誰かを“待ち続ける”勇気と強さ

【映画レビュー】待つ人についての物語「千夜、一夜」

公開日:2022.10.30

女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今回の1本は、日本では年間約8万人の人が失踪し、そしてその何倍もの数の人が、誰かを「待っている」。そんな“待つ人”についての作品です。

「千夜、一夜」

【映画レビュー】10月に見るべき「千夜、一夜」
©2022映画『千夜、一夜』製作委員会

もし大切な人が何の前触れもなく自分の前から姿を消してしまったら?ほとんどの人は、このような問いかけを自分にすることはなく一生を終えるのかもしれない。いや、もしかすると誰でも潜在的には、こうした恐れを抱いて生きているともいえる。

日本では年間約8万人の人が失踪しているという。そしてその何倍もの数の人が、誰かを「待っている」。「千夜、一夜」は、そんな“待つ人”についての物語である。

海辺の町で暮らす登美子(田中裕子〈たなか・ゆうこ〉)は30年前に失踪した夫の帰りをいまだに待ち続けている。どこかで事故にあったのか?他に女性がいたのか?海からの侵入者により拉致されたのか?生きているのかどうかさえも定かではない、宙ぶらりんの気持ちのまま月日だけが流れている。

若いときから登美子に思いを寄せていた漁師の春男(ダンカン)からは結婚を迫られるが、受け入れることはできない。そんなある日、2年前に夫が失踪した看護師の奈美(尾野真千子〈おの・まちこ〉)が、元村長の紹介でたずねてくる。相談にのるうちに二人は打ち解けていくが、やがて奈美は、行方不明のままの夫と離婚し新しい人生を踏み出す決心をする。

待つも地獄、待たぬも地獄。愛する伴侶を失った二人の女の狂おしい心の旅と決断は、見るものの感情を揺さぶる。

一方で、映画は“突然姿を消す”人々へも視線を投げかける。周囲から見れば、何の不自由のない生活を送っていたとしても、突然、すべてを捨ててしまいたい、別人となって生きてみたいという衝動を持つ可能性は誰にだってあるのではないかと。

自分の力ではどうにもならない現実に抗わず、人生をまっとうしようとする主人公を演じた田中裕子の佇まいが胸に残る。

「千夜、一夜」
新潟の佐渡島。ある日突然姿を消した夫を30年間待ち続けている登美子の元に、2年前に失踪した夫・洋司を探す看護師の奈美が現れる。これまでの経験を元に一緒に探す登美子だが、ある日偶然に洋司を見かける。
監督/久保田直
出演/田中裕子、尾野真千子、安藤政信、白石加代子、平泉成、小倉久寛/ダンカン他
製作/映画『千夜、一夜』製作委員会
配給/ビターズ・エンド
2022年10月7日(金)よりテアトル新宿、シネスイッチ銀座他、全国公開

https://bitters.co.jp/senyaichiya/

今月のもう1本「スペンサー ダイアナの決意」

今月のもう1本「スペンサー ダイアナの決意」
Photo credit:Pablo Larrain

1981年、当時王太子だった現イギリス国王チャールズ3世と結婚し、1児をもうけるも96年に離婚、翌年にはパリで交通事故で急逝したウェールズ公妃ダイアナ。浮気、別居などスキャンダルにまみれた二人の離婚だが、この映画は、ダイアナが王室を去ることを決断した、91年のクリスマス休暇に焦点を当てる。ダイアナの心を動かしたものはなにか。通常の伝記とは異なるユニークなアプローチが興味深い。

監督/パブロ・ラライン
出演/クリステン・スチュワート、
ジャック・ファーシング、ティモシー・スポール、サリー・ホーキンス他
製作/2021年、イギリス、ドイツ 
配給/STAR CHANNEL MOVIES
10月14日(金)よりTOHO シネマズ 日比谷他、全国公開

https://spencer-movie.com/

文・立田敦子

たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。エンターテインメント・メディア『ファンズボイス』(fansvoice.jp)を運営。

※この記事は2022年11月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。

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