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- エッセー作品「ハシユキオ」磯野昌子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第9期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。テーマは「昨日」です。磯野昌子さんの作品「ハシユキオ」と山本さんの講評です。
ハシユキオ
ビートルズの「イエスタディ」。
この歌は、団塊の世代の私にとって懐かしい青春のひとときを思い出させてくれる。あの頃は、多くのグループサウンズの曲が流れ、ゆったりとした中で歌詞をかみしめ共感したものだった。
しかし今、テレビから流れてくる曲を聞いても歌詞はこみいっていて、しかも曲が速くて動きがアップテンポで目まぐるしく落ち着かない。
世の中の流れがスローではなくなった。
ファストフードで注文したら5分待っても出てこないとイライラし、ピザを頼んで30分で来なければ文句を言うようになる。
わからない言葉は辞書で調べていたものがパソコンで検索すればすぐに見つかる。
店で買っていたものもネットで注文し、外出せず自宅で仕事をするような時代になった。こんなことに慣れてしまったら、これからどうなるのだろう……。
昔、女子校の中学に入学したとき、宝塚の話題で盛りあがった。
私は知らなかった。「ヅカって何?」女性が男装し、それを見てあこがれ、テーリーだとかスミハナヨが素敵という宝塚ファンにはなれなかった。
どちらかと言うと歌謡曲のほうが私には合っていて、ハシユキオが好きだった。
歌手生活60年の彼は、今年引退する。曲を後世に伝えることを考えたとき、橋幸夫の名前を引き継いでくれる人を選ぶと芸能ニュースが伝えた。
中学校で、ハシユキオに夢中だった私は異色でからかわれたが、なぜ彼なのか理由は誰にも言わなかった。
小学5年生のとき、高校1年の兄が溺死した。その面影がハシユキオにあり、年も同じ高校生だった。
お正月公演に、1人で新宿のコマ劇場に観に行き満足したことを覚えている。
遠い昔のことでも、昨日のように浮かんでくる。
同窓会に行くと「今でも好きなの?」と言われ「まさか……」と笑うが、私の心の内は誰も知らない。
山本ふみこさんからひとこと
ゆっくり昔のことを思いだし、音楽の話を書きながら現在までもどってこようという道の途中で、兄上の死の事実が明かされます。
このさりげない書き方に打たれます。悲しかった、辛かったとはひとつも書かかれていないのに、読み手の胸には驚きと静かな感慨が生まれます。そうしてハシユキオです。
この作品の読者は、それぞれにハシユキオ(橋幸夫)を思うのです。「磯野昌子」のお兄上を思う心持ちで。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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