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- 映画レビュー|生き様を見る「ケイコ 目を澄ませて」
女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今回は、本作は、聴覚障害というハンデを負いながらボクシングに魅せられ、プロボクサーとして鍛錬を積む一人の女性・ケイコのひたむきな生き様を描いた物語。
「ケイコ 目を澄ませて」
本作は、聴覚障害というハンデを負いながらボクシングに魅せられ、プロボクサーとして鍛錬を積む一人の女性・ケイコのひたむきな生き様を描いた物語だ。
舞台となるのは、下町の小さなジム。日々、黙々と練習に励むケイコ(岸井ゆきの〈きしい・ゆきの〉)は、あまり笑わず愛想もないが、そんなケイコの情熱や人間性をよく理解しているのでだろう、ジムの会長(三浦友和〈みうら・ともかず〉)をはじめ周囲の人たちは温かく支えている。
母からは「いつまで続けるつもりなの?」とあきれるように言われ、自分自身も「一度、お休みしたいです」と書いた手紙を会長に渡せずにいるところを見ると、迷いがないわけではなさそうだ。そんなとき、体調の悪化を理由に会長がジムを閉めると発表する……。
聴覚障害のある実在のボクサー・小笠原恵子(おがさわら・けいこ)さんの著書『負けないで!』を原案としているが、その半生をそのまま物語にするのではなく、プロボクサーになり第2戦に勝利し、第3戦までの期間に焦点を当てているのは英断だったと思う。
人生において新たなステージを迎える20代後半のケイコの揺れ動く感情にカメラは寄り添い、私たちは、その迷いや痛み、憤りに共感する。
興味深いのは、この作品が「音」を際立たせていることだ。紙にペンが擦れる音から雑踏の喧騒まで、普段は無意識に聞き流している世の中にあふれる音を改めて“聴く”ことによって私たちは、新しい感覚でケイコの日常を見つめることになる。
ケイコを演じた岸井ゆきのの演技が見事。セリフを発することはないが、“プロボクサー”に造り上げた肉体と瞳で、ケイコとは何者なのかを雄弁に語り尽くしている。
「ケイコ 目を澄ませて」
両耳が聞こえないケイコは、再開発が進む下町の小さなボクシングジムで鍛錬を重ね、リングに立ち続ける……。『きみの鳥はうたえる』(2018年)などで日本の新世代監督として世界的な注目を浴びる三宅唱監督の最新作。
監督/三宅唱
出演/岸井ゆきの、三浦友和、三浦誠己他
製作/2022年、「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会
配給/ハピネットファントム・スタジオ
2022年12月16日(金)よりテアトル新宿他、全国公開
https://happinet-phantom.com/keiko-movie/
今月のもう1本「あのこと」
中絶が違法だった1960年代のフランス。優秀な大学生のアンヌは、想定外の妊娠に愕然とする。出産すれば学業を諦めなければいけない。アンヌは未来と夢のためにあらゆる出産回避の手段を試し、一人闘う。
2022年のノーベル文学賞に輝いた作家アニー・エルノ−が自らの壮絶な体験を描いた短編『事件』が原作。女性の精神と肉体にもたらされる負担、不安、混乱など普遍的な物語を映像化し、見事ヴェネチア国際映画祭で最高賞を受賞。
原作/アニー・エルノー『事件』
監督/オードレイ・ディヴァン
出演/アナマリア・ヴァルトロメイ、サンドリーヌ・ボネール他
製作/2021年、フランス 配給/ギャガ
2022年12月2日(金)よりBunkamuraル・シネマ他、全国順次公開
https://gaga.ne.jp/anokoto/
■文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。エンターテインメント・メディア『ファンズボイス』(fansvoice.jp)を運営。
※この記事は2023年1月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。
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