映画レビュー|「52ヘルツのクジラたち」
2024.02.282021年05月20日
美しいバラ園を舞台にした、はみ出し者たちの人生讃歌
【映画レビュー】「ローズメイカー 奇跡のバラ」
女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今回の1本は、主人公エヴが倒産危機にある父のバラ園を守るため、職業訓練所の男女3人と新たなバラ開発に奮闘する中で人との繋がり・寄り添うことの大切さも教えてくれる作品です。
「ローズメイカー 奇跡のバラ」
かのマリー・アントワネットがバラの愛好家だったことは有名だが、フランスはヨーロッパ屈指の「バラ大国」なのだという。「ローズメイカー 奇跡のバラ」は、そんなフランスのバラ園を舞台にしたユーモアあふれる、かつ感動的な人生讃歌だ。
フランスを代表する大女優カトリーヌ・フロ演じる主人公エヴは、父から受け継いだ小さなバラ園を経営している。かつては才能あふれるローズメイカーとして多くの賞を受賞した、誇り高き頑固者だ。
今年も新種の白バラを世界最高峰の大会であるバラ新品種コンクールに出品するが、巨大なバラ企業に8年続けて負け続けてしまう。借金を抱え、倒産寸前のある日、助手の勧めで職業訓練所から3人の男女を雇うことになる。
反抗的で前科者のフレッド、安定志向で定職に就くことを望むサミール、内気でコミュニケーション下手なナデージュ。果たして、ほとんど素人の彼らとともに“世界で一つだけの輝かしい香りのバラ”を開発するという挑戦が始まる……。
年齢もバックグラウンドも違う人たちが、素晴らしいバラを開発する目的に向かって奮闘する様をユーモラスに描くが、単に面白おかしいだけではなく、今、私たちが直面しているさまざまな社会問題もさりげなく盛り込まれているところにもハッとさせられる。仕事一筋で生きてきた主人公の孤独や生き様、遺産や家業を受け継ぐことの難しさ、社会からはみ出た人たちの失職や就労問題、企業による小規模経営の買収など。
けれど、生きづらさにつながるこうした問題を解決してくれるのが、人であり仲間であることを本作はそっと教えてくれる。血のつながった家族ではなくても、人は寄り添い合うことで、お互いの可能性を広げ、輝けるのだ。
監督・脚本/ピエール・ピノー
出演/カトリーヌ・フロ、メラン・オメルタ、
ファツァー・ブヤメッド他
製作/2020年、フランス
配給/松竹
5月28日(金)より、新宿ピカデリー他、全国公開
今月のもう1本「ファーザー」
娘のアンが手配する介護人を次々と拒否する81歳のアンソニーは、アンからパリで恋人と暮らすためにロンドンを離れると聞いて愕然とする。
ある日、居間に座っている見知らぬ男から、10年間連れ添ったアンの夫だと聞かされ困惑する……。認知症が進み記憶が混乱する父の視点という、画期的な手法で描かれる「老い」の現実。父の世話と自身の人生の間で葛藤する娘を演じた、オリヴィア・コールマンの演技に心揺さぶられる。
監督/フロリアン・ゼレール
出演/アンソニー・ホプキンス、
オリヴィア・コールマン、マーク・ゲイティス他
製作/2020年、イギリス・フランス
配給/ショウゲート
5月14日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ他、全国公開
文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。映画サイト『ファンズボイス』(fansvoice.jp)のチーフコンテンツオフィサーとしても活躍中。
※この記事は2021年6月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。
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