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- 映画レビュー|伝統の世界の今の物語「バカ塗りの娘」
女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今回は、日本を代表する伝統工芸の継承問題、昔ながらの家父長制度、女性の自立、結婚・離婚、LGBTQといった今日的なテーマが自然な流れで盛り込まれた、現代の家族を描く作品。
「バカ塗りの娘」
![「バカ塗りの娘」](https://halmek.co.jp/media/uploads/75c140d3601436d9bf49d9f8aa3af58a1695173811.804.jpg)
漆塗りは、日本を代表する伝統工芸の一つだが、青森県の「津軽塗」は、通称“バカ塗り”と呼ぶのだそう。この場合の“バカ”とは、「バカ正直」などに使われるバカと同様で、「並外れた」という意味だ。
完成までに48工程もあり、塗っては研ぐを手間ひまかけて繰り返すことが、その呼称の由来だ。
本作は、その津軽塗を家業にしている青木家の物語である。文部科学大臣賞を受賞したこともある名匠の祖父は高齢者施設におり、息子の清史郎が工房を引き継いでいる。
廃れていく伝統工芸の道ひとすじの男に愛想をつかし、妻は家を出ていき、長男のユウは自分なりの生き方を求めて美容師になり外で暮らしている。23歳になる娘の美也子は相変わらず家におり、スーパーで働きながら家業を手伝っている。
父と娘。年季の入った工房で黙々と漆を塗る工程をカメラは厳かな眼差しで捉える。整然と研ぎ澄まされた職人技は、それだけでもこの作品を見る価値があると思わせるが、この静かな家族にも内側には嵐のようなドラマがある。
ユウはさらに自由を求めて外国で暮らすと言い、同性の恋人を連れてくる。普段は引っ込み思案でおとなしい美也子は漆を自分なりに極めて、新たな挑戦に出たいと父と対立する。
伝統工芸の継承問題、昔ながらの家父長制度、女性の自立、結婚・離婚、LGBTQといった今日的なテーマが自然な流れで盛り込まれ、深みのある物語に仕上がっている。
原作は青森を拠点に創作活動を続ける髙森美由紀(たかもり・みゆき)氏による小説『ジャパン・ディグニティ』。
ディグニティとは英語で「尊厳」の意味だが、誰でも自分なりの幸せを求め尊厳のある人生を求める権利があるのだ。この映画は静かながら、そうした寛容と優しさに満ちている。
「バカ塗りの娘」
津軽塗職人の清史郎(小林薫)と二人暮らしの美也子(堀田真由)はスーパーで働きながら家業を手伝っていた。ある日、本格的に津軽塗の道に進む決意を父に告げるが、そんな美也子を父は無下に突き放す。
監督/鶴岡慧子
出演/小林薫、堀田真由、坂東龍汰、宮田俊哉、木野花、坂本長利他
製作/「バカ塗りの娘」製作委員会
配給/ハピネットファントム・スタジオ
2023年9月1日(金)より、全国公開
https://happinet-phantom.com/bakanuri-movie/
今月のもう1本「ルー、パリで生まれた猫」
![今月のもう1本「ルー、パリで生まれた猫」](https://halmek.co.jp/media/uploads/994ea554a4c9d579407b3a2f19231b381695173833.5405.jpg)
10歳の少女クレムは屋根裏で見つけた生まれたばかりの子猫にルーと名付けて、一緒に暮らし始める。クレムの家族と一緒に訪れた森の別荘での野生体験を“都会育ち”のルーはどう受け止めるのか。
両親の不仲により孤独を感じる少女と愛らしい子猫を通して描かれる成長譚。子どもと猫の目線から見る世界は、冒険と驚き、感動に満ちていて、大人にも新鮮な気付きをもたらしてくれる。ぬくもりのある愛すべき小品。
「ルー、パリで生まれた猫」
監督/ギヨーム・メダチェフスキ
出演/キャプシーヌ・サンソン=ファブレス、コリンヌ・マシエロ他
製作/2023年、フランス・スイス
配給/ギャガ
2023年9月29日(金)より新宿ピカデリー他、全国順次公開
https://gaga.ne.jp/parisnekorrou/
文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。エンターテインメント・メディア『ファンズボイス』(fansvoice.jp)を運営。
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