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- エッセー作品「犯人はどうします?」高木佳世子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コースの参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第3回のテーマは「めったにない」です。高木佳世子さんの作品「犯人はどうします?」と山本さんの講評です。
犯人はどうします?
ある日、玄関を出て、車に乗ろうとしていた。側溝のふたのすきまから、何か出ている。
が、もう1度見た時にはなかった。用を済ませて帰宅すると、先に帰っていた娘が云う。
「お母さん、駐車場にヘビいなかった?」
「え、ヘビなんかいなかったよ。」
「ロープかなんか落ちているのかなぁと思って見たらヘビだった。ほら。」
そう云って娘はスマホをこちらに向けた。
ヘビが映っている。
大きい。1メートル半はある。いろいろしらべて青大将かな、ということになる。危険というほどではないようだが、少々不安だ。
家族が帰宅する度、「見なかった? いなかった?」とヘビの話になる。
そもそも、どこから来たのか。
そういえば2~3日前、近くの空き地で草刈りが行われ、ものすごくさっぱりしていた。
「あの草むらにいたのに、すみかが、なくなったんだよ。」
「お引っこしの途中だよ。」
我が家にとどまることなく、どこかに行くに違いないと話はまとまり、その日は休んだ。
ところが、である。
朝、玄関を出たら、百日紅の幹に巻きつき、頭をもちあげてあたりを見わたすヘビがいた。
ポストから急いで新聞をとって家に入る。
もう1度そっとドアのすきまからのぞくと、ヘビ君は朝日をあびて気もちよさそう。
呼吸をととのえて、考える。とりあえず110番することにした。
「事件ですか、事故ですか。」
「どちらでもないのですが、家の敷地内にかなり大きなヘビがおりまして、どこへ連絡すれば良いかわからずお電話しました。」
「ハイ。本来は市役所になりますが、この時間ですので、こちらで対応いたしましょう。ご住所をどうぞ。」
すぐにパトカーがやって来た。が、玄関前の百日紅にヘビの姿はなかった。
へいと木の間をのぞきこんで、おまわりさんが云う。
「ここにいますね。」
「まあ。」
「まもなくヘビとり名人が到着します。」
「まあ。」
もう1台のパトカーがやってきて、年輩のおまわりさんが降りてきた。
トランクから、先に鈎手みたいなものがついた棒を出し、あっという間にヘビをつり上げて大きなビニール袋におさめた。
おまわりさんが腕時計を見た。
「〇月×日、午前7時20分。住居不法侵入で、青大将1匹、現行犯逮捕。」
笑顔で敬礼し、
「それでは。」と2台のパトカーに別れた。
帰り際、 「犯人はどうします?」
「川原にでもはなしてやれ」という声がきこえた。
山本ふみこさんからひとこと
先日、半年ぶりに開催のかなった、みんな集まっての教室でこれを発表していただいたとき、あたりに笑い声が飛び交いました。
なんていいんだろう……と、感心しました(うらやましくもなったことを、白状します)。
その日わたしは、講座で作品の中の「わたし」という存在について、お話ししました。「わたし」がいなくては困ると言い、「わたし」が前に出過ぎるのも困ると言い……、みんなで思いきりこんがらかったのでした。
そのとき、「この作品に『わたし』という言葉が一つもない!」と発言したのが「高木佳世子」でした。
確かにそうでした。おまわりさんのセリフのあとに2か所、わたしは青ペンで「まあ」という受けの言葉を加えました。
これが、「わたし」ということばと同様となる、「わたし」の存在です。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
現在第6期の講座を開講中です。次回第7期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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