通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第2期第3回

エッセー作品「挨拶下手」いとうきこさん

公開日:2021/07/12

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随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「笑いかける」です。いとうきこさんの作品「挨拶下手」と山本さんの講評です。

「挨拶下手」
エッセー作品「挨拶下手」いとうきこさん

挨拶下手

昼下がり、陽気に誘われて散歩していると、向こうから小学生の男の子が歩いてきた。
車1台通るのがやっとの狭い道である。
男の子は荷物が重いのか、ゆっくり歩いている。
「こんにちは」
元気な声に意表をつかれたが、慌てて返す。
「こんにちは」
マスク越しなので、男の子の表情は見て取れないが、微かにほほ笑んでいたようだ。
今時、知らないおばさんに挨拶するなんて、珍しい。いや、初めて声をかけられた。

小学生の頃、明るく挨拶をするのが苦手だった。近所のおばさんに出くわそうものなら、逃げ出したいくらい。
挨拶をして、無視されたらどうしよう。いらぬ心配をする癖があった。
「きこちゃんは、無愛想だ」と評判が悪かった。
そのくせ、見ず知らずのお兄さんに「お嬢ちゃん、車に乗せていってあげるよ」と声をかけられると、ほいほい乗ってしまいそうな軽薄さも持ち合わせていた。
同級生が止めてくれたおかげで、車に乗らずにすんだが、1人で下校していたら危なかった。

そんな私も教員になり、もじもじとしていられなかった。
勤務していた中学校で「先手必勝の挨拶」という、声をかけられる前に、生徒も教員も挨拶を進んでする取り組みがあった。
登校時、廊下ですれちがう時、下校時。もしうっかり考え事をしていて挨拶を忘れたら、「無視された」と生徒を傷つけてしまう。
廊下を歩くのにもぼんやりできない。
さらに、つけ加えたいのがにこやかな笑顔である。
これができれば、完璧な挨拶なのだが、私にはうまくできない。すれちがってから、思い出したようにほほ笑んでも遅い。
結局、挨拶下手なまま、定年退職をした。

最近、かねてから習いたかったスマホ教室に通っている。
アドバイザーの挨拶と笑顔の対応は心地よく、知らなった機能を手取り足取り教わることができる。

笑顔で挨拶をしてくれた男の子も、きっと友だちから慕われている子だろう。
沈丁花の香りが軒先から運ばれて、春の訪れを告げていた。

 

山本ふみこさんからひとこと

最も好きなのは、始まり近くの、ここです。

「男の子は荷物が重いのか、ゆっくり歩いている」

当たり前の描写に見えるかもしれませんが、なかなかどうして。
このくだりに読者は惹かれ、また安心もして、ゆったりと作品に乗ってゆけるのです。 

 

通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。

次回第4期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。


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ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪

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