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- 「悪魔のソファーがやって来た」橋本ひろみさん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。橋本ひろみさんの作品「悪魔のソファーがやって来た」」と青木さんの講評です。
悪魔のソファーがやって来た
2週間前のこと。念願のソファーが我が家にやって来ました。
一緒に行った主人が一目で気に入り、値段も意外に手頃だったので即決でした。
総重量100㎏のソファーを運送屋さんが2人でヒイヒイ、汗ダクで運んでくれ、
家具屋さんに言われた通り、汚れ防止のスプレーを念入りに掛け、
半日乾かして主人とワクワクしながら腰を下ろしました。
「キャー、気持ちいい、最高。」
4人掛けで右端は電動リクライニング、L字型で左端は縦に足を延ばして寝られます。
その座り心地といったら。
腰を下ろすところと背もたれは程よい硬さ。
身体が沈まないので立つときも座るときも楽です。
思わずビールで乾杯してハタと気が付いた、同居している息子達に内緒で買ってしまったのです。
実は、私は以前から2人掛けのソファーが欲しいと息子達には言っていました。
しかも、まるでいつかそのうち叶えばいいというように、「何年かしたらね」と。
その時の息子の見解は「そうそう、こじんまりとね。」でした。
しかし、主人は違ったのです。
10年前に革の応接セットを外孫のトランポリンにされ、粗大ごみに出してから、諦めていたソファーがまたむくむくと頭に浮かんできて、「見に行くだけだ。」と言っていたのに見た瞬間即決です。
主人はひとたび言い出したら聞く耳を持たずで、いろんな理由を附けて買ってしまいます。
どうするの? 息子達はリビングが狭くなったと言うに決まってる。
でも、主人は自信有り気に「一度座ればわかる。」とニヤニヤするばかり。
その理由は私にもわかりました。
それは、あのソファーが悪魔のソファーだからです。
あの座った瞬間の気持ち良さ、思わず目を閉じたら最後、息をフウと吐いて眠りに落ちる。
身体の力が抜けて何もしたくなくなる。人間をダメにしてしまいます。
夕方、息子一家が帰って来ました。
案の定、「こんな大きいの買って、部屋が狭くなったじゃない。」と言いつつ座ってみた。
思わず背中が背もたれに付き、目を閉じた。
ほら、やっぱりと主人はしたり顔です。
でも、思わぬ伏兵が居たのを忘れていました。
そうです。4歳のお転婆な孫娘です。
もうソファーを見た瞬間の顔と言ったら、初めてトトロを見つけた時のメイちゃんの顔です。
止める間もなくソファーのひじ掛けに飛び付き馬乗りになりました。
その後ソファーで人間モグラたたきを始める始末。やっぱり、孫には敵わない。
でも、今回はジジババも負けない。
彼女がジャンプしそうになるとおしりぺんぺんすると脅す毎日です。
が、彼女のエネルギーは無限。
さて、根負けするのはどちらでしょうか。
今日もソファーは「さあ、お座りなさい。」と誘惑しています。
青木奈緖さんからひとこと
新しいソファーを購入したことで一家に起こる変化があざやかに描かれて、読者はまるでその場に一緒にいるような感覚を覚えます。
一般的に、文体には「です ます」調で終わらせる「敬体」と、「だった である」等の「常体」があり、書く内容によってどちらか一方を選びます。が、この作品では敬体と常体を違和感なく組み合わせています。バランス感覚が絶妙ですね。
皆さんは伴侶(パートナー)をどのように呼んでいらっしゃいますか。
「夫」「旦那」「主人」「彼」など幾つか呼び方がありますが、最近は、主従関係を思わせる「主人」が減少傾向にあります。こうした流れがあることを知った上で、私は皆さんがお好みの表現をしてくださればと思っています。
話し言葉で使うのと文字で読むのにも、微妙なニュアンスの違いがありますね。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。講座の受講期間は半年間。
ハルメク365では、青木先生が選んだ作品と解説動画をどなたでもご覧になってお楽しみいただけます(毎月25日更新予定)。
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