通信制 青木奈緖さんのエッセー講座第3回

エッセー作品「はらから」古河 順子さん

公開日:2021.02.02

「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。古河順子さんの作品「はらから」と青木さんの講評です。

はらから
エッセー作品「はらから」古河 順子さん

はらから

ひとまわり違うねずみ年の兄と弟にはさまれて私と妹の4人兄妹。
<男2人、女2人と上手に産み分けただろう>と、父は自慢していた。

親子が縦の関係ならば、兄妹は横並び。私達は1本の幹から出た4本の枝というところか。
幼い頃にあまりけんかをした覚えはないけれど、格別に仲良しだったわけでもない。
ただ、妹とは着せ替え人形の取りっこで口げんかをしたが、口争いではいつも私が負けていた。

長じて夫々の家庭を持っても、お互いに淡々とした付き合いだった。
でも、たまに4人だけで揃って顔を合わせた時には、特に会話が無くても、何かしらゆるんだあたたかい雰囲気に包まれ、<ああ同じ根っこで繋がっているんだ>と感じていた。

その枝が9年前に1本折れてしまった。当時75才の兄が、教授定年退職の日を目前に最終講義の手筈も整え、次の病院長の席も決まって、最後に自分の病院で、と受けた心臓バイパス手術で、まさかのアクシデント。
さぞ無念だったと思う。仏壇に遺書が忍ばせてあったそうだ。手術前夜の病室で撮ったという穏やかな兄の笑顔の写真が哀しい。

温和な兄は、大学教授としては名声を得ていたが、母に言わせると「気のつかん子で、ほんまに惣領の甚六や」と。

同じ長男でも私の夫は男4人の1番上で、病弱だった母親を助けて弟3人の面倒を見ていた。
私の母の覚えも良く、兄亡きあと、いつのまにか私達の長兄みたいになり、実の兄存命の時には、思いもしなかった兄妹4人旅をするようになった。
弟が行きたいというところに、旅好きで時刻表マニアの夫が計画準備。遠慮気がねのない楽しい4人旅で、年に一度の癒しの時間だった。

その夫も逝き、<父・母・兄・夫>と、年齢順にいなくなってしまった。

妹が「次はお姉ちゃんの番やね、でもまだまだあかんよ」と言うが、ほんとうにそうありたい。
年の順に消えていくのがいい。
妹、弟に「では、お先にね」とサヨナラしたいと願っている。

最後に残される弟には申し訳ない気がするが、<残る桜も散る桜>あの世があるのならば、そこで待つことにしよう。

 

青木奈緖さんからひとこと

過ぎた日を振り返ると、そこだけぽっとあかりが灯ったように心に浮かぶ情景がありますね。
旅行にしろ、食事会にしろ、できるときにしておかないと、家族の時間は永遠ではない……。

それ自体、当たり前のことですが、心の内で「もう二度とあのメンバーで集まることはないのだ」という事実を噛み締めつつ、愛おしむ記憶が描かれています。

家族と縁の大切さを改めて感じます。どことなくユーモラスなのは、きっと古河様のお人柄ですね。


ハルメクの通信制エッセー講座とは?

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師でエッセイストの青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。

現在、雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで3月から始まる第2期の参加者を募集しています。詳しくは、こちらをご覧ください。

 

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ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪

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