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- 【映画レビュー】家族が背負った運命『ひとよ』
50代以上の女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今回の1本は家族を守るために罪を犯した母親と"人殺しの子ども"として生きる子どもたちの葛藤を描いた『ひとよ』。家族という絆の深淵に迫る作品です。
『ひとよ』
家庭内暴力に苦しむ家族はことのほか多い。「ひとよ」は、拠り所であるはずの家庭が、地獄と化したとき母親が下した“最善の判断”により、その家族が背負った運命を描いた物語だ。
タクシー会社を営む稲村家は、酒乱の父親の暴力に日々苦しんでいた。ある日、幼い子どもたちを守るため、母親のこはる(田中たなか裕子)は、自ら運転するタクシー車両で夫を轢き殺し、自首する。
15年後、出所後各地を転々としていたこはるが、家に戻ってくる。31歳になった長男の大樹だいき(鈴木亮平)は結婚して娘もいたが、別居中だ。長女の園子(松岡茉優)は、美容師になる夢をあきらめて地元のスナックで働いている。次男の雄二(佐藤健)は、東京に出て雑誌のライターをしていたが、母が戻った知らせを受け、帰省する。
夫殺しという重い罪を犯してまで子どもたちに安全と自由な人生を与えたいと思った母親の愛と信念。一方で、“人殺しの子ども”という重い荷物を背負って生きてきた3人の子どもたちの想いがすれ違う。過去を乗り越えて、ふたたび家族は寄り添えるのだろうか。
簡単には答えを出せない重いテーマだ。それぞれの立場で、考え苦しむ母親と子どもたちに感情移入をしてしまう。特に、母・こはると次男・雄二の確執はきりきりと心が痛む、本作の核心部分である。
犯罪を犯したものの、子どもを守り抜いたことによって罪を償った今は、胸を張って正々堂々と生きようとする母親に、素直に向き合えず、自らの思い通りにいかない人生のうっぷんをぶつけようとする息子。暴力的な夫、あるいは父親をもったという不運ゆえの運命は、理不尽としかいいようがないが、それでもそれを受け入れて前に進むしかないのが人生でもある。
原作は劇団KAKUTA主宰の桑原くわばら裕子が書いた戯曲。「孤狼の血」などで知られる監督白しら石いし和彌かずやが切っても切れない家族という絆の深淵に迫る。
夫のDVに悩まされていたこはるは、3人の子どもを守るために、夫を殺害、自首した。15年後、家に戻ってきた母親に対して、成人した子どもたちはそれぞれ複雑な思いを抱く。
監督/白石和彌
出演/佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、佐々木蔵之介・田中裕子 他
配給/日活 2019年11月8日(金)より、全国公開
今月のもう1本「永遠の門 ゴッホの見た未来」
19世紀のポスト印象派の画家フィンセント・ファン・ゴッホ。生前はその価値が認められず、37歳にして非業の死を遂げた天才画家の晩年を描く。監督は『潜水服は蝶の夢を見る』(07年)のジュリアン・シュナーベル。自らも成功した画家らしく、南仏の自然の中でのびのびと絵を描くことの幸福感がスクリーンいっぱいに広がる。通常の伝記映画とは一線を画す、ユニークなアプローチも見どころ。
監督・脚本/ジュリアン・シュナーベル
出演/ウィレム・デフォー、ルパート・フレンド、
マッツ・ミケルセン他
製作/2018年、イギリス・フランス・アメリカ
配給/ギャガ、松竹
2019年11月8日(金)より、新宿ピカデリー 他、全国公開
文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞、webサイトなどで執筆やインタビューを行う他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。共著『おしゃれも人生も映画から』(中央公論新社刊)が発売中。
※この記事は2019年12月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。
※雑誌「ハルメク」は書店ではお買い求めいただけません。詳しくは雑誌ハルメクのサイトをご確認ください。
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