「お互い様」の気持ちを忘れかけた現代に問いかける

【映画レビュー】11月に見るべき「梅切らぬバカ」

公開日:2021/10/29

更新日:2021/11/01

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女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今月の1本は、家族の抱える悩みや周囲の人とのトラブルなど、日々の暮らしの中で直面している様々な問題から「生きること」について優しく問い直す作品です。

【映画レビュー】11月に見るべき「梅切らぬバカ」
©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト

「梅切らぬバカ」

プライバシーや個人の権利を守りながら、周囲の人とどのような距離を保って生きていくのか。現代人にとって、誰にでも大なり小なり思い当たる節のある身近な問題だ。往年のスター女優である加賀まりこが54年ぶりに主演した映画「梅切らぬバカ」は、ほのぼのとした雰囲気の語り口ながら、こうした日々の暮らしの中で直面している小さな問題を真摯に見つめ、「生きること」について優しく問い直す滋味深い人間ドラマだ。

ちょっと辛口だけれど人情味のある占い師の珠子(加賀まりこ)は、自閉症を抱える息子・忠男と小さな一軒家でささやかだけれど、落ち着いた生活を送っている。が、忠男が50歳の誕生日を迎えることをきっかけに、自分のいなくなった後のことを考え、忠男をグループホームに入れる。

家の隣に引っ越してきた住人から路上に迫り出している梅の木が危ないと苦情を受けたり、乗馬クラブのポニーが脱走したり、都会の小さなコミュニティでは小競り合いが日常茶飯事。だがやがて、予期せぬ行動をとる忠男たちを子どもたちが怖がるなどの理由で、グループホームは立ち退きを迫られる──。

本作は、和島香太郎監督が、自閉症の男性の一人暮らしを追ったドキュメンタリーの製作がきっかけで、この脚本に着手した。「地域の中で孤立している男性を見逃せなかった」という。人々がもう少し他人を理解しようと努め、寛容になれば、トラブルも減るかもしれないし、もっと暮らしやすくなる。珠子はグループホームの立ち退きを迫る人々にこう言い含める。「お互い様じゃないの」。最近あまり使われなくなったが、生活から生まれてきた意味深い言葉。この映画に込められた思いも代弁している。


監督・脚本/和島香太郎
出演/加賀まりこ、塚地武雅、渡辺いっけい、森口瑤子、林家正蔵、高島礼子他
配給/ハピネットファントム・スタジオ
11月12日(金)より、シネスイッチ銀座他、全国公開

 

今月のもう1本「リスペクト」

今月のもう1本「リスペクト」
© 2020 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc.
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ソウルの女王アレサ・フランクリンの人生を描く。子どもの頃から天才と称賛された歌姫の栄光と闇を通して、才能にも運にも恵まれた女性が、父や夫といった愛する男性たちの束縛やDVなどに苦しみ、自立するまでに多大な努力を要したことが赤裸々に綴られる。主演は「ドリームガールズ」でアカデミー賞助演女優賞を受賞したジェニファー・ハドソン。圧巻の歌声はそれだけでも映画館に足を運ぶ価値がある。


監督/リーズル・トミー
出演/ジェニファー・ハドソン、フォレスト・ウィテカー、マーロン・ウェイアンズ、オードラ・マクドナルド他
製作/2021年、アメリカ 配給/ギャガ
11月5日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷他、全国公開

 

文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。映画サイト『ファンズボイス』(fansvoice.jp)のチーフコンテンツオフィサーとしても活躍中。

※この記事は2021年11月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。

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