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- エッセー作品「限界野菜」甲斐てい子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コースの参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第3回の作品のテーマは「めったにない」です。甲斐てい子さんの作品「限界野菜」と山本さんの講評です。
限界野菜
春のある日、思いがけずたけのこを頂く。
うれし。さっそく若竹煮とたけのこご飯にしよう。今夜は日本酒だね。
と、と。ねぎが無い。ねぎのあおいところ。冷蔵庫の野菜室をもう一度さがす。
お、ねぎ用の袋に上半分のあおいところが残っているではないか。
野菜たちにはさまって、プレスされている。
大事に取り出し水につけて蘇生をはかる。
夏のある日、ドライカレーを作る。
夏場のわたしは横着だ。料理は手に入る材料で作ればいいと思っている。
そこで野菜室のはんぱ野菜をつぎつぎみじん切りにした。
おっと、セロリが無い。にんじん、ピーマンは無くてもわたしは全くかまわない。が、セロリは外せません。
そこで野菜室の捜索にかかる。たとえ10センチ、いや7センチでも手を打とう。
ふ、ふ、ふ。あるではないか。第1関節より上の部分。細くなって枝わかれしているところ。
このままみじん切りにしては包丁の刃当たりが気持ちわるいから、水につけて少しでも若がえりをはかる。
他の材料のしたくをしながら様子をみる。
時にゆすって叱咤激励する、キミナラダイジョウブダヨ、と。
やみくもにセロリを探したわけではない。先週買ったことはおぼえていた。いやもっと前かな?
近頃、料理が残ることが多い。
そうしてかげんして作ると、こんどは食材がのこるのだ。
大根5センチとか、キャベツ6分の1とか、ニラ2分の1束、生シイタケ半パックなど。
週に1度ほどはんぱ野菜総出演の総合野菜いためでもすれば野菜室はスッキリする。
それでも残ったものはゴミの日まで現場待機となる。
忘れられると食べる、捨てる、の境界を越えて限界野菜となるのだ。
そしてある日、料理の決め手となるスーパースターとなる! こともある。
山本ふみこさんからひとこと
甲斐てい子という作家の中に隠れていたユーモア、面白がりの勢いが強くなってきています。作家ご本人は、ここ数か月、その勢力と向き合って、苦労したのではなかったでしょうか。
こうした苦労の時期を、「スランプ」と呼ぶことがあるわけですが、これこそ書き手のチャンス。大切にしたいものだなあ、とあらためて思ったことです。
ところで、「限界野菜」の始まりのところに、「と、と、ねぎが無い」というくだりがあります。ねぎは、作ろうとしている若竹煮、あるいはたけのこご飯の何に使うのか、書いておかなければなりません。ぜひ、加筆してください。
この作品の読者には、「限界野菜」という見方を与えられたことでしょうね。
わたしも、です。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
現在第6期の講座を開講中です。次回第7期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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