「クリスチャン・ディオール」のアトリエが舞台

【映画レビュー】人間ドラマ「オートクチュール」

公開日:2022.03.20

女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今月の1本は、パリの高級ブランド「クリスチャン・ディオール」が手掛けるフルーオーダーメイドの1点もの"オートクチュール"のアトリエを舞台とする人間ドラマを描いた作品です。

【映画レビュー】3月に見るべき映画「オートクチュール」
©PHOTO DE ROGER DO MINH

パリのファッション界を舞台にした、継承の物語「オートクチュール」

「オートクチュール」
©PHOTO DE ROGER DO MINH

ラグジュアリーブランドが手掛ける“オートクチュール”といえば、顧客のためにフルオーダーメイドで作られる1点もののこと。ファッション界の頂点ともいえるこの世界を支えているのは、卓越した職人たちだ。本作は、パリの高級ブランドの一つ「クリスチャン・ディオール」のオートクチュールのアトリエを舞台とする人間ドラマである。

アトリエの責任者で腕のいいお針子であるエステルは、次のコレクションを機に引退を決意していた。ある日、移民二世で、目的もなく暮らしているジャドと出会い、彼女の手先の器用さにお針子としての素質を見出し、アトリエに見習いとして採用する。結婚することなく、仕事一筋で生きてきた中年の女性と、社会人として生きる術を見出せないまま途方にくれている若い娘。世代もバックグラウンドもまったく違う二人を、フランスの名女優ナタリー・バイと、アルジェリア移民の新生リナ・クードリが演じている。

若者には、未来を導いてくれる光が必要。そして、自分が培ったものが次の世代に引き継がれることは、退いていく者にとっても幸福なことである。一つの出会いがそれぞれの人生に輝きを与える。人間関係が希薄になりつつある今日、手仕事の継承をモチーフにしたこの物語はとても心に響く。

パリの老舗ブランドであるディオール専属クチュリエールの監修のもと撮影されたという、華やかなファッションの世界の舞台裏を垣間見られるという楽しみもある。

「オートクチュール」

パリ。「ディオール」のオートクチュール部門のアトリエ責任者エステルは、ある日、地下鉄でバッグのひったくりに遭う。後日バッグを返しにきた犯人、ジャドの手先の器用さを見込んで、見習いとして雇う。

監督・脚本/シルヴィー・オハヨン
出演/ナタリー・バイ、リナ・クードリ、
パスカル・アルビロ、クロード・ペロン、
クロチルド・クロ他
製作/2021年、フランス
配給/クロックワークス、アルバトロス・フィルム
3月25日(金)より、新宿ピカデリー、
ヒューマントラストシネマ有楽町他全国公開

https://hautecouture-movie.com/

今月のもう1本「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」

「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」
©2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえりお母さん~」製作委員会

信友直子監督が自らの両親の老老介護を描き、ヒットしたドキュメンタリーの続編。母の認知症が進む中、変わらぬ愛情を注ぎ介護する98歳の父。が、ある日母は脳梗塞で倒れ、入院生活を余儀なくされる。毎日、1時間かけて病院へ見舞い、いつか母が家に帰ってくる日を信じ、父は筋トレを始める。認知症、老老介護といった高齢化社会が抱える問題を突きつけられるが、一方で支え合う結婚60年の夫婦の物語に心を打たれる。

監督・撮影・語り:信友直子
製作/2022年、日本
配給/アンプラグド
3月25日(金)より、全国順次公開

https://bokemasu.com/

文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。エンターテインメント・メディア『ファンズボイス』(fansvoice.jp)を運営。

※この記事は2022年4月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。

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