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- エッセー作品「心配なのです」八田りえ子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第7期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第6回の作品のテーマは「天使」です。八田りえ子さんの作品「心配なのです」と山本さんの講評です。
心配なのです
若い妊婦が骨折して入院している。毎日夫が見舞いに来て仲睦まじい。
この患者に嫉妬している看護師がいる。
ギプス交換のため、皆でベッドからストレッチャーへこの患者を移す時、彼女はわざと手を離しこの患者を落としてしまう。
故意とわからないよう巧妙に。
渡辺淳一の『白き手の報復』の中の一編だ。
32才の時、私は入院してベッドで安静にすることになった。
幼い子3人を両親にあずけて、久しぶりにゆっくり本を読もうとこの本を買った。
病院を舞台とするサスペンス風の物語数編が収録された本だった。
読みながら恐くなった。
入院中にこんな本は読むべきじゃない!と思いながらも、一気に読んだ。
「大丈夫。私の夫は見舞いに来ない。私はわがまま言ってない。
それにそんなに幸せそうな奥さんに見えない」と言い聞かせ、自分を安心させた。
入院から1週間後手術することになり、手術当日の朝、心配な私は看護師さんに聞いた。
「もし手術中に先生が倒れたら、私はどうなるんですか。おなかを開いたまま放っておかれるんですか」
すると看護師さんは目を丸くして言った。
「そんなこと聞かれたの初めて!」
そして一瞬間を置いて笑いながらきっぱりと言うのだった。
「大丈夫ですよ。ほかにも先生はいるので」
けれど私は知っていた。産科の先生は1人しかいないことを。
しかしそんな事は起こるはずもなく手術は終わり、白き手の報復もなかったのでした。
最近東京へ行く時私は高速バスに乗る。
バスから見える景色と、乗り換えなしで東京駅まで着くのを気に入っているからだ。
先日東京へ行く日の朝のニュース。
中国で国内線の旅客機が墜落したのは、パイロットの心の問題が原因であり、意図的に墜落させたと結論づけたというのである。
これを見た後私はバスに乗ることになったのだ。
その日の運転手さんを見て思う。
昨夜十分睡眠をとれたかしら。家庭生活は円満かしら。
独身だとしても、心に闇を抱えていないかしら、と。
バスが大きな橋を渡る時、橋には防護壁が無いので、ハンドルを左に切ればバスは川に転落。
泳げない私は死ぬ。
そう思いながらもスカイツリーが見えてくると、あー東京だなあと心が弾むのです。
山本ふみこさんからひとこと
『白い手の報復』を題材にした1本と、高速バスをめぐる1本と。どちらもサスペンスの香りが漂っています。
この作品のおもしろさは、エッセーというジャンルを超えたところに広がります。書き手ならではの想像力が、発揮されています。この作品に触れた皆さんも、いつもとは異なる世界観で作品に取り組んでみたら……、いかがでしょう。
ちょっとサスペンス。ちょっとフィクション。
「心配なのです」(タイトルも、いいですねえ)は「である調」で描かれています。しかし、2本の短編の結びだけ「です・ます調」になっています。
こういうのは、ありなのです。混在させると散らかりますが、この扱いは、強調の効果を上げています。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
現在は第8期の講座を開催中(募集は終了しました)。次回の参加者の募集は2022年12月を予定しています。
詳しくは雑誌「ハルメク」2023年1月号の誌上とハルメク365WEBサイトのページをご覧ください。
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