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- エッセー作品「一丁上がり」石川久子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月のテーマは「仕上げる」です。石川久子さんの作品「一丁上がり」と山本さんの講評です。
一丁上がり
先日、久しぶりに映画を観に行った。
観たい映画はたくさんあるのだが、時間がない。
2時間、椅子にすわり、動かず、集中して映画を観る。
私にとっては、貴重な時間だ。
家にいても、テレビでも、DVDでも観ることはできる。
しかし、雑音が入るのだ。夫が何か言ったり、犬がさわいだり、どうかすると宅急便がきたり。主婦は忙しい。
そこで、夫が出かけていて留守の時をねらって、スマホのアプリから観たい映画と上映時間を選ぶ。
仕事の電話が入りそうなところにあらかじめラインを送り、2時間は、連絡がとれないと伝える。
ここまですれば準備万端。あとは、映画館に向かうだけ。
スマホを切って、集中する。
コーラを片手に至福の一時(ひととき)だ。
それに比べて、本はいつでも、どこでも、ちょっとの時間でも読める。
何を読むかと言うと、推理小説、刑事もの、旅行小説、歴史小説、エッセーと様々だ。
コロナ前は大きな本屋に行き、あちこち見て廻り選ぶのが好きだった。
しかし、長い時間店内にいるのは気が引ける。
そこで今は、新聞にのる新刊本や話題の本、賞をとった本等をスマホのブックアプリにダウンロードし、もっぱら電子図書を使っている。
ただし、本も高くなっているから、1ヶ月2冊程ときめている。
読んだ本がたまると、捨てられないし、1冊10円とか言われると売るのも嫌だ。
スマホ1台で何十冊も本が読める。
銀行のちょっとした待ち時間、病院の待ち時間、電車の中と便利に使っている。
『収容所(ラーゲリ)からきた遺書』(辺見じゅん著)を読んだ。
1950年生まれの私は、戦争を知らない。自分は戦後生れとずっと思っていた。
しかしこの本を読んで、それは違っていたと思った。
終戦後、10年間もの間、ソ連の酷寒な収容所にいれられていた人達がいたと知った。
読み終わってしばらくして、映画化されると聞いた。
「よし、観に行こう」
いつもそう思っても、ロードショーはあっと言う間に終ってしまう。
何回もスマホで上映しているか、行ける時間があるか確認し、思い切って観に行った。
本を読んだ時感じた事と、映画が訴えたかった所と少しちがう気はしたが、観おわった後は感動で胸がいっぱいになった。
本を読んで、映画を観て、私の中では、一丁上がりの気分で映画館を後にした。
山本ふみこさんからひとこと
結びの「一丁上がり」というのが、スゴイ!
原文のタイトルは「読書と映画」だったのですが、「一丁上がり」を使うことにしてみました。
印象的な文言をタイトルとすると、そのことばに出合ったときのときめきが薄れることがあります。ですからこのたびも迷ったのですが……そうしてみました。
『収容所(ラーゲリ)からきた遺書』(辺見じゅん)が文中にあらわれます。書き手はこれを読み、映画化された「ラーゲリより愛を込めて」も観たのです。
わたしは映画を観ました。
第二次世界大戦終了後、多くの日本人(約60万人だったそうです)がシベリアの強制収容所(ラーゲリ)へ不当に抑留されたという過酷な歴史的事実を前に、勇気を奮い起こして観たのです。
鑑賞後、「ああ、この作品のテーマはことばだ」と思いました。
「え?」と思われたあなたさまは、ぜひ映画を観てください。わたしは本を読みます。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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