「さつまいもの天ぷら」横山利子さん
2024.09.302021年09月29日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第2期第6回
エッセー作品「いま。」きたのふみさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「そうだったのか」です。きたのふみさんの作品「いま。」と山本さんの講評です。
いま。
好物をさいごにとっておくとか。
夏休みの宿題のプリントはそうそうにやっつけてしまう(しばりは絵日記のみ)とか。
子どものころから、気がかりなことは先にクリアして、心地よさにひたりたい。そのほうが、おトク感がある気がしていたわたしです。
新米の母親になってからもそれをつづけていたのだけれど、いつまでたっても楽しい時間はやってきませんでした。
息子がねているあいだに食事の準備をすすめておこう。授乳中に、「これがすんだら、バケツにつけてあるおしめを手洗いしてから洗濯して(紙おむつが一般的になっていたものの、両方の母から出産前に布おむつがとどいていたため、つかっていました)……と、ダンドリを考えていたり。
あのころ、妊婦生活とはうってかわって、つねにやらねばならぬことに追われている気分でした。
夜ふとんにくるまれるのが当時の至福のときで……。かわいい息子の成長を楽しむよゆうは、ありませんでした。
つきひがたち、その息子も結婚しました。娘の生活も充実しているようです。自分の時間をたくさんもてるようになった現在は、おもいっきり考えごともできます。
わたしの子育ては「大変」「大変」ばかりで、子どもたちにはもうしわけなかったなぁとおもいました。
いっしょに夢中になったり、ごめんごめんと言いながら子どもとてきとうに家事をしたりと、自分も楽しくやればよかったな。
のちを楽しむためのガマンは、ほんとうに楽しみをつれてくるのか……。
ヨシ。これからは、その時々のいまを大切に楽しんじゃうよん。いまのつみかさねが人生さ。
山本ふみこさんからひとこと
書き手は、書きながら変わってゆきます。考えも変わるし、考え方も変わるのです。書こうとするときに何かが発動し、思いもよらない境地に運ばれることもあります。そうやって私も変化してきました。
もちろんこれを書きたい描きたいと思って書き始めるわけですが、はじめ考えていた「これ」が、書きながら変わってゆく……、それは自らとの対話の中で起こることです。
この作品の結び近く、「のちを楽しむためのガマンは、ほんとうに楽しみをつれてくるのか……」というくだりは、書き手のテーマでもありましたが、書いてゆく中でここまで鮮やかに実現したのではないでしょうか。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在第3期の講座開講中です。次回第4期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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