心不全とは

2023年04月25日

「心不全パンデミック」に備える!

心不全の症状チェックリストと予防のポイント6つ

心不全とはどんな病気か知っていますか? 名前は知っていても、症状を正しく理解している人は3割以下という調査結果もあります。息切れやむくみなど、心不全の症状チェックリストで心臓の状態を確認して、予防・早期治療に生かしましょう。

高齢化で患者数が急増中「心不全パンデミック」間近!?

心不全

日本では今、「心不全」の患者数が急激に増えているのをご存じでしょうか。

循環器内科医で、榊原記念病院院長の磯部光章(いそべ・みつあき)さんはこう話します。
    
「団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年には、年間37万人もの新規発症者が予想されています。世界的に見ても心不全患者は増えていますが、これほどの急増は日本と韓国くらい。一番の原因は急速な高齢化です」

心血管病死亡者の推移

現在、心不全の患者数は100万人規模ですが、これが25年には120万人、30年には130万人に達するとの予測も(*)。このような状況は「心不全パンデミック」と呼ばれ、医療関係者の間で大きな問題になっています。

パンデミックとは、もともと感染症の爆発的な流行を意味する言葉。これを心不全の急増ぶりになぞらえているわけです。

(*)Okura Y, et al. Circ J. 2008; 72: 489-91

「このまま患者数が増え続ければ、いずれ医療機関がパンクして患者さんを受け入れられない事態も起こってくるでしょう。だからこそ、今のうちから心不全の予防と早期発見に努める必要があるのです」と磯部さんは強調します。

心不全とはどんな病気?息切れ・むくみの症状も

心不全とはどんな病気?

心不全という病名はよく聞きますが、どんな病気か詳しいことは知らないという人も多いのではないでしょうか。

公益財団法人循環器病研究振興財団が2017年9月、20~60代の男女1000人を対象に「心不全に関する理解度を知る調査」を行いました。

その結果、「心不全」の名称を知っている人は97.7%(60代男女で100%)とほぼ全員。その一方で、症状や内容まで理解している人は27.3%にとどまりました。

さらに、その5割超の人が「心不全は人が死亡したときの診断名のことである」と回答。名称は知られているものの、正しく理解されていない状況が浮き彫りになりました。

このような状況を踏まえ、日本循環器学会では2017年10月、一般の人向けに病気の定義を以下のように定めました。

「心不全とは、心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です」

心不全の原因は?高血圧や糖尿病の人は要注意

そもそも、心不全の原因は何なのでしょうか? 

「高血圧や心筋梗塞、心臓弁膜症、心筋症、不整脈などが進行した末に、心不全を発症します。中でも圧倒的に多いのが、高血圧と心筋梗塞です」と磯部さん。

「心臓はポンプのように収縮と拡張を繰り返して、血液を全身に送っています。しかし、血圧が高い状態が続くと、心臓の壁が硬く肥大したり、疲弊したりして、心臓のポンプ機能が低下します。また、冠動脈が詰まって心筋梗塞を起こすと、心臓の筋肉の一部が壊死するため、同様に心臓の働きが悪くなるのです」

心不全の原因は?

心不全になると息切れやむくみなどの症状が出てきます。例えば、これまで平気だった坂道や階段で息が切れる、疲れやすい、脚がむくむ、むくみのために体重が徐々に増える……などの症状がある人は、早めに循環器内科などで受診を。

「放っておくと心不全は必ず進行します。とにかく早く見つけて適切な治療を受けることが大切です」(磯部さん)

心不全の危険因子・症状チェックリスト

磯部さんに、心不全になりやすい人の特徴と心不全でよくある症状を教えてもらいました。

1.血圧が高い
2.糖尿病がある
3.肥満、メタボである
4.たばこを吸っている
5.坂道などで息苦しいことがある
6.だるくて疲れやすい
7.体重が徐々に増えている
8.脚のむくみがある

1~4は将来、心不全につながる危険因子。今から予防を心掛けましょう。5~8は、心不全の症状である可能性があるので、心当たりのある人は早めに病院を受診しましょう。

4段階で進行する心不全の症状!予防・早期治療が大切

心不全は進行する病気。がんと同様に進行度を表すステージがあり、A~Dまでの
4段階に分類されています。

4段階で進行する心不全の症状

【ステージA】
高血圧や糖尿病といった危険因子となる病気がある段階、いわば心不全の予備群。
高血圧、動脈硬化、糖尿病、肥満、メタボなどがありますが、心臓に異常は見つかりません。 

【ステージB】
症状はないものの、検査をすると明らかな異常が見つかります。
検査をすると心臓の肥大、心臓機能の低下、BNP値の上昇などが見られますが、症状は現れていません。

【ステージC】
心臓の働きが低下して、全身に十分な血液を送り出せなくなり、酸素不足に陥ります。息切れや動悸、むくみなどの症状が出て、非常につらくなります。

【ステージD】
じっとしていても苦しく、治療も難しくなります。

「ステージC以上になると、症状が悪化して入退院を繰り返す人が多くなります。日本人女性の平均寿命は87歳ですが、健康的に自立した生活ができる“健康寿命”との間には12年ほどの差があります。この健康寿命を損ねる大きな原因の一つが心不全なのです」

しかし、高血圧や糖尿病などの持病があるステージAの予備群の段階なら、心不全の予防が可能です。

「まだ心臓自体は悪くなっていませんから、持病をしっかり治療することが何より重要です」(磯部さん)

ステージBでは心臓の肥大や拡張機能低下などの異常がありますが、症状がないため見つけにくいのが現実。磯部さんはこの段階を「隠れ心不全」と呼びます。

「症状はなくても、健康診断などで心不全の疑いを指摘されたら、すぐに循環器内科などで検査を。血液検査や心電図、超音波検査などで診断がつきます」

血液検査では、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)値を調べます。これは心臓から分泌されるホルモンで、心機能が低下して心臓への負担が大きくなるほど分泌量が増えます。

日本では10年ほど前から心不全の診断に用いられるようになりました。もちろん、健康保険もききます。

「隠れ心不全の段階で発見できたら、心臓を休める薬や血管を広げる薬などを用いて、心臓の負担を軽くします。この段階からしっかり治療すれば、ステージCへの進行を予防できます」

心不全を予防する6つのポイントをチェック!

心不全を予防する6つのポイントをチェック

ポイント1:生活習慣病のコントロール
高血圧の人は血圧の管理を。また糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病は心筋梗塞のリスクになるので、しっかり治療を。

ポイント2:肥満・メタボの予防・改善
肥満は高血圧や心筋梗塞になるリスクを上げます。太り過ぎないよう、食事や運動に気を付けましょう。

ポイント3:水分・塩分を取り過ぎない
過剰な水分と塩分は血液量を増やし、心臓に大きな負荷をかけます。高血圧の原因にもなります。取り過ぎないよう注意を!

ポイント4:禁煙する
喫煙は動脈硬化を促進させます。心筋梗塞や高血圧のリスクも上がりますから、吸っている人は禁煙に努めましょう。

ポイント5:症状が出たら早めに検査を
息切れなどの症状があれば、循環器内科でBNP検査や心電図検査などを受けましょう。比較的簡単な検査で診断がつきます。

ポイント6:夏は水分の取り過ぎに注意!症状があれば検査を

水分の取り過ぎに注意

過剰な水分や塩分は心臓にとって大きな負担になるので、取り過ぎないことが重要。

心不全と気付かないまま、熱中症や脳卒中予防にと水分を多く取り、夜中に突然、息が苦しくなって救急車で運ばれてくる例もあるといいます。

「特に夏場はそういう患者さんが毎日のように運ばれてきます。早めに心不全とわかれば、適正な水分量も指導してもらえます」と磯部さんは注意を促します。

もちろん、坂道での息切れや動悸、むくみ、倦怠感などの症状があれば、「年のせいだろう」で済ませず、まずは検査を。

「心不全は60代くらいから増え始め、年齢が上がるほど多くなります。健康長寿を目指すためにも、元気なうちに予防と早期発見・治療を心掛けてください」(磯部さん)

■教えてくれた人

磯部光章さん

磯部光章さん

いそべ・みつあき 榊原記念病院院長。1978年東京大学医学部卒業。東京大学第三内科、三井記念病院を経て、87~92年ハーバード大学マサチューセッツ総合病院に留学。東京医科歯科大学教授、日本心不全学会理事長などを歴任し、2017年より現職。

取材・文=佐田節子 構成=五十嵐香奈(ハルメク編集部)

※この記事は、雑誌「ハルメク」2018年1月号に掲載された内容を再編集しています。


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