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- 【映画レビュー】喪失と再生「ドライブ・マイ・カー」
女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今月の1本は、浮気理由を聞けないまま突然妻を失った家福と、複雑な家庭で育った過去を持つみさき。それぞれが傷ついた過去と向き合いながら再生していく様を描いた作品です。
「ドライブ・マイ・カー」
舞台俳優で演出家の家福悠介(西島秀俊)は、女優の妻・音(霧島れいか)をくも膜下出血で亡くした。2年後、広島国際演劇祭の主催者から「ワーニャ伯父さん」の演出を依頼され、広島へ向かう。アジア各国から集まった俳優たちをキャスティングし、それぞれが母国語でセリフを語る多国語演劇である。
主催者側の規則により、滞在期間中は自ら運転をしないように、渡利みさき(三浦透子)という専属ドライバーをつけられる。当初はクセのある愛車のハンドルを他人に委ねることに躊躇した家福だが、みさきの運転のうまさに信頼を寄せ、やがて彼女との対話を通して、自らの心の奥にくすぶっていた苦悩と対峙することになる。
村上春樹の短編小説集『女のいない男たち』の中の「ドライブ・マイ・カー」を中心に「シェラザード」「木野」のエピソードも投影された物語だが、原作のエッセンスを生かしながらも、映画的に広がりのある斬新なストーリー展開が見事だ。
お互いに理解し合い、精神的にも肉体的にも満ち足りた夫婦だったはずなのに、なぜ妻は他の複数の男たちと肉体関係を持ち続けたのか。その理由を聞く機会を得ないまま逝ってしまった妻への思いを抱えた家福と、かつて妻から紹介された若手俳優の高槻(岡田将生)との不思議な友情関係。
また、母親との複雑な関係の中で育ったみさき。それぞれが傷ついた過去と向き合い再生していく様は、静かながら胸の深いところにズシンと響く。最後の20分は圧巻。監督・脚本を手掛けた濱口竜介は「偶然と想像」で今年のベルリン国際映画祭審査員大賞(銀熊賞)を受賞。また昨年のベネチア国際映画祭で監督賞(銀獅子賞)を受賞した黒澤清監督の「スパイの妻」でオリジナル脚本を手掛けている、日本映画界で今、最も輝いているひとりだ。
監督・脚本/濱口竜介
原作/村上春樹「ドライブ・マイ・カー」
(短編小説集『女のいない男たち』所収/文春文庫)
出演/西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、岡田将生他
製作/2021年、日本 配給/ビターズ・エンド
8月20日(金)より、TOHOシネマズ日比谷他、全国公開
今月のもう1本「明日に向かって笑え!」
元サッカー選手のフェルミンは、使われていない農業施設を復活させようと町の人たちから資金を集めるが、金融危機で預金が凍結され大ピンチ。その状況に便乗して金をだまし取った悪徳弁護士の存在を知ったフェルミンらは、財産と夢を奪回するため、驚くべき作戦を立てる――。
2001年のアルゼンチン金融危機を背景に描いたヒューマンコメディ。「瞳の奥の秘密」などの名優リカルド・ダリンと息子チノの親子共演も話題だ。
監督・脚本/セバスティアン・ボレンステイン
出演/リカルド・ダリン、ルイス・ブランドーニ、
チノ・ダリン、ベロニカ・ジナス他
製作/2019年、アルゼンチン共和国
配給/ギャガ
8月6日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町
他にて全国順次公開
文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。映画サイト『ファンズボイス』(fansvoice.jp)のチーフコンテンツオフィサーとしても活躍中。
※この記事は2021年9月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。
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