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- 続きを知ってほしい!実写化された漫画作品のその後
リアルタイムで手塚治虫を読み、東映動画を見て育ち、累計鑑賞映画本数は1500本以上のK・やすなさんが、あふれる漫画愛をつづります。今回は、実写映画化された漫画作品から、おすすめの3作を紹介。続きを知らないのはもったいない! という作品とは?
漫画の実写化について思うこと
漫画が原作の実写化作品、多いですね。多いというより、漫画原作なしではテレビドラマも映画も成り立たなくなっているようです。
しかし、アニメーションやCGと違って、実写ならではの困難もあるでしょう。
まず、登場人物や背景などの再現度の要求レベルが、人によって違うことです。次に、時間的な制約や表現方法の違いにより、エピソードを取捨選択せざるを得ないこと。
そして、原作が未完の場合のまとめ方ですね。
良い点もあります。
- 原作プラス俳優の人気である程度の視聴者や観客が見込める(かもしれない)
- 生身の俳優がどのように演じるか楽しめる。(私は、長澤まさみと大沢たかおが、どんな具合か興味があって、キングダムを見に行きました!)
- 監督や脚本家による、映像化ならではの話の組み立て方が楽しめる
などが挙げられます。
今回は、その後の展開がとても面白く、実写版で気に入った方に、ぜひとも読んでいただきたい作品を取り上げてみました。
銀の匙(荒川弘)
映画のあらすじ
厳しすぎる父親から逃れるため、北海道の全寮制の農業高校に入学した八軒勇吾(中島健人)。都会のサラリーマン家庭で育ち、農業や酪農に無縁で将来の夢も持てない勇吾でした。
しかし、個性的な教師たち、愉快な同級生や先輩と過ごす日々の中で、命を育て食することの苦労や喜びを体験して、成長していきます。
映画は、競走馬にそりを引かせて行う「ばんえい競馬」を、主人公の八軒勇吾が学園祭で苦労の末成功させるところで終わります。
それはまだ、農業高校に入学して1年目のことで、原作でいうと6巻あたりまで。原作では、15巻まで話は続きます。
残りの学生生活の間で、勉強はできるけれど劣等感も抱えていた勇吾は、自分の進む道を見つけ出していきます。
女友達の酪農家の娘・御影アキとの仲や、父親との関係の変化も気になるところです。
原作者も農業高校出身で実家が酪農家のため、面白いだけでなく、農業という仕事の現状がわかりやすく伝わってきます。
最終巻で印象的だった、同級生で野球部の駒場と勇吾が二人で立つ大地(実は映画にも登場します)。そこがどこかは、最後のお楽しみです。
海街diary(吉田秋生)
映画のあらすじ
鎌倉の古い家に、幸(綾瀬はるか)、佳乃(長澤まさみ)、チカ(夏帆)三姉妹が暮らしています。彼女たちは、他の女性と家を出て行った父親の葬儀で、腹違いの妹すず(広瀬すず)に初めて会います。
姉たちと暮らすことになったすずですが、自分の母が姉たちから父を奪ったと思うと、すぐには打ち解けられません。
しかし、姉たちや、転校先の中学のクラスメイト、まわりの大人たちとの触れ合いの中で次第に溶け込んでいきます。
登場人物たちが毎日を丁寧に生きていこうとする姿が、鎌倉の美しい風景や梅酒作りなどの日常の生活とともに描かれます。
映画の続きにあたるストーリーは6巻からで、9巻で完結します。
看護師の幸、信用金庫の職員の佳乃、スポーツ用品店員のチカ、それぞれが自分の気持ちに正直に向き合い、誠実に恋愛や仕事に関わっていくエピソードなどが、じっくり味わえます。
もちろんすずも、クラスメイトの風太や美帆たちと友情を育みます。舞台である鎌倉の海は、うれしいときも悲しいときも彼らとともにありました。映画でリリー・フランキーが演じた喫茶店のマスターや、漫画後半から登場するすずの母方のいとこの男性がいい味出しているのも見どころです。
最終巻の9巻の表紙は、映画でも原作でも、電車のドアの前から姉たちに「うちへおいで!」と言われて、新しい生活に踏み出したすずにふさわしい絵だと思います。
四姉妹と周りの人々の三年間を見届けてほっとしたような、寂しいような気持になりました。
でも、この巻に収録されている番外編にはうれしいサプライズがあります。
すずが10年ぶりに生まれ故郷の山形を訪れるエピソードで、すずの義弟が中心に描かれていますが、後ろ姿ですずが登場するのです。
顔が見えないので、かえってすずがどんな女性になっているかと想像力がかきたてられました。
現在この義弟を主人公にした「詩歌川百景」が、2019年秋から連載中です。(月刊フラワーズ 白泉社)
またいつか、すずたちがどこかで出てくるとうれしいのですが。
この作品には法事のシーンが何度も出てきて重要な役割を果たしています。そもそもすずの父の葬儀から話が動いていくわけですし。
法事の出席者たちのやりとりからいろいろなことが見えてくるのは、実生活でもそうですよね。
登場人物の心の動きが細やかに描写されているのも、この作品の特徴です。大人に負けず、すずも友達も人の心の動きに敏感で、思いやりのある言葉のやり取りをします。
とても中学生とは思えません。今の子どもたちはこうなのでしょうか。
私が鈍感な中学生だっただけですかね(笑)。少し天然な三女のチカにホッとする私でもあります。
3月のライオン(羽海野チカ)
映画前編のあらすじ
主人公の高校生桐山零(神木隆之介)はプロの棋士です。小学生の時に両親と妹を事故で亡くして、父の親友の棋士幸田に引き取られます。
中学生でプロになりますが、同様に棋士をめざす幸田家の実子の香子と歩とうまくいかなくなり、一人暮らしを選びます。
生きるために将棋にすがるしかなかった孤独な零ですが、和菓子屋の孫娘・川本三姉妹と知り合い、時折食事を共にするようになります。
川本家との交流や、個性的な棋士たちとの対局を通じて、零は自分にとっての将棋の意味や居場所について考えながら成長していきます。
映画後編のあらすじ
後編では川本家に問題が起きます。次女の中学生ひなたのいじめ事件と、女性問題で家を出ていた父の突然の再訪です。
これらに関わる一方で、次々と厳しい対局に挑む零は、大切なものに気付いていくのです。
めざすは孤高の棋士、宗谷冬司……。
原作が未完のため、将棋関連のエピソードは映画独自の展開になります。
映画は、原作と時系列を変えたエピソードがあるので、話がかぶる部分もありますが、7巻からが続きになります。
個人的には7巻は好きな巻です。映画でも出てきたいじめ問題が見事に解決されます。(あ、ちょっとネタバレ?)学年主任が胸のすく対応をします!
原作は名言満載という点でも評価が高いのですが、7巻も私の心に響く言葉がたくさんありました。これらは回を改めてご紹介させていただこうと思います。
父親問題の解決は11巻で、良い子ぞろいの三姉妹の親とは思えないほどのクズな父親に対峙する零が見どころです。
第1巻の1ページ目「零という名前の通り、あんたには何もない」と毒づく義姉の香子のアップから始まる「3月のライオン」ですが、そこからの零の成長をじっくり追えるのも漫画ならではです。
いまさらですが、これは将棋の漫画です。
将棋に興味がある人は、ものすごく面白く読めるでしょう。
でもご心配なく!! ルールを知らなくても十二分に楽しめます。
登場する棋士たちの人物像や対局中の心理描写など、ときに重厚にときにコミカルに描かれており、話に引き込まれていきます。
シリアスなエピソードの合間に繰り広げられる、川本家の日常も楽しいですよ。川本家に食べ物と猫が絡むと、別の漫画になってしまいます。(わたしは好きです)
14巻から最新刊15巻にかけて、高校生活最後の学園祭でひなたと青春真っただ中の零ですが、これからも困難な対局が待ち受けていることでしょう。
どこまでたどり着けるのか、その過程で何を得て何を失うのか、続きが待ち遠しいです。
3作における「食」の描写 おいしく食べられる幸せ
今回取り上げた作品の中で「食」は重要な役割を果たしています。
「銀の匙」は農業高校が舞台で、「食」は生徒の将来に関わることでもあるから当たり前ですね。自家製ベーコン、石窯ピザ、しぼりたて牛乳、チーズ、とれたての野菜など、おいしそうなものがたくさん出てきます。特にベーコンは勇吾の成長と父親との関係を語る上で、特別な食べ物です。
「3月のライオン」も負けていません。何しろ川本家は和菓子屋ですから。どら焼きのような「三日月焼」や、お祭りで売る白玉ぜんざいなどもおいしそうなのですが、普段の食事の場面がいいのです。
お祝いや激励のための家庭料理盛りだくさんの食事から、お粥や卵かけご飯などの地味なものまで、とにかく賑やかに満腹で倒れるまで食べる、食べる。
孤食で粗食だった零は、川本家のペースに巻き込まれ、人との交流の心地よさを知っていきます。
「海街diary」は、前二作のように、直接「食」に関わる家庭ではありませんが、喫茶店のシラストースト、庭の梅の木から毎年作る梅酒が、物語を彩ります。
私は「おにぎり」が出てくる場面も、印象に残りました。三女のチカの夫がエベレスト登山で危機に陥ったときに、心配して家で待機してくれる人たちにふるまわれます。
「こういうときには、とりあえずおにぎり」なんだなぁと思います。稲作民族のDNAかな? 夏の定番のアニメ映画「サマーウォーズ」でも、非常事態の中で陣内一族はせっせとおにぎりを作ります。
「3月のライオン」ではもっと重要で、零が手放してはいけないものの象徴となっています。
「海街diary」で登場人物が「ごはんがおいしく食べられるのは、幸せなことだと気付いた」という場面があります。当たり前のようですが、これはとても幸せなことだと思います。
世界を見渡すと、飢餓や紛争や病気などで「おいしく食べる」余裕のない人々はまだまだたくさんいます。
おいしいと感じられる健康な体、おいしい食材を作り届け料理する人、おいしさを分かち合える人、そして、ゆっくり味わって食べられる安全な場所があることなど、「おいしいごはん」のなかにはたくさんの幸せがあるのです。
今回の作品
映画 銀の匙 2014年公開
海街diary 2015年公開
3月のライオン 前後編 2017年公開
漫画 銀の匙 全15巻 2011~2019 小学館
海街diary 全9巻 2006~2018 小学館
3月のライオン 既刊15巻 2007~ 白泉社
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