思いがけずタイムリーな、ディケンズ

【映画レビュー】「どん底作家の人生に幸あれ!」

公開日:2021.02.10

更新日:2021.02.10

女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今回の1本は、不遇な日々を送る主人公が、周りの助けを得ながら人生を切り開いていく生き様を描いており、コロナ禍の不安な日々を過ごす私達に大きな希望を与えてくれる作品です。

「どん底作家の人生に幸あれ!」
© 2019 Dickensian Pictures, LLC and Channel Four Television Corporation

「どん底作家の人生に幸あれ!」

『クリスマス・キャロル』や『大いなる遺産』で知られる19世紀のイギリスの文豪チャールズ・ディケンズの自伝的要素が反映された長編小説『デイヴィッド・コパフィールド』を原作とした「どん底作家の人生に幸あれ!」。不遇の幼少時代に始まるデイヴィッドの波乱万丈の人生を独特のユーモアを持って描くコメディタッチのドラマだ。

人生の悲しみや喜びをダイナミックに描き出すヒューマニズムあふれるディケンズの小説は重厚な印象があるが、本作は、その重さが払われ、彼の経験する苦難や挫折には、救いや希望もあり、“悪役”や欠陥だらけの人たちも温かい視点で描かれている。

「ディケンズなのに笑える!」そんなマジカルな芸当を可能にした秘訣の一つは、英国を代表する名優たちの共演だろう。一見シニカルだが心の優しい裕福な伯母ベッツィ役にハリウッドでも活躍するティルダ・スウィントン、貧乏だがのんきなミスター・ミコーバー役には、テレビドラマ「ドクター・フー」で知られるピーター・キャパルディ、不気味にデイヴィッドにすり寄ってくる悪人ユライア役に「007シリーズ」でも知られるベン・ウィショーなど英国の個性派俳優が顔をそろえる。

主人公のデイヴィッド役は、アカデミー賞受賞作「スラムドッグ$ミリオネア」でスターとなったデヴ・パテルだ。インド系移民を両親に持つケニア出身イギリス人の彼を主演に起用するあたりも、今日的な多様性を意識した作り手の意図がうかがえる。

“愛すべき変わり者”たちの助けや友情を力にして、なんとか人生を切り開いていくデイヴィッドの生き様は、不況やコロナ禍で先が見えない今日、大きな希望となるだろう。思いがけないディケンズの大復活に乾杯!

監督/アーマンド・イアヌッチ
原作/チャールズ・ディケンズ『デイヴィッド・コパフィールド』(新潮文庫、岩波文庫)
出演/デヴ・パテル、ピーター・キャパルディ、
ヒュー・ローリー、ティルダ・スウィントン他
製作/2019年、イギリス・アメリカ 配給/ギャガ
1月22日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ、シネマカリテ他、全国順次公開

もう1本「ルーブル美術館の夜 ダ・ヴィンチ没後500年展」

「ルーブル美術館の夜 ダ・ヴィンチ没後500年展」
© Pathé Live

2019~20年に空前絶後の規模で開催された大回顧展「ルーブル美術館 レオナルド・ダ・ヴィンチ展」を、準備に10年間を費やしたルーブルの絵画部門のチーフ・キュレーターらの解説で巡る贅沢なドキュメンタリー。ルーブル秘蔵の至宝をはじめバチカンやエルミタージュ美術館などから貸し出された名画の数々は圧巻。真夜中に撮影されたという人けのないルーブルの美しい映像も含め、ぜひ大スクリーンで見たい。

監督/ピエール=ユベール・マルタン
製作/2020年、フランス
配給/ライブ・ビューイング・ジャパン
TOHOシネマズ シャンテ他にて公開中
 

文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。映画サイト『ファンズボイス』(fansvoice.jp)のチーフコンテンツオフィサーとしても活躍中。

※この記事は2021年2月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。


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