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- エッセー作品「白く光るもの」丹羽由実さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座第1期。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今回募集した作品のテーマは「雲」です。丹羽由実さんの作品「白く光るもの」と山本ふみこさんの講評です。
白く光るもの
「UFOだ!」
校庭脇の階段は、児童で埋め尽くされている。皆、一様に西の方角、山の連なる遠方に目を凝らしていた。
当時私は小学5年生。ユリ・ゲラー(註)という外国人が超能力でスプーンを曲げ、話題になっていた頃だ。名古屋市内に住んでいて、この丘の上の小学校に2歳下の弟と一緒に通っている。時は昼休み、トマトの生育観察を終え、この階段を上って教室に戻る途中だった。
よく見ると階段の下の方に弟がいる。
「見た?」
「うん。」
弟はうなずく。
私も階段に上って西の空を見る。山の端に白く光るものがキラキラ、チラチラ動いていて、周りには光の線が放たれているようだ。弟も私もその場にいた児童も皆、その光の線に囚われ、一心不乱に山の方角を見つめていた。
傍にいた国語の教師が、
「あれは、雲が光っとるんじゃないかぁ。」と、水を差す。
(うるさいわ。あんたに何が分かるん。)
私は心の中でつぶやく。
教頭先生が出てきて、
「教室に戻りなさ~い」と叫んでいる。「UFOだったら後で教えたるで。」と、汗をふきふき言いまわっている。
同じクラスの伊東幸子さんが「戻ろう。」と、声をかけてきた。
「UFOだよね。絶対。」
伊東さんの白い頬は上気して桃のようになっている。
「うん、UFOだね。」
私たちは教室に戻って、教頭先生が来るのを待ったが、先生は来なかった。
家に戻り、母に聞いたりテレビのニュースを見たりしたが、UFOの話は無い。
二段ベッドの下の弟に「UFOだったよね。」と、声をかけたが返事はない。遊び疲れた弟はもう寝たようだ。私はタオルケットを丸めて抱きかかえ、昼間の光景を思い浮かべた。UFOは、あれから何処へ行ったのだろう。何のために来たのだろう……。
白く光るものが瞼に浮かんでは消えていった。
(註)ユリ・ゲラー:テルアビブ生まれの「超能力者」を名乗る人物。1970年代に何度 か来日し、「念力を使ってスプーンを曲げる」様子がテレビ放映された。
山本ふみこさんからひとこと
「ね、ちょっと聞いて聞いて?」と弾んで誰かに話す感覚、たのしくひそやかな物語が実現しました。ユリ・ゲラー。弟。国語の教師。教頭先生。伊東幸子さん。母——登場人物がみんな、役目を果たしているところも巧みです。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
次回の参加者の募集は、2020年12月10日(木)に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
青木奈緖さんと山本ふみこさんの対談イベントの参加者募集中!
山本ふみこさんと、明治の文豪・幸田露伴から続く作家の家で育ったエッセイストの青木奈緖さん。ハルメクのエッセー講座の講師を務めるお二人が書くことの魅力を語る対談を12月6日(日)にオンラインで開催します。
二人が書くことをおすすめする理由や、作家が自らの書き方について話し合う珍しいトークもあります。自分でも書きたいと思っているけれど、きっかけがなかった方も必見。詳しくはこちらをご覧ください。
■エッセー作品一覧■
- 山本ふみこさんが選んだ5つのエッセー第2回
- エッセー作品「雨雲レーダー」中村富子さん
- エッセー作品「黒い雲」仁科あかねさん
- エッセー作品「白く光るもの」丹羽由実さん
- エッセー作品「雲、雲、雲」原田彰子さん
- エッセー作品「逃げ足」三澤千惠子さん
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