埋もれてしまった感情を呼び覚ます、抒情詩

【映画レビュー】「アンモナイトの目覚め」

公開日:2021/04/20

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女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今月の1本は、女性の社会的地位が低い時代に境遇は違えど女性としての苦しみを感じていたメアリーとシャーロット、2人の出会いが塞いでいた心に光を差す、人間味に溢れた作品です。

【映画レビュー】「アンモナイトの目覚め」
©2020 The British Film Institute, British Broadcasting Corporation and Fossil Films Limited

「アンモナイトの目覚め」

イギリスの気候の厳しい海辺の町を舞台にした二人の女性の出会いを描く本作は、19世紀が舞台でありながら、現代に生きる女性たちが心から共感できる物語だ。

老いた母親と二人暮らしのメアリー(ケイト・ウィンスレット)は、独学ながら学会でも一目置かれる古生物学者だが、海岸で採取したアンモナイトを観光客用の土産物店で売り、なんとか生計を立てている。

ある日、裕福な化石収集家のマーチソンが妻シャーロット(シアーシャ・ローナン)を伴って町にやってくる。彼はロンドンに戻る際、流産のショックから立ち直れない妻を療養のためメアリーに託す。

別世界で生きてきた二人はソリが合わないが、高熱を出したシャーロットの看病をしたことがきっかけで、二人の間に親密な感情が生まれる。トラウマを抱え、自分だけの世界で生きてきた孤独なメアリーが、ぎこちなくも自分の殻を破り、再び人との絆に希望を見出すかに見えたのもつかの間、シャーロットがロンドンに戻る日が訪れる。

二人の間には情熱も生まれ、肉体的にも結ばれるが、情事というより、魂で惹かれ合っているように見えることが興味深い。当時は、女性の社会的地位は低く、メアリーの採取した化石は他の男性の名前で大英博物館に展示されていた。

一方、子どもを産み、育てることが女性の役目とされていた当時、流産したシャーロットの精神的な苦痛はどれほどのものだったろう。時代にもしいたげられた女性たちが、本当の意味で対等に見つめられる相手は誰だったのか。

化石のように固まってしまった心がぎこちなくほぐされていく様を見事に演じきった、ウィンスレットの繊細で大胆な演技に目が釘付けになる。

監督・脚本/フランシス・リー
出演/ケイト・ウィンスレット、シアーシャ・ローナン他
製作/2020年、イギリス
配給/ギャガ
4月9日(金)より、TOHO シネマズ シャンテ他、全国順次公開

今月のもう1本「約束の宇宙(そら)」

今月のもう1本「約束の宇宙(そら)」
ⒸCarole BETHUEL
ⒸDHARAMSALA and DARIUS FILMS

7歳の娘がいるシングルマザーの宇宙飛行士が、ロケット打ち上げまでにたどる心の旅を描く。幼い子どもを置いて危険な任務に就く後ろめたさ、また男社会の中で気丈に働く孤独。

スーパーヒーロー的な宇宙飛行士の生身の人間としての側面にフォーカスすることにより、感情をゆさぶられる珠玉のヒューマンドラマに仕上がった。主演はセザール賞主演女優賞にノミネートされたエヴァ・グリーン、音楽は坂本龍一が手掛けている。

監督・脚本/アリス・ウィンクール
出演/エヴァ・グリーン、マット・ディロン、
ザンドラ・ヒュラー他
製作/2019年、フランス 配給/ツイン
4月16日(金)より、TOHO シネマズ
シャンテ他、全国公開 

 

文・立田敦子
映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。映画サイト『ファンズボイス』(fansvoice.jp)のチーフコンテンツオフィサーとしても活躍中。

※この記事は2021年5月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。
 

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