ストーリーオブマイライフ わたしの若草物語

2020年08月15日

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

ロングヒット中「若草物語」50年来のファンの感想は

2か月ものロングラン公開で、24万5000人超を動員している映画「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」。まだ見ていない人はもったいない!3回見たという『若草物語』の50年来のファン、コラムニストの矢部万紀子さんがレビューします。

公開から2か月で観客動員数24万人を突破!

若草物語ストーリーオブマイライフ

「若草物語」(ルイーザ・メイ・オルコット著)というアメリカ文学を好きになったのは、もう50年も前、たぶん小学2年生のときでした。小学4年か5年の頃に親と見た映画「若草物語」にも感動し、文庫本を何度も読み返しました。以来、映画化されれば見るし、新訳が出れば読みます。2019年はミュージカルも見ました。

それほど好きになった理由は、もちろん次女のジョーです。ジョセフィーヌという優雅な名前ですが、ジョーと名乗ります。女の子なんてつまらない。そう思っているジョーを読むたび、見るたび、「私のことだ」と思うのは小学生の時分から変わりません。本を開くと、ジョーは15歳なのですが。

そして2020年、映画「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」(2019年)に出合いました。ああ、50年、『若草物語』を好きでよかった。そう思いました。

第92回アカデミー賞で、作品賞、脚色賞を含む6部門にノミネートされ、衣装デザイン賞を得た作品です。日本でも6月公開以来、8月10日までに観客動員数は24万5000人を超え、現在も一部劇場で上映中です。

 

最新版「若草物語」は構成とテーマ解釈がすごい!

これまでの映画「若草物語」とは、全く違います。監督・脚本のグレタ・ガーウィグさんは1983年生まれ。私が社会人になった年に生まれた女性が、こんなに素晴らしく、こんなに画期的に、我が「若草物語」を映画化してくれました。
    
どこがすごいかを説明していきます。まずは、映画の構成です。

原作を説明すると、長女のメグが婚約するまでが『若草物語』、ジョーがニューヨークに行ったり、エイミーがヨーロッパに行ったりなどなどが『続若草物語』です。私は49年版と94年版の映画を見ましたが、どちらも原作通りの順番で進みます。ところが「ストーリー・オブ・マイライフ」は、「続若草物語」から始まります。

それなら「若草物語」は回想シーンかというと、そうではありません。両方が「今」として描かれます。でも、全く混乱しません。ガーウィグさんの技量に、「洗練」という言葉が浮かんできました。

その技量で彼女は、原作を捉え直します。「若草物語」が描いたことは、例えば人が人を思いやるとは、少女が大人になるとは、欠点を克服する方法……実に多面的です。だからこそ1868年(明治維新の年!)に出版された本が、いまだに読み継がれているのです。

その中からガーウィグさんは、「これぞテーマ」というものをググッとつかみ取りました。彼女の言葉を紹介します。

「私はこの原作が本当に伝えたいことは何か、はっきりわかっていたの。アーティストとしての女性。そして女性と経済」

私なりに解説するなら、「アーティストとしての女性」とは「何をもって生きるのか」だと思います。「女性と経済」は「どうやって生きるのか」です。「アート=芸術」という分野に限らず、自分は何に向いているのか、そのことで食べていけるのか。今を生きる女性がみな等しく、いくつになっても自問しているテーマだと思います。

この映画で四女のエイミーは、鼻の高さを気にするだけの女の子ではありません。絵の勉強を始めるとすぐに、才能がそれほどでもないことに気付きます。だからお金持ちとの結婚が重要なのだと、はっきり口にします。葛藤しながら、です。

ジョーの描かれ方は、とてもしゃれています。幕開けは、ニューヨーク。ある出版社のドアの前にいます。初めて小説を売り込むジョーは、呼吸を整えています。ドアの向こうの「社会」を前に、少し緊張しています。それからのことはあえて飛ばして、エンディングの話をします。

ジョーは同じ出版社にいます。オープニングでは机の上に足を上げていた編集長(もちろん男性)ですが、今度はきちんと向き合っています。「若草物語」を書籍化して売り出すにあたっての条件交渉ですから、足など上げていられません。ジョーはもう、オープニングのときのジョーではありません。

当然ですが、原作にジョーが出版交渉をする場面などありません。でも監督は、著者のオルコットの人生をたどり、ジョーとオルコットを最後に合体させます。ネタバレになるのでここまでにしますが、オルコットが生きていたらニヤリと笑ったに違いありません。ジョーは、ユーモアを交えながら強気に交渉していきます。なかなかのタフネゴシエーターです。

「若草物語」は誕生から150年以上を経て、ガーウィグさんという若く、才能に満ちあふれた女性によって生まれ変わりました。「若草物語」になり代わり、ガーウィグさんに「ありがとう」と言いたいです。

 

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

【原題】LITTLE WOMEN
【上映時間】135分
【製作国 】アメリカ
【監督・脚本】グレタ・ガーウィグ
【配給】ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2020年6月12日(金)から、現在一部劇場で上映中

 

■もっと知りたい■

矢部 万紀子
矢部 万紀子

1961年生まれ。83年朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし書籍編集部長。2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』(幻冬舎新書)

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