- ハルメク365トップ
- 連載
- 編集部コラム
- ハルメクイベントエッセー講座作品集
- エッセー作品「猫の音」高嶋美行さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーを、5作品ご紹介します。募集した作品のテーマは「音」です。高嶋美行さんの作品「猫の音」と山本ふみこさんの講評です。
「猫の音」
砂浜で生き埋めにされる夢を見た。
ザザーッ。ザッザッ。頭から砂を浴びていた。汗びっしょりになって目が覚めると部屋中砂だらけ。犯人は猫。前科数犯。夜中になるとトイレの猫砂をせっせと掻き出すのが最近のお気に入りらしい。ザザーッという音を耳からキャッチした脳が、砂浜で生き埋めという夢を作り出したのだ。起きぬけから部屋の掃除。それを背後からジッと見つめる猫。いつもの光景である。
二年前、私は鬱になった。
一日中布団の中から出ることができず、喜怒哀楽のすべての感情が消えた。脳みそが寒天で固められたみたいで何も考えられない。仕事はもちろん簡単な家事さえ満足にできなくなった。生活音が消え、家の中は静まりかえった。家中の空気がどんよりして、日々重みを増していくけれど、どうしようもなかった。どうにかしようという気すらない。
そんな時、のっぴきならない事情で保護猫を預かることになった。真黒で足の部分だけ靴下を履いたように白い。恐怖からか人を見るとコブラのように威嚇した。撫でることはおろか近づくことさえできない。当面、一階が猫、二階が人間、別居生活を始めることとした。
日中、まんじりともしないまま布団にくるまっていると一階から物音がする。
ト、ト、トタタタ。ドダン。ドドドドッ。
猫が何やら動き回っている。この家に自分以外の生き物の存在を感じると何故だかホッと
する。なんだか家の空気が違う。猫が一匹いるだけなのに。
そっと階段を降りて様子を見に行く。すでに猫は待ち構えていて、シャーッ‼
必死な形相に思わず吹き出した。
あれ? 笑ったのいつぶりだっけ?
とりあえず、ゴメンゴメンと言いながら二階へ戻る。けれども物音がする度に気になってしょうがない。
階段を下りて、目が合って、シャーッ‼ を数回くり返した後、猫の方から二階にやってきた。トタ、トタ、トトタ。そろそろと警戒しながら探険。私と目が合うや否や、シャッ! と小さく叫んで一目散で階段を駆け降りていく。ダダダダダ―ッともの凄い勢いで走り去るその姿のおかしいこと! 可愛いこと!
初めての猫との生活は驚きの連続。カーテンをよじ登る。棚の物をチョイチョイといじって片っ端から下に落とす。気持ち良さげに畳で爪を研ぐ。階段の下で何を食べているかと思えば蝉。
ガシガシ。コロコロ。ガシャガシャーン。
バリバリ。ンナ~ォ。
猫の音が家中にあふれた。時に楽しく時にヒヤリとする。家の中の空気も随分軽くなった? 家の傷はどんどん増えるけれど、まあしょうがない。よしとするか。
おわり
山本ふみこさんからのひとこと
全体を明るい気配が包みこんでいます。
たのしいはなしを書けば明るくなり、悲しいはなしを書けば暗くなる……なんてことがないのは不思議です。
実際、この作品には、作家の辛かったときのことが綴られています。この明るさは、ご自身に降りかかったことを観察し、静かに向き合おうとする前向きな心持ちから醸しだされるのだと思います。
子猫に対しても、かわいい! なんてことは書いてない。書いてないけれど、読み手にはかわいさが伝わります。 ふ
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
次回の参加者の募集は、2020年12月10日(木)に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
■エッセー作品一覧■
-
子に遺すべき資産は?
「現金」か「不動産」か…どっちが得?メリット・デメリットは?相続や親族間のトラブルに悩まされないためにしておくべき準備とは -
突然の我慢できない尿意
実は多くのハルメク世代が悩んでいる「尿トラブル」…中には上手に対策をしている人も!気軽にできる対策って? -
個人情報管理できてる?
銀行口座・保険・クレジットカードなど、「デジタルの情報」をきちんと管理できていますか?煩雑にしていると思わぬ落とし穴が… -
お金の管理が簡単に!
三井住友銀行アプリに「シンプルモード」が新登場!スマホ操作が苦手な人でも簡単に使える便利機能が満載です! -
認知症セルフチェック
「もの忘れが増えた」「名前が思い出せない」という症状に心当たりがある方は要注意!それ、「認知機能のレベル低下」が原因かもしれません… -
健気な姿がかわいい!
「思わず笑顔になる」と巷で話題の「永遠の2歳児・ニコボ」!ハルメク世代の2人に、ニコボとの生活にハマる理由をお聞きしました! -
生前親に●●聞き忘れると
老親の契約や登録しているサービス、これらを子が把握していないと将来ムダな出費や面倒なトラブルに発展する可能性が!特に見落としがちなのは… -
50代~お金の増やし方
将来を見据えて、50代から「まとまった資金の調達」が重要になります。どんな選択肢があるか、ご存知ですか? -
60日で英語が話せる!
英語をマスターするのに「完璧」はいらない!初心者でも60日で英語が話せるようになる、驚きの3つのコツとは? -
今なら無料でお試し!
将来、自分の認知機能が低下するリスクがあるか、簡単に予測できるサービスが誕生。今なら無料で先行利用できます! -
おひとり様の備えはOK?
この先「おひとり様」になったら意外な落とし穴がいっぱい…。そんな不安に備える、おひとり様専用お助けサービスが誕生! -
50代から1日1分脳トレ
認知機能を衰えさせないためには、早い時期から「脳を活性化」させることが大切。脳トレ効果がグッとアップするコツって?