“あの頃”の未来に立っている私たちのエレジー

映画レビュー「ボクたちはみんな大人になれなかった」

公開日:2021/12/10

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女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今月の1本は、25年前突然姿を消してしまった恋人をSNSで見つけた主人公・佐藤。一番好きだった人の記憶が蘇り、がむしゃらに生きてきた日々を振り返る――。

【映画レビュー】「ボクたちはみんな大人になれなかった」
©2021 C&I entertainment

「ボクたちはみんな大人になれなかった」

WEBで連載中から話題となり、書籍化した後もベストセラーとなった燃え殻(※著者名です)の『ボクたちはみんな大人になれなかった』が映画化された。WEB発というと、今どきな話なのだろうと敬遠しがちだが、世代を超えて共感できるところが本作の懐の深さだ。

2020年、46歳のボク=佐藤(森山未來)はフェイスブックで初恋の人・かおり(伊藤沙莉)を見つけ、思わずプロフィールに見入ってしまう。姓が変わっているため結婚していることが予想されるが、彼女は今どうしているのか? ボクは、彼女とのネット上での無言の再会をきっかけに、過ぎ去りし日々に思いを馳せる。

1995年、バイト暮らしで悶々とした日々を送っていたボクは、雑誌の投稿がきっかけで文通を始めたかおりと付き合い始める。彼女に認められたくて、六本木にある設立したばかりのテレビ美術制作会社に就職する。今なら“ブラック”間違いなしの劣悪な職場環境の中、ただがむしゃらに働くが、99年、かおりはさよならも言わずにボクの前から姿を消してしまう。

物語は、未来が見えない若かりし頃に、唯一の心の支えだったかおりとの出会いと別れを中心に、その頃出会ったまわりの人々などを通して自らの半生を振り返る。ある程度の年を経た人なら、誰でも心の中に持っている“あの頃”。その何気ない日々が、今の自分にとって、いかに重要だったかを気付くときが、人生ではいつか訪れるのだ。ボクが20代を送った90年代の街やカルチャーがスクリーンにあふれているのも本作の魅力だ。タワーレコード、小沢健二、ラフォーレ原宿、シネマライズ、WAVE。懐かしい友に偶然再会したような、感傷的な気持ちがこみ上げてくる。


監督/森 義仁
原作/燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮文庫)
出演/森山未來、伊藤沙莉、萩原聖人、大島優子、東出昌大、SUMIRE、篠原篤 他
配給/ビターズ・エンド
シネマート新宿他、全国公開中
またNetflix(ネットフリックス)にて全世界配信

 

今月のもう1本「ファイター、北からの挑戦者」

今月のもう1本「ファイター、北からの挑戦者」
© 2020 Haegrimm Pictures All Rights Reserved

ソウルへ辿り着いた脱北者のリ・ジナは、中国にいる父親を呼び寄せるため身を粉にして働く中、ボクシングに出合う。一方、10数年前に韓国に来た母親を訪ねる。ドキュメンタリー「マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白」で注目を集めた韓国の新進監督ユン・ジェホの新作。フランス留学中に出会った脱北者たちとの交流から着想を得たという出会いと絆の物語は、分断と格差が進む社会に一筋の光を与える。


監督/ユン・ジェホ
出演/イム・ソンミ、ペク・ソビン、オ・グアンノク、イ・スンミョン他
製作/2020年、韓国
配給/アルバトロス・フィルム
11月12日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町他、全国公開
 

文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。映画サイト『ファンズボイス』(fansvoice.jp)のチーフコンテンツオフィサーとしても活躍中。

※この記事は2021年12月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。

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