医師監修│一晩で下がる、夜に繰り返す熱の治し方は?

ストレスが原因の心因性発熱とは?症状と風邪との違い

藤澤孝志郎さん(総合内科専門医)
監修者
Dr.孝志郎のクリニック
藤澤孝志郎

公開日:2022.11.08

更新日:2023.10.09

監修者プロフィール:藤澤孝志郎さん(総合内科専門医)

監修者プロフィール:藤澤孝志郎さん(総合内科専門医)

Dr.孝志郎のクリニック院長。日本内科学会認定総合内科専門医。宮崎大学医学部卒業。医学教育の第一人者としても知られ「サマライズシリーズ」、「病態生理講座」、「ラストメッセージ」はその代表作。また、医学英語を取り入れたオリジナルの講座を国内でいち早く誕生させ多数の大学医学部で外部講師として活躍。今日までに海外出身者を含め約10万人の医学生と医師達がその講義を受けた。

著書に「内科系専門医試験 解法へのアプローチ第1集・第2集・第3集」(医学書院)、「糖尿病 自分で治す最強事典」(マキノ出版)、「世界一効率よく若返る!骨トレ!」(ビジネス社)など。監修は「肋骨締め」(KADOKAWA)など他多数。VOGUE JAPAN、an・an(アンアン)、Tarzan、ゆうゆう、ハルメクなど取材記事多数。

つらいストレスが原因!「心因性発熱」とは?

ストレスが原因で起こる「心因性発熱」とは?

熱といえば風邪をひいたときに出るイメージがありますが、ストレスが原因となって体温の上昇が起こることがあり、このような症状を「心因性発熱」といいます。機能性高体温症とも呼ばれます。

心因性発熱では、急性のストレスや慢性的なストレスが原因になり、その人の平熱以上に体温が上昇します。一晩で熱が下がったり、高熱を繰り返したりしている場合は、心因性発熱が原因かもしれません。

ストレスによる体温上昇はストレス反応の一種で、誰でも心因性発熱を起こす可能性があります。心因性発熱の原因としては、以下のようなものが考えられます。

  • 急性のストレス……仕事をする、人に会う、喧嘩や言い合いをする、極度の緊張状態に置かれる、授業に出る など
  • 慢性のストレス……介護疲れ、人間関係の悩み、自分の健康状態についての悩み、仕事で残業が続いている など

なお、一般的に37℃以上になると発熱といわれることが多いですが、平熱が37℃台の人も少なくありません。また、体温は時間や性周期によっても変動し、測定機器や測定部位の影響も受けます。

そのため「◯℃以上になると発熱」とすることは難しく、「その人の平熱よりも高い体温になったとき」を発熱と考えます。

子どもから高齢者まで年齢性別を問わず発症する

心因性発熱は、子どもから大人、高齢者まで年齢性別を問わずに発症する可能性がある症状です。子どもの場合、大人に比べて熱産生機能が発達している時期であるため、高熱になりやすいといわれています。

心因性発熱の患者数は少なくない

ストレスによって体温が上昇する心因性発熱の患者数は少なくなく、過去に行われた調査によれば、小児の不明熱の18%が心因性発熱、成人(37℃以上の発熱が2週間以上続き病院を受診した患者)で特定の所見が見られなかった83症例のうち40例の48%は心因性発熱だったという報告があります。

心因性発熱の症状

心因性発熱は、体温の上昇に伴って強い倦怠感を覚えることがあります。その他にも、ストレス反応として腹痛や頭痛、睡眠障害が見られることもあります。

心因性発熱が起こる仕組み・メカニズム

ストレスがどのようにして体温上昇を引き起こすのかについてはまだ十分に解明されていないものの、ストレスによって体の機能を調節する自律神経のバランスを崩すことが原因の一つとして考えられています。

自律神経とは、「交感神経(心身の状態を活発にする)」と「副交感神経(心身の状態を落ち着ける)」という2種類の相反する作用を持つ神経の総称です。これらの自律神経がバランスを取ることで、心と身体の状態を整えています。

ストレスは、心身の状態を活発にする交感神経を刺激することがわかっています。ストレスを感じたときに嫌な汗が出たり、ドキドキと心臓の鼓動が早くなったり、眠れなくなったりするのは交感神経の興奮によるものです。

交感神経が活発になり過ぎると、体温調節を行う「褐色脂肪細胞」が刺激され、その結果として体温上昇につながっていると考えられています。

心因性発熱の2つのタイプ

心因性発熱の2つのタイプ

ストレスによって引き起こされる心因性発熱は、大きく「高熱タイプ」と「微熱タイプ」の2つに分けられます。ここからは、それぞれについて詳しく解説します。

高熱タイプ

高熱タイプは、急性のストレスがかかったときに急激に高体温になるタイプで、まれに40℃以上の熱を出すこともあります。

子どもによく見られるのがこの高熱タイプで、例えば「学校に行った途端に高熱が出たものの、帰宅したらすぐに平熱に戻る」などがあります。これは、学校というストレッサー(ストレスの原因)に対して、ストレスの過剰反応が起こり、体温が上昇しています。

高熱タイプは、回復が早いことが特徴です。しかし、ストレスの原因となっているものを解決しないと、体温上昇を繰り返すことがあります。

微熱タイプ

微熱タイプは、慢性的なストレスが続いたりいくつかのストレスが重なった状態で引き起こされるタイプで、微熱程度の体温上昇が続くことが特徴です。悪い生活習慣も影響しています。

仕事や家事が忙しく心も体も休まらない、介護で疲れ果ててしまっている、残業が続いているなど、働き盛りの成人によく見られるのがこのタイプです。倦怠感や頭痛、腹痛などの身体症状の他にも、不眠が起こることもあります。

ストレスのかかる状況が改善すれば自然に治ることもありますが、解決後もしばらく微熱が続くことも。最近では、コロナ禍の影響によるストレスが原因となり、微熱が出ている人も増えているようです。

微熱タイプの場合、体温の高さそのものよりも、倦怠感が強くなる、頭がボーッとする、頭痛がつらいなど、心因性発熱の症状によって日常生活に支障が出ることに悩んでいる人が多い傾向にあります。

中には、普段は微熱が続き、特に強いストレスにさらされたときに高熱が出るなど、微熱タイプと高熱タイプ両方の症状が見られる人もいます。

ストレスによる発熱と感染症による発熱の違い

ストレスによる発熱と感染症による発熱の違い

ストレスが原因の体温上昇は、風邪をひいたときなどに起こる発熱とはメカニズムが異なります。ストレスによって体温が上がった状態を「発熱」と呼ぶのは正しい表現ではないものの、通称として発熱と呼ばれています。

ここからは、ストレスによる発熱と感染症による発熱の違いについて詳しく見ていきましょう。

炎症の有無

風邪などウイルス感染によって起こる発熱は、感染による炎症が信号となった、ウイルスに対抗するための反応です。

このときの信号となるのが「炎症性サイトカイン」と「プロスタグランジンE2 (PGE2)」と呼ばれる物質で、風邪をひいたときに飲む薬は炎症性サイトカインやプロスタグランジンE2 の産生を抑制することで、解熱作用を発揮します。

一方、心因性発熱は炎症を伴わないため、血液検査やCTなどの画像検査では病気が見つからず「異常なし」といわれることも多いです。

解熱剤の効果

ウイルス感染が原因となって発熱している場合、解熱剤が炎症性サイトカインやプロスタグランジンE2 に作用することで、熱が下がります。

しかし、ストレス性の体温上昇の場合、体温が上がるという状況は同じでも、炎症性サイトカインやプロスタグランジンE2が関与していないため、解熱剤や風邪薬などの炎症を抑える薬を飲んでも、熱が下がらないのです。

心因性発熱は何科を受診すればいい?

高熱が出たり、微熱が続いている場合、「ストレスだから」と自己診断してしまうことなく、病院でしっかりと検査を行うことが大切です。

「夜に発熱を繰り返す」などの症状がある場合は、ストレスや疲労だけではなく、尿路感染症、関節リウマチ、がんの可能性も考えられます。まずは、内科で発熱の原因をしっかり検査しましょう。

内科で病気などの原因が見つからず、心因性発熱が疑われる場合は、心療内科や精神科を受診するといいでしょう。

心因性発熱の患者さんの中には、うつ病や躁うつ病などの気分障害、パニック障害やPTSDなどの不安障害、緊張型頭痛の人も多いといわれています。心因性発熱を治療する場合、これらの疾患も同時に治療していくことが大切です。

心因性発熱の治療法

心因性発熱と診断されたら、以下のような方法によって治療していきます。

  • 生活指導
  • 薬物療法
  • 心理療法
  • リラクゼーショントレーニング(自律訓練法)
  • 他の身体疾患や精神疾患の治療
  • ストレスの原因の解決、ストレスへの対処の仕方の改善 など

心因性発熱による体温上昇に解熱剤はほとんど効きませんが、頭痛に対しては効果を発揮することもあります。その他、ストレスに対する薬として、睡眠薬(不眠症など睡眠が十分取れない場合)、抗うつ剤、安定剤などが心因性発熱に有効です。

ストレスが原因と考えられる熱が続き、病院への受診を考えた際は、体温を記録しておきましょう。その後、治療の一環として体温についての日記をつけることもあります。

日記をつけることで、解熱剤の効果、ストレスと体温の関係、家事・仕事・休息とストレスの関係、疲労とストレスの関係などがわかり、今後の治療に役立てられます。

心因性発熱と診断された場合の日常生活の注意点

心因性発熱と診断された場合の日常生活の注意点

心因性発熱と診断された場合、日常生活の過ごし方が大切です。ここからは、日常生活の過ごし方や注意点について解説します。

ストレスを遠ざける

心因性発熱はストレスが原因となっているため、心の負担になっている物事から離れたり、定期的にストレスを発散するなどして、ストレスを遠ざけることが大切です。

過労といった身体的なストレスや悩み、不安などの精神的なストレスは脳が疲れてオーバーヒートを起こしてしまうことにつながります。

仕事や家事の負担を減らす、ペースを落とす

風邪で熱が出たとき、疲労感を感じたことがあるという人も多いでしょう。

高体温が持続しているときは、体温を上げるために人間の体が普段よりも多くエネルギーを消費しているため、いつもは当たり前にこなしていることが、負担となることがあります。

そんなとき、無理を続けると体温が高い状態がずるずると続いてしまいます。仕事や家事の負担を減らしたり、ペースダウンして、しっかり睡眠を取りましょう。

「サボっているようで申し訳ない」「こんな自分がいやだ」など、罪悪感や自己嫌悪はストレスにつながります。「これは治療だ」と割り切って、負担を減らすことが大切です。

疲れる前にこまめに休憩する

疲労に関連して体温が変化する人の場合、疲れたら休むのではなく、疲れる前にこまめに休憩することを心掛けるといいでしょう。

なお、休憩するときは立ったまま、座ったままよりも横になるのがおすすめです。横になって目を閉じると、交感神経の緊張だけではなく、筋肉の緊張も取れます。眠る必要はなく、目を閉じてじっとしているだけでもリラックス効果が得られます。

脳を休める

仕事や家事を休んでも、脳を休めなければしっかりと休んだことにはなりません。

スマホやパソコンでインターネットをしたり、メールやメッセージアプリ、SNS、ゲーム、長電話、抱えている不安について繰り返し考える、自分を責めるなどの行為はなるべく控え、脳を休めることが大切です。

生活リズムを整える

人間の体温は起きてすぐは低く、その後上昇し、午後4時頃にピークを迎えます。そして、眠る時間に向かって少しずつ体温が下がっていくという体温のリズムがあります。

このリズムが狂っている人は、就寝や起床、食事など生活リズムが乱れてしまっている可能性があるでしょう。生活リズムを整え、体温のリズムが正しくなると、それに伴って自律神経症状も改善していきます。

ストレスが原因の心因性発熱は無理をしないことが大切

ストレスが原因となって引き起こされる体温の上昇は「心因性発熱(機能性高体温症)」と呼ばれます。

心因性発熱は高熱タイプと微熱タイプに分けられ、慢性的なストレスが原因となって引き起こされる微熱タイプの場合、しっかりと睡眠を取り、日常生活をペースダウンして無理をしないことが大切です。

なお、熱が続く場合、心因性発熱ではなく他に病気が隠れている可能性もあります。「ストレスだから」と自己判断せず、病院で検査を受けてみましょう。

※この記事は2022年11月の記事を再編集して掲載しています。

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