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- エッセー作品「ふかし芋」いとう きこさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今回募集した作品のテーマは「日常」です。いとうきこさんの作品「ふかし芋」と山本さんの講評です。
ふかし芋
「頭にきた。」
妹が帰宅するやいなや一言発した。学校で何かあったらしい。訊くと、前日遊びに来た男子2人が、原因だという。
ふだんわが家では、おやつは市販の菓子ではなく、母の手作りが主である。その日は、サツマイモをふかして、遊びに来た友だちにふるまった。
「イトウの家では、おやつに芋しか出なかった」
そう言って、からかったという。だからといって、泣いて帰ってくる妹ではない。せっかく出してやったおやつに、いちゃもんをつけられて、腹立たしかったのだろう。
「二度と遊んでやらない!」
そう言って、妹はふかし芋をほおばった。
母はそのことを聞いて、感じることがあったのか、おやつに変化が生じた。
数日後、私の友だちが遊びに来たとき、揚げたてのドーナツが出されたのだ。あつあつのドーナツを食べた友だちは大喜び。
「うちでも、ドーナツ作ってくれと子どもにせがまれて、困っちゃいました」
小学校の参観日に、友だちのお母さんに、そう声をかけられたと、母は少し照れたように教えてくれた。
後年、全国展開しているドーナツ屋が盛岡に進出。
父が私たちを喜ばせようと買ってきてくれたが、妙に甘ったるく、母のドーナツの方が口に合った。
他に母の定番になったのは大学ポテトである。サツマイモを乱切りにして、油で揚げて溶かした黒砂糖をからめる。ときには、砂糖じょうゆをからめた。
惣菜をスーパーで買うのが、はばかられる時代だった。
それにわが家は、おやつを買う経済的余裕もなかった。だから兄妹3人に腹一杯食べさせるため、安くすむ手作りをしていたのだろう。
あれから半世紀。
今では、レトルト食品もジャンクフードも躊躇なく食べている。
とくに夕方、惣菜売り場で値引きシールが貼られるときには、目が光る。
しかし、ふとサツマイモを見ると、ふかすことすらしない自分を、うしろめたく思うこともしばしば。
せめて、おせちに栗きんとんくらい作るかな。そして、母の仏壇に供えよう。
山本ふみこさんからひとこと
おやつの話のなかに、子ども時代のあたたかい家族模様、ドーナツの物語、サツマイモへの郷愁がやさしく、込められています。
さてこの作品の大切な部分としての、ドーナツ。
『のんのんばあとオレ』(水木しげる/講談社漫画文庫)を思いだしました(大好きな本なのです)。主人公のしげーさんが、隣町まで歩いて買いに行くシーン……。
「ふかし芋」後半、書き手の正直な魅力に、くっと惹きつけられます。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
次回の参加者の募集は、2021年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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