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2022.06.282022年07月17日
不朽の名著が今映画化された意味を思う
【映画レビュー】島崎藤村の小説を映画化!「破戒」
女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今月の1本は、島崎藤村(しまざき・とうそん)が1906年に出版した長編小説を60年ぶりに映画化した作品。
「破戒」
島崎藤村(しまざき・とうそん)が1906年に出版した長編小説『破戒』は、これまで木下恵介(きのした・けいすけ)、市川崑(いちかわ・こん)など名匠によって映画化されているが、本作は60年ぶりの映画化。
舞台は明治後期。地元を離れ、小学校の教諭となった瀬川丑松(せがわ・うしまつ)(間宮祥太朗〈まみや・しょうたろう〉)は、父からの強い戒めを受け、被差別部落出身の出自を隠して生きてきた。しかし、被差別部落出身の思想家の猪子蓮太郎(いのこ・れんたろう)(眞島秀和〈ましま・ひでかず〉)が“我は穢多えたなり”と公言し、活動する姿に感動を覚え、「人間はみな等しく尊厳を持つものだ」という彼の言葉に心を揺さぶられる。だが、猪子は政敵が放った暴漢に襲われる。
部落差別の実態がリアルに描かれ、100年以上前の物語であるにもかかわらず、瀬川が直面するマイノリティに対する差別やいじめ問題は、過去のものではないことを実感せざるを得ない。また、階級意識や政治腐敗、あるいは、下宿先の士族出身の娘・志保(しほ)(石井杏奈〈いしい・あんな〉)を通じて、性差別やハラスメント問題なども端的に盛り込まれ、改めてこの物語が普遍的であることを思い知る。だが、こうした人間の残酷さや傲慢さに失望しながらも、希望もある。瀬川の人間性を見抜き、本音で接してくれる友人、慕ってくれる志保。そしてなによりも、社会的な圧に怯ひるむことなく闘う猪子の生き様。彼らの存在が、自身の弱さと闘い、迷いながらも正しく生きようとする清冽な瀬川の背中を押してくれることに、一筋の光を見いだす。
アメリカを中心に「ブラック・ライブズ・マター」やアジアンヘイトの問題が注目され、日本でも移民問題が顕在化しつつある今、「破戒」で描かれる人間の暗部、そして善意が問いかけてくるものはなにか。見終わった後に余韻の残る滋味深い作品だ。
「破戒」
信州の被差別部落に生まれた瀬川は、父の戒めを守り、小学校教員となってもその出自を隠していた。だが被差別部落の出であることを公にし、活動家として堂々と生きる猪子蓮太郎を慕ううちに迷いが生まれる。
監督/前田和男 原作/島崎藤村『破戒』
出演/間宮祥太朗、⽯井杏奈、⽮本悠⾺、⾼橋和也、⼩林綾⼦、⼤東駿介、⽵中直⼈、⽯橋蓮司、眞島秀和他
企画・製作/全国水平社創立100周年記念映画製作委員会
配給/東映ビデオ、丸の内 TOEI他、全国公開中
今月のもう1本「キャメラを止めるな!」
超低予算ながら2018年に大ヒットした「カメラを止めるな!」を、「アーティスト」でアカデミー賞(R)を受賞したフランスのミシェル・アザナヴィシウス監督と名優ロマン・デュリスでリメイク。前半は30分生放送の廃墟で撮ったゾンビ映画で、後半はその製作に携わった人々のドラマを描く、という構成はオリジナルと同じ。今年のカンヌ国際映画祭のオープニング作品として上映された。竹原芳子が仏版でも存在感を放つ。
監督・脚本/ミシェル・アザナヴィシウス
出演/ロマン・デュリス、ベレニス・ベジョ、
グレゴリー・ガドゥボワ、フィネガン・オールドフィールド、マチルダ・ルッツ、竹原芳子他
製作/2022年、フランス
配給/ギャガ
7月15日(金)より、全国公開
文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。エンターテインメント・メディア『ファンズボイス』(fansvoice.jp)を運営。
※この記事は2022年8月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。
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