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- 【映画レビュー】「プチ・ニコラ パリがくれた幸せ」
女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今回は、アヌシー国際アニメーション映画祭で最高賞を受賞したアニメ。フランスで出版され、世界的ベストセラーになった児童書の映画化だが、大人でも楽しめる見応えのある作品だ。
「プチ・ニコラ パリがくれた幸せ」
![「プチ・ニコラ パリがくれた幸せ」](https://halmek.co.jp/media/uploads/68de639a745a73a8674aea3747be55861687411444.9037.jpg)
「大人が見ても楽しいアニメーション」という言葉をよく見かけるが、本作は大人でこそ心に響く滋味深い作品だ。原作の「プチ・ニコラ」はいたずら好きの少年ニコラのおかしくも楽しい日常を描き出す。1959年にフランスで出版されて以来、今もなお読み続けられている児童書のベストセラーだが、日本上陸当初は大人用の読み物として発刊されたくらい読み応えがある。
イラストはジャン=ジャック・サンペ、文章はルネ・ゴシニが担当。二人は友人でもあった。
映画「プチ・ニコラ」は、構成がユニークだ。原作からのエピソードの引用だけでなく、二人がどのようにプチ・ニコラの物語を創造したのか、創作の裏側にも迫る。ストーリーの中から飛び出したニコラが、作家たちと会話しながら、現実と物語の中を行き来する。
サンペのイラストはペンの繊細なタッチが独特だが、淡い水彩画のように色付けされたニコラの世界がノスタルジックな1950〜60年代のパリを舞台にスクリーンで展開される様は、原作ファンでなくても心躍る瞬間である。
しかしながらこの映画が最も魅力的なのは、二人の作家の半生が描かれていることだろう。ユダヤ系ポーランド人の家に生まれ親族をホロコーストで亡くしたゴシニ。親子関係に恵まれなかったサンペ。二人が得られなかった明るく楽しい理想的な子ども時代は、「プチ・ニコラ」に反映されていたのだ。
77年にゴシニは51歳の若さで逝去しているが、本作には娘のアンヌが携わっている。名著が初アニメ化されるまで50年以上の月日が流れたが、機が熟したのだと大いに納得する出来栄えだ。
「プチ・ニコラ パリがくれた幸せ」
パリのカフェ、イラストレーターのサンペは友人で作家のゴシニに共作の提案をする。主人公は少年ニコラ。かくして二人は物語を紡ぎながら、望んでも得られなかった幸せな子ども時代を追体験する。アヌシー国際アニメーション映画祭で最高賞〈クリスタル賞〉を受賞。
原作/ルネ・ゴシニ、ジャン=ジャック・サンペ
監督/アマンディーヌ・フルドン、バンジャマン・マスブル、グラフィック・クリエーター/ジャン=ジャック・サンペ
製作/2022年、フランス
配給/オープンセサミ、フルモテルモ
2023年6月9日(金)より新宿武蔵野館他、全国順次公開
今月のもう1本「逃げきれた夢」
![今月のもう1本「逃げきれた夢」](https://halmek.co.jp/media/uploads/5a1bfd2129a8a0fa605274696a672f3d1687411474.4596.jpg)
ふとしたことから人生に疑問を抱いた定時制高校の教頭・末永周平は、冷え切った妻との関係を見直し、溝ができてしまった娘との絆を取り戻そうとするが……。
名バイプレイヤーとして知られる光石研(みついし・けん)が12年ぶりの主演作で、“中年の危機”に直面した男の不安と混沌を人間味あふれる姿で炙り出す。「これでいいのだろうか」という思いに多くの人が共感を覚えるはず。今年のカンヌ国際映画祭「ACID部門」に出品された話題作。
監督・脚本/二ノ宮隆太郎
出演/光石研、吉本実憂、工藤遥、坂井真紀、松重豊他
製作/木下グループ 配給/キノフィルムズ
2023年6月9日(金)より新宿武蔵野館他、全国順次公開
文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。エンターテインメント・メディア『ファンズボイス』(fansvoice.jp)を運営。
※この記事は2023年7月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。
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