由に使える時間が増えて、仕事しながらも学びの時間ができたのがうれしくて。一人で暮らして初めて家事に追われていたことに気付きました」
「どっちかが先に逝っても、落ち込まずにがんばって生きよう」
二人とも20年を経た今も自由な一人暮らしを満喫しています。
「私は仕事や孫の世話に追われる日々なので、月2回ぐらいは仕事からも家族からも離れて逃避します。大浴場付きの駅前のビジネスホテルに泊まって、1泊で3回ぐらいお風呂に入るのが楽しみなんです」と大吉さん。
「あら、一緒に住んでいた頃はお風呂嫌いだったのに! 私は阿部家での仕事が終わって、夜自宅に戻ってから映画やドラマを見るのが楽しみです」という登美さんは、一人暮らしの家に新たな家族を迎えました。
「ボケ防止になるから、と次女にすすめられて」フレンチブルドッグで保護犬の福ちゃんを飼い始めたそう。「大吉さんよりも手がかかりますけど(笑)、福ちゃんを迎えて以降、まわりからはすごく穏やかになったといわれます」
二人が別居をするときから約束として決めているのが「どちらかが倒れたら一緒に住むこと」。いざそうなってみないとわからないけど、と大吉さん。
「でも最近、夫を亡くしてひどく落ち込んでいる知り合いがいて。その落ち込みようを見たときに、うちの夫婦はそうはならないなと。どちらが先立ったとしても、逆にその分、がんばって生き延びようとやる気が出ると思うんですね。そういう夫婦になれてよかったなと思います」(大吉さん)
「なかよし別居」のための3つのポイント
■相手を信頼して、自立すること
何でも自分でやるという自立心と、「あの人なら心配ない」という信頼が大事。
■お互い干渉しないこと
何かあれば連絡がくるだろうという気持ちで、自分一人の自由時間を満喫するのがポイント。
■町中でばったり会うぐらいの距離に住むこと
仕事に向かう途中にばったり顔を合わせることも。なんとなく存在が感じられる距離感がちょうどいい。
取材・文=三橋桃子(ハルメク編集部) 撮影=回里純子
※この記事は、雑誌「ハルメク」2024年4月号を再編集しています。