魂の揺れの間で生き延びることと

映画レビュー『コンクリート・ユートピア』

公開日:2024.01.27

女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今回は、アカデミー賞韓国代表作に選ばれた『コンクリート・ユートピア』。究極の状況に置かれたとき、私たちならどうするだろうか…?その答えが最後に聞ける作品です。

映画レビュー『コンクリート・ユートピア』
(C)2023 LOTTE ENTERTAINMENT & CLIMAX STUDIO,INC.ALL RIGHT RESERVED

「コンクリート・ユートピア」

「コンクリート・ユートピア」
(C)2023 LOTTE ENTERTAINMENT & CLIMAX STUDIO,INC.ALL RIGHT RESERVED

極限状態に置かれたら、人はどんな行動を取るのだろうか?

お腹をすかせても他人に食べ物を与えられるほど寛容になれるのか?率先して危険な仕事を引き受けられるのか?平和な時代に生きている私たちでさえ、潜在的に抱えているこうした疑問に真っ向から挑むのが本作だ。

巨大な地震によりあっという間に廃墟と化したソウル。奇跡的に崩落せずに残った「ファングンアパート」には住居者以外の生存者たちも詰めかけ、殺傷事件や放火なども起こり混乱を極めていた。

生き延びるために住民たちは、外部の人々を追い出しマンションを“ユートピア”に築き上げようと、ヨンタク(イ・ビョンホン)をリーダーに祭り上げたが、やがて彼の独裁者としての顔が浮かび上がる。

防衛隊長のミンソン(パク・ソジュン)と妻ミョンファ(パク・ボヨン)は、そんなヨンタクに不信感を抱き始めるが、ある日、ヨンタクの隣室の娘ヘウォン(パク・ジフ)が帰宅したことによって、ヨンタクの本当の顔が暴かれる。

キャラクターたちが見事に描かれており、それぞれの“正義”と“選択”は、どれも一理ある。例えそれが道義的に許されないものであったとしても、何かしらの同情や共感を得られるだろう。

本作はSFパニックスリラーという娯楽作のジャンルに属するといえるが、決して「面白かった」では終わらない。人間の感情を掘り下げ、その暗闇まで覗き込もうとする野心さえ感じさせる。

観客は、映画を見ながらおそらく常に自問し続けるだろう。「私ならどうするだろう?」と。ラストシーンのミョンファの言葉は、私たちに対するその答えだともいえる。この言葉を聞くためだけでも見る価値がある。

コンクリート・ユートピア

大震災により廃墟と化したソウルで倒壊を免れたファングンアパート。生真面目でやさしい性格のミンソンは、妻ミョンファを守るため、住民代表となったヨンタクの指示で防衛隊長となる。アカデミー賞韓国代表作。

監督・脚本/オム・テファ
出演/イ・ビョンホン、パク・ソジュン、パク・ボヨン他
製作/2023年、韓国
配給/クロックワークス
2024年1月5日(金)より、新宿バルト9他、全国公開
https://klockworx-asia.com/CU/

今月のもう1本「ミツバチと私」

今月のもう1本「ミツバチと私」
(C)2023 GARIZA FILMS INICIA FILMS SIRIMIRI FILMS ESPECIES DE ABEJAS AIE

バカンスを過ごすため家族とともにフランスからスペインにやってきた8歳のアイトールは、自分の性自認がわからず、心を閉ざしていた。豊かな自然に触れ、叔母が営む養蜂場でミツバチの生態を知ることで心がほぐれていくが――。

8歳の子どもの自分探しの旅とそれに寄り添う家族の美しい物語。主演のソフィア・オテロは自然で素晴らしい演技が評価され、ベルリン国際映画祭で史上最年少(9歳)で最優秀主演俳優賞を受賞。

監督・脚本/エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン
出演/ソフィア・オテロ、パトリシア・ロペス・アルナイス、アネ・ガバライン他
製作/2023年、スペイン 配給/アンプラグド
2024年1月5日(金)より新宿武蔵野館他、全国順次公開
https://unpfilm.com/bees_andme/

文・立田敦子

たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。エンターテインメント・メディア『ファンズボイス』(fansvoice.jp)を運営。

※この記事は2024年2月号「ハルメク」に掲載された内容を再編集しています。

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