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- 【映画レビュー】英国人が見た被爆者の物語
女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今月の1本は、ピーター・タウンゼンドのノンフィクション小説『THE POSTMAN OF NAGASAKI』を映画化した作品です。
「長崎の郵便配達」
これは一人の英国人と日本人の出会い、そして彼らのことを語り継ぐ人たちの物語だ。1914年生まれのピーター・タウンゼンド氏は、第2次世界大戦で英空軍のパイロットとして活躍し、退官後は国王ジョージ6世の侍従武官を務めた。マーガレット王女とのロマンスは世界を賑わせたが破局。この恋は映画「ローマの休日」のモチーフになったともいわれている。
彼は56年に世界旅行に出たことをきっかけに作家となり、長崎で出会った谷口稜曄(たにぐち・すみてる)さんの生き方に感銘を受けて、ノンフィクション小説『THE POSTMAN OF NAGASAKI』を著した。
45年8月9日、16歳の谷口さんは郵便局員として自転車で配達中に長崎市内で被爆。背中に大火傷を負う。一面真っ黒な焼け野原になった中での奇跡的な生還だった。3年7か月の治療・療養を経て、翌月郵便局に復職。60年間にわたって被爆者運動を牽引し、海外へも講演に出向いた。2017年8月に88歳で逝去。
本作で二人の軌跡を辿るのは、タウンゼンド氏の娘でモデルや女優としても活躍してきたイザベルさんだ。父親の著書、そして残されていた音声メモなどを手掛かりに、被爆した場所や神社など縁ゆかりの地を訪ね、谷口さんの家族などに話を聞く。お盆には、死者の霊を弔う精霊流しの行事にも参加する姿が映し出される。被爆者への偏見もあった戦後、肉体的にも精神的にも戦争の痛みとともに生き抜いた、谷口さんの人生を追う。
後半は、イザベルさんが夫と子どもと住んでいるフランスで取り組んでいる演劇プロジェクトも映し出される。谷口さんをストーリーに取り入れた舞台は、子どもたちによって演じられ、戦争の悲惨さ、命の意味を伝える。
原爆が落とされた月であり、終戦記念の月である8月に観たい作品だ。
「長崎の郵便配達」
フランス在住の女優イザベル・タウンゼンドさんが、父の著したノンフィクション小説を基に、長崎を訪ね、小説の主人公である谷口さんの人生に迫る。父と谷口さんの友情をひもといてゆく。監督は気鋭・川瀬美香(かわせ・みか)。
監督/川瀬美香
出演/イザベル・タウンゼンド、谷口稜曄、ピーター・タウンゼンド他
製作/長崎の郵便配達製作パートナーズ
配給/2022年8月よりロングライドシネスイッチ銀座他、全国公開
https://longride.jp/nagasaki-postman/
今月のもう1本「ストーリー・オブ・マイ・ワイフ」
1920年代のマルタ共和国。船長のヤコブ(ハイス・ナバー)は、カフェで出会った見知らぬ女性リジー(レア・セドゥ)に結婚を申し込み、その週末に結婚する。だが、彼が留守中のリジーの行動に疑惑を抱くようになり、嫉妬に苦しむ。
「心と体と」(2018年)でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞したハンガリーの鬼才・イルディコー・エニェディによる、愛や情熱、そして結婚といった普遍的なテーマを巡る官能のドラマ。
監督・脚本/イルディコー・エニェディ
出演/レア・セドゥ、ハイス・ナバー、ルイ・ガレル、セルジオ・ルビーニ、ルナ・ウェドラー他
製作/2021年、ハンガリー・ドイツ・フランス・イタリア
配給/2022年8月より新宿ピカデリー他、全国公開
文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。エンターテインメント・メディア『ファンズボイス』(fansvoice.jp)を運営。
※この記事は2022年9月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。
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