教えてくれた人：糸井隆夫（いとい・たかお）さん

東京医科大学 消化器内科学分野主任教授。1991年東京医科大学卒業、97年同大大学院修了（医学博士）。同大学消化器内科講師、准教授などを経て、2016年より現職。国際診療部長も兼任。専門は膵がん、胆道がん、胆管結石、乳頭部腫瘍。主な監修・編著書は、『膵臓の病気がわかる本』（講談社刊）など。

膵臓は機能低下が起こっても症状が出にくい「沈黙の臓器」です

膵臓は胃の裏にある、小さな臓器です。

「普段はあまり注目されませんが、膵臓は食べ物の消化や血糖値の調整に欠かせない“働き者”の臓器です」と、東京医科大学消化器内科学分野主任教授で膵臓の専門医である糸井隆夫さんは説明します。

膵臓は胃の裏に隠れており、長さ15cm、幅3cm、厚さ2cmどの細長い臓器です。周囲の肝臓や胆のう、十二指腸などの臓器と連携して働いています。

その役割の一つは、「外分泌機能」です。膵臓の細胞では1日に800～1000mlもの膵液がつくられ、膵管を通って十二指腸に分泌されています。

膵液には脂肪を分解するリパーゼ、主にたんぱく質を分解するトリプシン、糖質を分解するアミラーゼという3つの強力な消化酵素が含まれ、食べ物を吸収可能な大きさにします。私たちの体が小腸から必要な栄養素を取り込めるのは、膵臓の外分泌機能のおかげでもあるのです。

「膵液は無色透明の弱アルカリ性の消化液です。胃酸の影響で酸性になった食べ物を中和して、酸に弱い十二指腸を守り、消化酵素が働きやすい環境をつくっています」と糸井さんは話します。

膵臓の機能障害で糖尿病になることも

もう一つの重要な働きは、「内分泌機能」です。

「血糖値を調整するホルモンとして知られているインスリン、そして、グルカゴン、ソマトスタチンというホルモンも膵臓内に点在するランゲルハンス島という組織でつくられています」（糸井さん）

膵臓には直径約0.1mmのランゲルハンス島が約100万個もあり、海に浮かぶ島のように点在しています。食事によって血糖値が上昇すると、そこからインスリンが分泌され、適切な値に下げます。

血糖値が下がり過ぎたときには、膵臓からグルカゴンが分泌され、肝臓のグリコーゲンをブドウ糖に分解して血糖値を上昇させます。また、ソマトスタチンは、インスリンとグルカゴンのバランスを取って血糖値を調整しています。

「膵炎や膵臓がんなどによって膵臓の働きが障害されると、インスリンの分泌量が減って、糖尿病の発症や悪化につながります。糖尿病の人は、膵臓がんを発症するリスクが高いこともわかっています。糖尿病や膵臓の病気を防ぐためにも、膵臓を守る生活を心掛けることが大事です」と糸井さんは強調します。

意外と知られていない膵臓の重要な役割

前述の通り、膵臓には大きく分けて、次の2つの働きがあります。
（1）強力な消化液をつくる「外分泌機能」
（2）血糖値を調整するホルモンをつくる「内分泌機能」

（1）強力な消化液をつくる「外分泌機能」の流れ

唾液・胃酸で消化された食べ物が十二指腸へ
　　↓
十二指腸を通過する刺激で膵液が分泌され、食べ物と混ざる
　　↓
膵液の消化酵素でさらに食べ物が分解される
　　↓
小腸で吸収

膵液には脂肪、たんぱく質、糖質を分解する消化酵素が含まれ、吸収可能な形に食べ物を分解します。膵液は膵管を通って十二指腸に到達します。

（2）血糖値を調整するホルモンをつくる「内分泌機能」の流れ

膵臓の中にあるランゲルハンス島という組織の細胞から、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチンを血液中に分泌
　　↓
各ホルモンが全身へ運ばれ血糖値を調整

ランゲルハンス島のβ（ベータ）細胞からインスリン、α（アルファ）細胞からグルカゴン、δ（デルタ）細胞からソマトスタチンが分泌され、血糖値を調整。

膵臓の病気を招く12のリスクをチェック！

あてはまる項目が多いほど、膵臓の病気を招くリスク大です。

□ほぼ毎日お酒を飲んでいる
□脂っこい食べ物が好き
□肥満（BMI※が25以上）
□お酒が好きで一度に大量に飲む
□脂質異常症である
□仕事や人間関係でストレスを抱えている
□運動不足
□食事が不規則
□タバコを吸っている
□胆石が見つかった
□糖尿病である
□家族に膵臓病経験者がいる

※ BMI＝体重（㎏）÷［身長（m）×身長（m）］

次回は病のサインを見逃さない！増えている膵臓の4つの病気をお伝えします。

取材・文＝福島安紀、イラストレーション＝ながのまみ、構成＝新井理紗（ハルメク編集部）

※この記事は、雑誌「ハルメク」2025年4月号を再編集しています