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- エッセー作品「私の『昨日』」中村今日子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第9期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。テーマは「昨日」です。中村今日子さんの作品「私の『昨日』」と山本さんの講評です。
私の「昨日」
私の「昨日」を書くのに参考になるか⁉と借りた茂木健一郎著の『わたしの3.11」は、私達の忘れっぽさに警告を発する。
私の分裂病の苦は37年を経て、落ち着いている。
14年前幻聴があらわれたときには、忸怩(じくじ)たる罵詈雑言を吐いていて、今、穏やかで明るく生きようとしている自分とは、全く別人のようだ。
精神病院に閉じ込められた記憶だけが残っている。
そんな私を立ち直らせてくれたのが、二女の産んだ双子の男の子だった。
私達は「家族」として繋がった。
精神障害を乗り越えて「家族」としてやっと繋がった。
ところがである。
4年間の同居生活が終わると、又幻聴が余震のようにあらわれた。
が、37年前のような大病を病むこともなく、男女共同参画家族となった配偶者に、もう50代の頃のように三行半(みくだりはん)を書くこともなく、幻聴に怒りながら、日々をやり過ごしている。
今は衣食住の満たされた暮らしに、ときどき旅出来る幸せに、ほぼ満足している。
旅をポジティブに楽しむ。
これが執筆と料理に向かうエネルギーになっている気がする。
モットーは「今を生きる」。ペンネームも「今日子」にした。
辛かった今までのことは私の中で「昨日」になっている。
私は家住期(※)に病を抱え、働けなかったので、貯金は全くない。
だから林住期(※※)の今、社会と繋がりながら、遊行期(※※※)のようにゆっくりと自由でとらわれない生き方が少しずつ出来たなら、いい。
収入を得る仕事が出来れば、私の暮らしは、今よりもっと活発になると、体が老いるのを忘れて、考えている。
好きなこと、得意なことを仕事に出来れば、それは幸せな老後だろうという境地なのである。
※家住期(かじゅうき)25~50歳を指す。
※※林住期(りんじゅうき)50~75歳を指す。
※※※遊行期(ゆうぎょうき)75歳から死までを指す。
山本ふみこさんからひとこと
「中村今日子」の作品に、ずっと注目していました。
闘病、仕事上の不遇ほかにも、さまざまの葛藤を生き抜いた書き手の作品には、いつも気迫がこもっていたからです。気迫といっても、いつもそれはやわらかく、「正直」が貫かれています。
「私の『昨日』」は、ひとつの集大成。生まれてきてよかった、と思わず声をかけたくなるような、作品でした。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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