卵巣腫瘍とは?症状・原因・治療法・よくある質問【医師監修】
卵巣腫瘍とは?症状・原因・治療法・よくある質問【医師監修】
公開日:2025年10月15日
この記事3行まとめ
✓卵巣腫瘍は初期症状が乏しく、お腹の張りや下腹部の違和感などで気付かれることが多いです。
✓50代以降に発症のピークを迎え、閉経後であっても定期的な検診が早期発見の鍵となります。
✓治療は腫瘍の種類や進行度に応じて手術や化学療法が選択され、正しい知識を持つことが大切です。
卵巣腫瘍とは?
卵巣腫瘍とは、女性ホルモンの分泌や排卵を担う「卵巣」にできる腫瘍の総称です。卵巣は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、腫瘍ができても初期には自覚症状がほとんど現れないのが特徴です。そのため、お腹の張りや違和感を感じて受診したときには、腫瘍がかなり大きくなっていることも少なくありません。
卵巣腫瘍には、命に関わることのない「良性腫瘍」、がんと良性の中間の性質を持つ「境界悪性腫瘍」、そして「悪性腫瘍(卵巣がん)」の3つのタイプがあります。腫瘍の約9割は良性ですが、どのタイプであるかを正確に診断し、適切な対応をとることが非常に重要です。
特に50代以降は悪性腫瘍のリスクも高まるため、正しい知識を身につけておきましょう。
よく見られる身体的症状
卵巣腫瘍が小さい間は、ほとんど症状がありません。しかし、腫瘍が大きくなるにつれて、以下のような身体的な症状が現れることがあります。50代以降の女性にとっては、更年期の不調や加齢による変化と勘違いしやすい症状もあるため、注意が必要です。
- お腹の張り、膨満感:最もよく見られる症状の一つです。急に太った、ウエストがきつくなったと感じることもあります。
- 下腹部のしこり:自分で下腹部を触ったときに、硬いしこりに気付くことがあります。
- 下腹部痛、腰痛:腫瘍が周囲の臓器を圧迫することで、鈍い痛みや腰痛を感じることがあります。
- 頻尿、便秘:大きくなった腫瘍が膀胱や腸を圧迫することで、トイレが近くなったり、便秘がちになったりします。
- 不正出血:腫瘍の種類によっては、ホルモンバランスが乱れて不正出血が起こることがあります。
- 急な激しい腹痛:まれに、腫瘍の根元がねじれる「茎捻転(けいねんてん)」や、腫瘍が破裂することで、救急車を呼ぶほどの激しい痛みが起こることがあります。
心理的な変化
卵巣腫瘍の診断は、特に「悪性かもしれない」という可能性に直面したとき、大きな不安やストレスをもたらします。
特に50代以降は、子育てが一段落し、ご自身の健康やこれからの人生を考える時期でもあります。そのため、病気への不安だけでなく、治療による体への負担、仕事や家庭への影響、将来への心配など、さまざまな心理的な悩みを抱えやすい年代です。一人で抱え込まず、ご家族や信頼できる医師、相談窓口に気持ちを打ち明けることも大切です。
統計データ(厚生労働省調査より)
国立がん研究センターの最新がん統計によると、卵巣がんと診断される人は年々増加傾向にあります。
- 罹患率:40代から増え始め、50代から60代で発症のピークを迎えます。
- 死亡率:罹患率と同様に、50代以降に高くなる傾向があります。
- 患者数:日本では、毎年1万3000人以上の女性が新たに卵巣がんと診断されています。
これらのデータからも、50代以降の女性にとって卵巣腫瘍が決して他人事ではないことがわかります。
卵巣腫瘍の原因とメカニズム
主な原因
卵巣腫瘍のはっきりとした原因はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの要因が関わっていると考えられています。
1. 生理学的要因
卵巣がんのリスク要因として「排卵回数の多さ」が指摘されています。排卵のたびに卵巣の表面が傷つき、それを修復する過程で遺伝子のコピーミスが起こり、がん化につながるのではないかと考えられています。
- 出産経験がない、または少ない
- 初経が早い
- 閉経が遅い
- 不妊治療での排卵誘発剤の使用経験
2. 環境的要因
食生活の欧米化(高脂肪・高カロリーな食事)や肥満、喫煙といった生活習慣も、卵巣腫瘍のリスクを高める可能性が指摘されています。バランスの取れた食事や適度な運動を心がけることが、リスク軽減につながるかもしれません。
3. 心理社会的要因
50代以降の女性は、家庭や職場での役割の変化、親の介護など、さまざまなストレスに直面する機会が多い年代です。継続的なストレスが免疫機能に影響を与え、間接的に病気のリスクを高める可能性も考えられます。
発症メカニズム
卵巣腫瘍は、卵巣の表面を覆う「上皮」、卵子のもとになる「胚細胞」、ホルモンを産生する「性索間質細胞」など、さまざまな細胞から発生します。どの細胞が腫瘍になるかによって、良性・境界悪性・悪性の別や、腫瘍の性質(漿液性、粘液性、類内膜、明細胞など)が決まります。
特に、卵巣がんの約9割は「上皮性」の腫瘍です。
リスク要因
改めて、卵巣腫瘍のリスク要因をまとめます。これらに当てはまるからといって必ず発症するわけではありませんが、ご自身の健康状態を把握する上で参考にしてください。
- 遺伝的要因:家族(特に母親や姉妹)に乳がんや卵巣がんになった人がいる場合、「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」の可能性があり、リスクが高まります。
- 子宮内膜症(特にチョコレート嚢胞)の既往:チョコレート嚢胞の一部が、時間を経てがん化することがあります。
- 高年齢:50代以降は特にリスクが高まります。
- 出産歴がない、または少ない
- 肥満
- 長期のホルモン補充療法
一方で、経口避妊薬(ピル)の服用は、排卵を抑制するため、卵巣がんのリスクを低下させることがわかっています。
診断方法と受診について
次に、受診する場合の流れについて説明します。
いつ受診すべきか
卵巣腫瘍は初期症状が乏しいため、セルフチェックだけでは発見が困難です。以下のような症状が続く場合や、気になることがある場合は、ためらわずに婦人科を受診しましょう。
- お腹の張りや膨満感が1か月以上続く
- 原因不明の体重増加や、ウエストがきつくなる
- 下腹部にしこりを触れる
- 頻尿や便秘が続く
- 不正出血がある
- 理由のない下腹部痛や腰痛がある
特に症状がなくても、年に1回は婦人科検診を受けることが、早期発見のために最も重要です。
診断の流れ
婦人科では、以下のような検査を組み合わせて、腫瘍の有無や性質を詳しく調べていきます。
1. 問診で確認すること
医師は、診断の手がかりを得るために、以下のような質問をします。現在の症状だけでなく、これまでの月経の状況や妊娠・出産の経験、ご家族の病歴なども大切な情報になります。
- どのような症状が、いつからありますか?
- 月経周期や経血量に変化はありますか?
- 妊娠・出産の経験はありますか?
- これまでにかかった病気や、現在治療中の病気はありますか?
- ご家族(血縁者)にがん(特に乳がん・卵巣がん)になった方はいますか? この後、内診で卵巣の状態を確認します。
2. 身体検査
内診台に上がり、医師が腟から指を入れて子宮や卵巣の大きさ、形、硬さ、動きなどを確認します。同時にお腹の上からも手で触れて、腫瘍の大きさや腹水の有無などを調べます。少し緊張するかもしれませんが、体の力を抜くとスムーズに進みます。 次に、超音波検査でさらに詳しく見ていきます。
3. 代表的な検査例
問診と内診に続き、より詳しく調べるために画像検査などを行います。これらの検査は、腫瘍の良性・悪性を判断するための重要な手がかりとなります。
- 超音波(エコー)検査:腟の中から細い器具を挿入する「経腟超音波」が一般的です。子宮や卵巣を直接観察でき、腫瘍の大きさや内部の様子(液体か固形成分かなど)、腹水の有無などを詳細に確認できます。痛みはほとんどありません。
- CT・MRI検査:超音波検査で腫瘍が見つかった場合、さらに詳しく調べるために行われます。体の断面を撮影し、腫瘍の性質や、周囲の臓器への広がり(転移)などを評価します。
- 腫瘍マーカー検査:血液検査で、がん細胞が作り出す特定の物質(CA125など)の数値を調べます。数値が高い場合は悪性の可能性がありますが、子宮内膜症や良性腫瘍でも上昇することがあるため、あくまで診断の補助として用いられます。
最終的な確定診断は、手術で摘出した組織を顕微鏡で調べる「病理組織診断」によって行われます。
受診時の準備
受診の際は、以下のものを準備しておくと診察がスムーズに進みます。
- 症状のメモ:いつから、どのような症状があるか、時系列でまとめておくと伝えやすいです。
- 基礎体温表:つけている方は持参しましょう。
- お薬手帳:現在服用している薬がわかるようにしておきましょう。
- 健康診断や人間ドックの結果:関連する異常を指摘されている場合は持参してください。 服装は、内診があるので着脱しやすいスカートなどが便利です。
受診すべき診療科
卵巣腫瘍が疑われる場合は、「婦人科」を受診してください。かかりつけの婦人科がない場合は、お住まいの自治体のウェブサイトや保健所で医療機関を探すことができます。また、日本婦人科腫瘍学会のウェブサイトでは、専門医のいる施設を探すことも可能です。
卵巣腫瘍の治療法
治療方針の決定
治療法は、腫瘍の種類(良性・境界悪性・悪性)、大きさ、進行度(ステージ)、患者さんご自身の年齢や健康状態、妊娠の希望の有無などを総合的に考慮して、医師と相談しながら決定します。ご自身の希望や不安に思うことをしっかりと医師に伝え、納得のいく治療を選択することが大切です。セカンドオピニオンを聞くことも選択肢の一つです。
薬物療法
薬物療法は、主に悪性腫瘍(卵巣がん)に対して行われます。
化学療法(抗がん剤治療)
卵巣がんの治療の柱の一つです。手術後に再発を防ぐ目的で行われたり、手術で取りきれなかったがん細胞を攻撃するために行われます。複数の抗がん剤を組み合わせて点滴で投与するのが一般的です。
副作用と対策
吐き気、脱毛、倦怠感、手足のしびれ、口内炎、白血球の減少による感染リスクの増加など、さまざまな副作用が出ることがあります。しかし、近年は副作用を和らげる薬(強力な制吐剤など)も進歩しており、多くの症状はコントロール可能です。
脱毛に備えてウィッグを準備したり、感染予防のために手洗いやうがいを徹底したり、口内炎には刺激の少ない食事を心がけるなど、ご自身でできる対策も多くあります。つらい症状は我慢せず、すぐに医師や看護師に相談しましょう。
分子標的薬
がん細胞の増殖に関わる特定の分子だけを狙い撃ちする薬です。正常な細胞へのダメージが少ないため、副作用が比較的軽いとされています。
- PARP阻害薬:遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の原因遺伝子であるBRCA遺伝子に変異がある場合や、化学療法がよく効いた場合に、再発予防の維持療法として使われます。
- ベバシズマブ:がんが新しい血管を作るのを妨げることで、がんの成長を抑制する薬です。化学療法と併用して使われることが多いです。
注意:これらの薬物療法は、専門医の診断と管理のもとで行う必要があります。自己判断で治療を中断したり、科学的根拠のない民間療法に頼ったりすることは絶対に避けてください。
非薬物療法
卵巣腫瘍の治療の基本は、手術で腫瘍を摘出することです。
手術療法
- 良性腫瘍の場合:体の負担が少ない「腹腔鏡下手術」で行われることが多いです。お腹に数か所の小さな穴を開け、そこからカメラや器具を挿入して腫瘍を摘出します。傷が小さく、術後の回復が早いのがメリットです。将来の妊娠を希望する場合は腫瘍のみを摘出する「嚢胞摘出術」、そうでない場合は卵巣と卵管を摘出する「付属器摘出術」が行われます。
- 悪性腫瘍(卵巣がん)の場合:がんの進行度を正確に診断し、がんを可能な限り取り除くため、「開腹手術」が標準となります。お腹を縦に大きく切開し、両側の卵巣・卵管、子宮、大網(胃から垂れ下がる脂肪の膜)を摘出するのが基本です。がんが広がっている場合は、リンパ節や、腸、腹膜などの一部を合併切除することもあります。開腹手術は腹腔鏡手術に比べて体への負担は大きいですが、隅々まで観察でき、複雑な手技を行えるメリットがあります。
- 術後の合併症:手術後は、腸が癒着して腸閉塞を起こしたり、リンパ節を切除した場合に足がむくむ「リンパ浮腫」が起こったりすることがあります。リンパ浮腫は、マッサージや弾性ストッキングの着用などで症状を和らげることができます。
注意:どのような手術が適切かは、専門医の判断が必要です。手術のリスクや術後の経過、合併症の可能性について、十分に説明を受けてください。
生活習慣による管理
治療中や治療後の生活では、体力の回復と再発予防のために、生活習慣を整えることが大切です。
- バランスの取れた食事:特定の食品に偏らず、さまざまな食材をバランス良く摂りましょう。
- 適度な運動:体調に合わせて、ウォーキングなどの軽い運動を継続することで、体力や免疫力の維持、気分のリフレッシュにつながります。
- 十分な休養と睡眠:心と体の回復のために、無理をせず休息をとりましょう。
- 禁煙:喫煙はがん治療の効果を妨げ、再発リスクを高めます。
治療期間と予後
治療期間は、手術の方法や化学療法のスケジュールによって大きく異なります。予後(病気の見通し)は、腫瘍の種類と進行度によって大きく左右されます。良性腫瘍であれば、手術で摘出すれば完治します。
悪性腫瘍(卵巣がん)の場合、早期に発見されるほど治癒の可能性は高くなりますが、進行した状態で見つかることも多いため、治療が長期にわたることもあります。しかし、近年は治療法が進歩しており、がんと共に生きる「共存」を目指す治療も可能になっています。
予防法と日常生活での注意点
一次予防(発症予防)
卵巣腫瘍の確実な予防法はまだありませんが、リスクを下げると考えられている方法がいくつかあります。
- 経口避妊薬(ピル)の服用:長期間の服用は、排卵を抑制することで卵巣がんのリスクを大幅に低下させることが知られています。ただし、血栓症などのリスクもあるため、服用は医師との相談が必要です。
- 妊娠・出産:妊娠中は排卵が止まるため、リスクを下げる要因となります。
- 適正体重の維持:肥満はリスクを高めるため、健康的な食生活と運動習慣を心がけましょう。
二次予防(早期発見・早期治療)
卵巣腫瘍は自覚症状が出にくいため、最も重要な予防は「定期的な検診による早期発見」です。
- 年に1回の婦人科検診:症状がなくても、年に1回は婦人科を受診し、経腟超音波検査を受けることを強くおすすめします。子宮頸がん検診だけでは卵巣の異常はわからないため、必ず超音波検査を併せて受けることが大切です。
日常生活の工夫
卵巣腫瘍と診断された後も、生活の質(QOL)を保ちながら過ごすための工夫はたくさんあります。
- 体調を記録する:日々の体調や症状、治療の副作用などをメモしておくと、医師に正確に伝えられ、適切な対処につながります。
- 食事の工夫:化学療法の副作用で食欲がないときは、無理に食べようとせず、ゼリーやスープ、アイスクリームなど、口当たりが良く、のどごしの良いものから試してみましょう。栄養補助食品を上手に利用するのも良い方法です。
- 無理のないスケジュール管理:治療中は体力が落ちやすいため、仕事や家事は無理のない範囲で行い、休息を優先しましょう。
- 気分転換と精神的なケア:趣味や好きなことに時間を使うなど、リラックスできる時間を持つことが、心の健康につながります。また、同じ病気を経験した人と話せる患者会に参加したり、病院のがん相談支援センターで臨床心理士によるカウンセリングを受けたりすることも、不安を和らげる助けになります。
家族・周囲のサポート
ご家族や周囲の方は、患者さんの最も身近な支えです。病気や治療について正しく理解し、精神的なサポートをすることが大切です。
- 話を聞く:不安や悩みをただ聞いてあげるだけでも、患者さんの心の負担は軽くなります。「大変だね」「つらいね」と気持ちに寄り添う言葉をかけ、決して本人のがんばりを否定しないようにしましょう。
- 家事や通院のサポート:体調が優れないときの家事の分担や、病院への付き添いなどは、具体的な助けになります。
- 過度な心配や干渉を避ける:「がんにはこれが効く」といった不確かな情報に振り回されず、本人の気持ちを尊重し、静かに見守る姿勢も重要です。「がんばって」という言葉が、時にはプレッシャーになることもあります。
よくある質問(FAQ)
Q1: 卵巣腫瘍はなぜできるのですか?
A: はっきりとした原因はまだわかっていませんが、排卵のたびに卵巣が傷つき、修復する過程で異常が起きることや、ホルモンバランス、遺伝、生活習慣などが複雑に関わっていると考えられています。
特にリスクが高いとされるのは、出産経験がない、初経が早い、ご家族に乳がん・卵巣がんの方がいる、などです。
Q2: 卵巣腫瘍は自覚症状がないと聞きますが、どうすれば早期発見できますか?
A: 卵巣腫瘍の早期発見のために最も有効なのは、症状がなくても年に1回、婦人科で経腟超音波検査を受けることです。
お腹の張りや下腹部の違和感、頻尿などが続く場合も、更年期の症状や加齢のせいと自己判断せず、一度婦人科を受診することをお勧めします。
Q3: 卵巣嚢腫(良性)と診断されました。手術は必要ですか?
A: 腫瘍の大きさや種類、年齢などによって方針が異なります。一般的に、腫瘍が5~6cm以上の大きさになった場合や、茎捻転(腫瘍がねじれること)や破裂のリスクがある場合、悪性の可能性が否定できない場合などは手術が検討されます。
小さいものであれば、定期的な経過観察となることも多いので、医師とよく相談してください。
Q4: 卵巣がんと診断されました。どのような治療法がありますか?
A: 卵巣がんの治療は、手術でがんを取り除く「手術療法」と、抗がん剤でがん細胞を叩く「化学療法」を組み合わせるのが基本です。手術でがんを可能な限り切除し、その後に化学療法で再発を防ぐのが標準的な流れです。
近年は、がんの特性に合わせた分子標的薬なども使われ、治療の選択肢は増えています。
Q5: 50代ですが、閉経後でも卵巣腫瘍になりますか?
A: はい、なります。むしろ卵巣がんは閉経後の50代から60代に発症のピークを迎えます。
閉経後は排卵がなくなるためリスクが下がるように思われがちですが、これまでの排卵の積み重ねや加齢による影響で発症します。閉経後に出血があったり、お腹の張りを感じたりした場合は、すぐに婦人科を受診してください。
Q6: チョコレート嚢胞があると卵巣がんになりやすいですか?
A: チョコレート嚢胞(子宮内膜症性卵巣嚢胞)がある方は、ない方に比べて卵巣がん(特に明細胞がんや類内膜がん)になるリスクが少し高まることがわかっています。
ただし、がん化する頻度は1%程度とされています。定期的に検診を受け、大きさや性状の変化をチェックしていくことが非常に重要です。
Q7: 卵巣腫瘍の手術後、生活で気を付けることはありますか?
A: 術後はまず体力の回復を優先し、無理をしないことが大切です。食事はバランス良く、ウォーキングなどの軽い運動を体調に合わせて行いましょう。
両方の卵巣を摘出した場合は女性ホルモンが欠乏し、更年期障害のような症状(ほてり、気分の落ち込みなど)が出ることがあります。つらい場合はホルモン補充療法などの治療も可能ですので、我慢せずに主治医に相談してください。
また、リンパ節を切除した場合は、足のむくみ(リンパ浮腫)が起こることがあります。長時間の立ち仕事は避ける、保湿を心がけて皮膚を清潔に保つ、専用の弾性ストッキングを着用するなどのセルフケアが大切です。
Q8: 遺伝で卵巣がんになることはありますか?
A: はい、卵巣がんの一部は遺伝が強く関わっています。「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」がその代表で、BRCA1またはBRCA2という遺伝子に変異があると、生涯のうちに卵巣がんや乳がんを発症するリスクが非常に高くなります。
血縁者にこれらの癌にかかった方が複数いる場合は、遺伝カウンセリングや遺伝子検査について医師に相談してみることをおすすめします。
Q9: 卵巣腫瘍の検査ではどのようなことをしますか?
A: まずは問診、内診、そして経腟超音波検査で腫瘍の有無や大きさを確認します。さらに詳しく調べる必要がある場合は、MRIやCTなどの画像検査や、血液検査(腫瘍マーカー)を行います。
これらの検査で悪性が疑われた場合、最終的には手術で摘出した組織を調べる病理検査で確定診断がつきます。
Q10: 卵巣腫瘍の治療費はどのくらいかかりますか?
A: 治療費は、手術の方法(腹腔鏡か開腹か)、入院期間、化学療法の種類などによって大きく異なります。
日本の公的医療保険制度には、医療費の自己負担額が一定の上限を超えるとその超過分が払い戻される「高額療養費制度」があります。
この制度を利用するには、事前にご加入の健康保険組合や市町村の窓口で「限度額適用認定証」を申請し、医療機関の窓口に提示する必要があります。そうすることで、窓口での支払いが自己負担限度額までとなります。
ご自身の所得によって限度額は異なりますので、詳細は必ずご確認ください。また、がん相談支援センターなどで社会保険労務士に相談することも可能です。
まとめ
大切なポイント
- 卵巣腫瘍は初期症状がほとんどなく、「お腹の張り」がサインのことがあるため見過ごさないでください。
- 治療の基本は手術ですが、種類や進行度によって化学療法などを組み合わせ、最適な方法を選択します。
- 生活の質を保つためには、治療の副作用対策や、心のケア、周囲のサポートが非常に重要です。
- 早期発見が何よりも大切です。症状がなくても年に一度は婦人科検診(経腟超音波検査)を受けましょう。
卵巣腫瘍という病名を聞くと、多くの方が不安に思われることでしょう。しかし、大切なのは、いたずらに怖がるのではなく、正しい知識を持ってご自身の体と向き合うことです。
今は治療法も進歩し、多くの選択肢があります。信頼できる医師と共に、ご自身にとって最善の道を見つけていきましょう。この記事が、その一歩を踏み出すための小さな助けとなれば、私たちにとってこれ以上の喜びはありません。
健康に関するご相談は最寄りのかかりつけ医へ
この記事の健康情報は一般的な内容です。ご自身の症状や体調について心配なことがある場合は、必ずかかりつけ医にご相談ください。
適切な診断・治療には専門医による個別の判断が不可欠です。自己判断せず、まずは信頼できる医師にお話しすることをおすすめします。
監修者プロフィール:沢岻 美奈子さん

日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医。神戸にある沢岻美奈子女性医療クリニックの院長。子宮がん検診や乳がん検診、骨粗鬆症検診まで女性特有の病気の早期発見のための検診を数多く行っています。更年期を中心にホルモンや漢方治療も行い、女性のヘルスリテラシー向上のために、実際の診察室の中での患者さんとのやりとりや女性医療の正しい内容をインスタグラムで毎週配信。




