通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第4期第6回

エッセー作品「一撃(いちげき)」かわばたえつこさん

公開日:2022.10.04

随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。 今月の作品のテーマは「天使」です。かわばたえつこさんの作品「一撃」と山本さんの講評です。

「一撃(いちげき)」
エッセー作品「一撃(いちげき)」かわばたえつこさん

一撃(いちげき)

庭で薔薇の枯れ葉に手を伸ばしたとき、背中の筋肉がピリッと音を立てて裂けるような感覚を覚えた。
ぎっくり腰だった。庭からどうやって家に入り、二階のベッドに倒れこんだのか覚えていない。

これまでにも経験があったので、少し体をいたわっていれば治るだろうと思ったが、なかなか痛みがひかない。
病院に行きレントゲンを撮り、とりあえず骨は大丈夫と言われ痛み止めと湿布を処方された。
看護師さんからも薬剤師さんからも、タクシーを呼びましょうかと心配されるほど、ひどい顔をしていたようだ。

とにかく動けば痛いので、横になって本を読んでみたが、いつの間にかウトウトしている。
何も出来ないので、このところ心にわだかまっている実家の片付けのことを考えていた。

両親がまだ比較的元気なころ、使っていない大きな家具やふとんを弟が大型ごみに出してくれた。
とにかく物を捨てるのに抵抗のある母が、「何でもかんでも捨てないで」
と声を荒げ弟とけんかになった。
いつもは無口な父も、「若いころは物がなかったのだ。お前たちも八十を過ぎたらわかる」と母を援護した。
結局、両親の生きている間はもうこれ以上は手を付けられないと思い、最後は私が始末すると決め、そのまま見ないようにしてここまで来た。

父が亡くなり、母の三回忌も過ぎ、冬の除雪や空き家の維持の手間を考えて、実家を解体することになった。
いよいよあと1か月で最終処分である。
残っていたのは、食器や洋服、着物、手作りの人形やバックなど、捨てがたいものばかり。
食器は業者に持ち込んだが、段ボール箱1個分で20円。洋服は大きな袋に入れてチャリティーに出し、Tシャツやブラウスなどが90枚も入った。
手作りの作品は、姉弟やいとこに形見分けし、古いお雛様はお寺で供養してもらった。

最後は着物だった。
周りの友人に聞くと、皆困っていて、買い取りではかなり安いから、全部リサイクルに出したという人もいた。
着物を包む畳紙(たとう紙)に「昭和57年、付け下げ」などと書かれた母の文字を見ると、ただリサイクルに出すのは忍びなく、業者に1枚ずつ見てもらい納得の上で買い取ってもらった。

両親の大切にしていたものを処分したストレスが私の腰に大きくのしかかったのかもしれない。
だが痛みで動けない間、考える時間を手にしたことで、両親の遺したものと向き合い、物を通してもう一度両親と対話したことに気づいた。
後悔や怒り、申し訳なさを少しずつ手放し、気が晴れていった。

ぎっくり腰は英語で「魔女の一撃」とも言われるらしいが、今回は私の心を軽くした「天使の一撃」の時間となったのかもしれない。

山本ふみこさんからひとこと

ものを書くときに問われるのは、事のとらえ方、受けとめ方です。同じ出来事を描くのでも、とらえ方受けとめ方によって、それはまったく異なるものになります。

この作品の好きなところは、明るさです。ぎっくり腰さえも、「かわばたえつこ」にかかれば光を放ちます。 

通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。

現在は第5期の講座を開催中(募集は終了しました)。次回第6期の参加者の募集は、2022年12月を予定しています。詳しくは雑誌「ハルメク」2023年1月号の誌上とハルメク365WEBサイトのページをご覧ください。


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ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪

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