【映画レビュー】待つ人についての物語「千夜、一夜」
2022.10.302022年11月16日
家政婦が高級ドレスを買うとき
【映画レビュー】「ミセス・ハリス、パリへ行く」
女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今回は、ディオールの全面協力の元に撮影された作品。たとえ小さくても夢を持つことは人生を少しだけ輝かせる。本作の主人公ミセス・ハリスが抱いた“小さな夢”の物語です。
「ミセス・ハリス、パリへ行く」
お気に入りの服やバッグに出合ったときのワクワクする気持ち。そんなささいな喜びは誰でも経験したことがあるだろう。たとえ小さくても夢を持つことは人生を少しだけ輝かせる。本作の主人公ミセス・ハリスが抱いた“小さな夢”は、なんとファッション史に残るフランスのデザイナー、クリスチャン・ディオールのドレスだった。
家政婦として生計を立てている彼女は、ある日、働き先である家で豪華なディオールのドレスを見て、一目惚れしてしまう。“このドレスをどうしても手に入れたい”。身分不相応?いえ、そんなこと関係ない。“自分が働いたお金で正々堂々と私は素敵なドレスを買うのだ!”。
シャンゼリゼに近いパリの一等地にあるディオールの本店を訪れたハリスだが、果たして無事に憧れのドレスを買うことができるのだろうか?
米国の人気作家ポール・ギャリコによる家政婦のハリスを主人公にした人気シリーズの映画化。優しく前向きで、ちょっとだけお人好しのハリスを演じるのは、『ファントム・スレッド』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたレスリー・マンヴィル。“人間力”で出会う人々を魅了し、幸せにする主人公を、説得力を持って演じている。
少し意地悪なディオールのマネージャー役をイザベル・ユペール、ハリスにやさしくする富裕層の男役をランベール・ウィルソンが演じるなど英仏の実力派が顔をそろえる。
ディオールの全面協力の元に撮影された、庶民ではなかなかお目にかかれない豪華なラグジュアリーファッションの世界を背景に展開される人情ドラマ。1950年代が舞台だが、セレブリティやルッキズム、フェミニズムといったトピックスに対する今日的な批評精神があちらこちらにちりばめられていて、楽しいドラマながら余韻が残る。
「ミセス・ハリス、パリへ行く」
1950年代のロンドン。戦争で夫をなくした家政婦のハリスは、仕事先の富裕層の家でクリスチャン ディオールのドレスを見てその美しさに一目惚れ。貯金をはたいてドレスを買いにパリへ行く決意をする──。
監督・脚本/アンソニー・ファビアン
出演/レスリー・マンヴィル、イザベル・ユペール、ジェイソン・アイザックス、ランベール・ウィルソン他
製作/2022年、イギリス 配給/パルコ、ユニバーサル映画
2022年11月18日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷ホワイトシネクイント他、全国公開
https://www.universalpictures.jp/micro/mrsharris
もう1本「ある男」
弁護士の城戸(きど)は、かつての依頼者から亡くなった夫の身元調査という奇妙な相談を持ちかけられる。夫が事故死した後、別人であったことが発覚したという。では、その男は何者だったのか?
調査を進めるうちに城戸はその迷宮にのめり込んでいく。平野啓一郎のベストセラー小説の映画化。ミステリーというエンターテインメントの語り口でありながら、愛や実存という普遍的なテーマに切り込む深みのあるドラマ。
原作/平野啓一郎『ある男』 監督/石川慶
出演/妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝、清野菜名 他
製作/2022年、「ある男」製作委員会
企画・配給/松竹
2022年11月18日(金)よりTOHO シネマズ 日本橋他、全国公開
https://movies.shochiku.co.jp/a-man/
■文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。エンターテインメント・メディア『ファンズボイス』(fansvoice.jp)を運営。
※この記事は2022年12月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。
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