老境に入った主人公が踏み出す新しい一歩

【映画レビュー】7月に必見「ぶあいそうな手紙」

公開日:2020/07/25

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女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今月は、老人エルネストのもとに届いた一通の手紙を、偶然知り合った若い娘のビアに代読してもらうことをきっかけに、不思議な絆が生まれ人生の奇跡と優しさを感じられる作品です。

「ぶあいそうな手紙」
© CASA DE CINEMA DE PORTO ALEGRE 2019

「ぶあいそうな手紙」

ブラジル南部の町、ポルトアレグレ。ウルグアイから移住して46年たつエルネストは78歳、一人暮らしだ。離れて暮らす息子は心配して同居を申し入れるが、頑固なエルネストは、住み慣れた家を離れようとはしない。

そんなある日、一通の手紙が届く。それは学生時代の友人の妻で、彼が密かに想いを寄せていた女性からだった。老境に入り、ほとんど視力を失った彼は、偶然知り会った同じアパルトマンに出入りするドッグシッターの若い娘ビアに手紙を読んでもらい、返事も代筆してもらう。率直な彼女を気に入ったエルネストは、住む部屋もないというビアに空いていた息子の部屋を与え、不思議な同居生活が始まる。

遠く離れたブラジルの街で起こる小さな出会い。エルネストを演じたのは、ウルグアイ映画「ウィスキー」(2004年)の名優ホルヘ・ボラーニだが、人生を彩ってきた音楽や本に囲まれ、つましい生活を送っている老人の誠実さとおかしみを見事に演じている。

お気に入りの椅子に座ってマテ茶を飲み、静かに一日を過ごす、そんな彼に“刺激”を与えるのがビアだが、未来のあるはずの23歳の彼女は、恋人に暴力を振るわれ、住む場所もなく(しかもちょっと手癖も悪い)青春を謳歌しているとはいえない。けれど、二人が偶然にも出会ったことで、お互い何かを与え合う。それが人生の奇跡だ。

エルネストの生真面目な優しさは、ビアの心を洗い、このまま人生が終わると諦めの境地にいたエルネストはまた新しい人生を踏み出す勇気をもらう。ちなみに、ベネデッティの詩、イタリア映画「自転車泥棒」、ブラジルのミュージシャン、カエターノ・ヴェローゾの名曲など、劇中に引用される作品の趣味のよさも抜群。見た後にとても優しくなれるヒューマンな作品だ。

© CASA DE CINEMA DE PORTO ALEGRE 2019

出演/ホルヘ・ボラーニ、ガブリエラ・ポエステル、ホルヘ・デリア、ジュリオ・アンドラーヂ
製作/2019年、ブラジル
配給/ムヴィオラ
7月18日(土)より、シネスイッチ銀座他、全国順次公開

 

今月のもう1本「パブリック 図書館の奇跡」

パブリック 図書館の奇跡
© EL CAMINO LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

米国シンシナティ。大寒波が押し寄せた夜、シェルターからあふれたホームレスたちが、暖をとるために公立図書館に居座る。図書館員のスチュアートは、状況を慮り彼らと行動を共にする。やがてその“占拠”はメディアに大々的に取り上げられ、警察の機動隊まで出動する騒ぎに発展してしまう。実話を基にしたエッセーにインスパイアされ、名優エミリオ・エステベスが主演・監督を手掛けた気骨あるヒューマン・ドラマ。

製作・脚本・監督・主演/エミリオ・エステベス
出演/アレック・ボールドウィン、テイラー・シリング、
クリスチャン・スレイター、ジェフリー・ライト、
ジェナ・マローン他
製作/2018年、アメリカ 配給/ロングライド
7月17日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町他、
全国順次公開
 

文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞、webサイトなどで執筆やインタビューを行う他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。共著『おしゃれも人生も映画から』(中央公論新社刊)が発売中。

※この記事は2020年8月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。


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