体力をつける方法とは?体力低下の原因・予防法・よくある質問【医師監修】
体力をつける方法とは?体力低下の原因・予防法・よくある質問【医師監修】
公開日:2025年09月10日
この記事3行まとめ
✔ 体力低下は加齢、筋肉量減少、女性ホルモン減少、運動不足などが原因となり、慢性的な疲労、気分の落ち込みなどが現れる
✔ 体力づくりは「運動」「食事」「休養」の3本柱が基本で、ウォーキングから始め、筋トレ、たんぱく質中心の食事を組み合わせるのがよい
✔ 正しい知識と無理のない計画で継続することが重要で、強い疲労や急激な体重減少などがみられる場合はかかりつけ医の受診が必要
体力をつける方法とは?
50代以上の女性に知っていただきたい基本知識
「体力」とは、単に力持ちであることや、長時間運動できることだけを指すのではありません。医学的には、「生命を維持するための基本的なエネルギー」と「活動的に動くための行動的なエネルギー」の2つに分けられます。50代以上の女性にとって「体力をつける」とは、病気に負けないよう抵抗力を高め、日々の生活を元気に、自分らしく楽しむための基盤を作ることなのです。
体力が低下すると、さまざまなサインが体に現れます。
よく見られる身体的症状
- 疲れやすい、だるい:以前は平気だった家事や買い物でも、すぐに息切れがしたり、休息が必要になったりします。
- 寝ても疲れが取れない:十分な睡眠時間を確保しても、朝から体が重く感じられます。
- 階段や坂道がつらい:下半身の筋力低下により、昇り降りが億劫になります。
- 風邪をひきやすくなった:免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなります。
- 肩こりや腰痛が続く:体を支える筋力が衰え、姿勢が悪くなることが原因の一つです。
心理的な変化
- やる気が出ない、億劫に感じる:体を動かすのが面倒になり、新しいことへの挑戦や外出を避けるようになります。
- 気分が落ち込みやすい:体力の低下が自信の喪失につながり、気持ちがふさぎ込むことがあります。
厚生労働省の「国民健康・栄養調査」(2023年)によると、特に女性は50歳を過ぎたあたりから、運動習慣のある人の割合が減少し、体力の低下を自覚する人が増加する傾向にあります。しかし、同調査では、定期的な運動習慣を持つ人は、そうでない人に比べて体力水準が高く、生活習慣病のリスクも低いことが示されています。今からでも決して遅くはありません。
体力低下の原因とメカニズム
1.生理学的要因
- 年齢による筋肉量の減少(サルコペニア):特別な運動をしないと、筋肉量は30代をピークに徐々に減少し、50代以降はそのスピードが加速します。筋肉は体を動かすエンジンであり、熱を生み出す役割も担っているため、筋肉が減ると体力低下や冷えに直結します。
- 女性ホルモン(エストロゲン)の減少:更年期を迎えると、女性ホルモンであるエストロゲンが急激に減少します。エストロゲンには、筋肉や骨の維持、自律神経の安定化といった働きがあるため、その減少が体力低下、骨粗鬆症のリスク増加、気分の浮き沈みなど、心身のさまざまな不調を引き起こします。
- 心肺機能の低下:年齢とともに、心臓が血液を送り出す力や、肺が酸素を取り込む能力も徐々に低下します。これにより、全身に酸素が効率よく運ばれなくなり、持久力が低下します。
2. 環境的要因
- 運動不足:仕事や家事で忙しく、意識的に運動する機会が減ることが大きな原因です。特にデスクワーク中心の生活や、車での移動が多いライフスタイルは、体力低下を招きやすいと言えます。
- 食生活の乱れ:食事量が減ったり、あっさりしたものを好むようになったりすることで、筋肉の材料となるたんぱく質や、エネルギー源となる炭水化物が不足しがちになります。
3. 心理社会的要因
- ストレス:仕事、家庭、介護など、50代・60代の女性は多くの役割を担い、ストレスを抱えやすい時期です。慢性的なストレスは自律神経のバランスを乱し、疲労感や不眠、意欲の低下につながります。
- 社会的役割の変化:子育てが一段落したり、退職を迎えたりすることで、生活のハリを失い、活動量が減ってしまうこともあります。
発症メカニズム
これらの要因が複雑に絡み合い、「筋肉量の減少 → 基礎代謝の低下 → 疲れやすくなる → 活動量が減る → さらに筋肉量が減少する」という悪循環に陥ってしまいます。このサイクルを断ち切り、良い循環へと転換させることが、体力づくりの鍵となります。
リスク要因
- 運動習慣がない
- 食事が偏っている(特にたんぱく質不足)
- 睡眠不足
- 慢性的なストレスを抱えている
- 肥満または痩せすぎ
- 喫煙・過度な飲酒
体力低下のサインとセルフチェック
自身の体力がどのくらいか、簡単なチェックをしてみましょう。
- 片足で靴下を履くのが難しい
- 家の中でつまずいたり滑ったりすることがある
- 15分くらい続けて歩くと疲れてしまう
- 2リットルのペットボトル飲料の買い物などが重く感じる
- 以前より外出するのが億劫になった
一つでも当てはまる場合は、体力が低下しているサインかもしれません。
いつ受診すべきか
「ただの体力低下」と思っていても、背景に病気が隠れている場合があります。以下のような症状が続く場合は、一度かかりつけ医に相談しましょう。
- 安静にしていても動悸や息切れがする
- 急激な体重減少
- これまでにないほどの強い疲労感や倦怠感が続く
- めまいや立ちくらみが頻繁に起こる
- 気分の落ち込みが激しく、何も楽しめない
受診すべき診療科
まずは、日頃からご自身の健康状態を相談できる「かかりつけ医(内科や総合診療科)」を受診するのが良いでしょう。必要に応じて、整形外科や婦人科、心療内科など、専門の診療科を紹介してもらえます。
体力をつけるための具体的な方法
体力をつけるための基本は「運動」「食事」「休養」の3本柱です。医師と相談しながら、ご自身の体力レベルやライフスタイルに合った、無理のない計画を立てることが大切です。
運動療法
厚生労働省も推奨しているように、特別な運動である必要はありません。「今より少しでも多く体を動かす」ことを意識しましょう。
1. 有酸素運動(持久力アップ)
心肺機能を高め、血行を促進します。少し息が弾むくらいの強度が目安です。
- ウォーキング:最も手軽で安全な運動です。まずは1日10分から始め、慣れてきたら少しずつ時間を延ばし、最終的に1日30分以上を目指しましょう。背筋を伸ばし、腕を軽く振って、少し大股で歩くのがポイントです。
- 水中ウォーキング:膝や腰への負担が少なく、水の抵抗で効率よく筋肉を鍛えられます。関節に不安がある方におすすめです。
- スロージョギング:おしゃべりできるくらいのゆっくりとしたペースで走ります。ウォーキングより運動強度が高く、効果的に体力をつけられます。
2. 筋力トレーニング(筋力アップ)
筋肉量を維持・向上させ、疲れにくい体を作ります。週2〜3回を目安に行いましょう。
- スクワット:下半身の大きな筋肉をまとめて鍛える「筋トレの王様」です。椅子に座るようにお尻をゆっくり下ろし、ゆっくりと元の姿勢に戻ります。膝がつま先より前に出ないように注意しましょう。
- かかと落とし:まっすぐに立ち、つま先立ちでゆっくりと体を持ち上げた後、ストンと一気にかかとを床に下ろします。骨を刺激し、骨粗しょう症予防にも効果が期待できます。
- 壁立て伏せ:壁に向かって立ち、両手を壁について腕立て伏せをします。腕や胸の筋力を安全に鍛えられます。
3. ストレッチ・バランストレーニング
体の柔軟性を高め、転倒を予防します。
- ラジオ体操:全身をバランスよく動かす、優れた運動です。
- ヨガ:深い呼吸とともにゆっくりとポーズをとることで、心身ともにリラックスできます。
- 片足立ち:椅子や壁につかまりながら、左右1分ずつ行います。バランス能力の向上に役立ちます。
食事療法
- たんぱく質を十分に:筋肉の材料となるたんぱく質は、毎食欠かさず摂りましょう。肉、魚、卵、大豆製品(豆腐、納豆)、乳製品などをバランスよく組み合わせるのが理想です。特に運動後は、傷ついた筋肉を修復するためにたんぱく質を補給すると効果的です。
- バランスの良い食事:主食(ごはん、パン)、主菜(肉、魚など)、副菜(野菜、きのこ、海藻)をそろえることを意識しましょう。
- 骨を強くする栄養素:カルシウム(乳製品、小魚など)と、その吸収を助けるビタミンD(きのこ類、魚類)も積極的に摂りましょう。
生活習慣による管理
- 質の良い睡眠:毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる習慣をつけましょう。寝る前のスマートフォン操作は避け、リラックスできる環境を整えることが大切です。
- ストレスマネジメント:趣味の時間を楽しんだり、友人とおしゃべりしたり、自分なりのストレス解消法を見つけましょう。
- 体を冷やさない:体が冷えると血行が悪くなり、疲れやすくなります。夏場でも冷房の効かせすぎに注意し、温かい飲み物や入浴で体を温めましょう。
予防法と日常生活での注意点
一次予防(体力低下の予防)
- こまめに動く習慣を:「座りっぱなし」の時間を減らし、家事の合間にストレッチをしたり、テレビを見ながら足踏みをしたりするなど、意識的に体を動かしましょう。
- 社会参加:地域の活動や趣味のサークルなどに参加し、外に出る機会を増やすことも、心身の健康維持につながります。
二次予防(早期発見・早期対応)
- 定期的な体力チェック:年に一度は体力測定などを受けて、ご自身の体の変化を客観的に把握しましょう。
- 体の声に耳を傾ける:「いつもと違う」と感じたら、無理せず休息をとり、長引く場合はかかりつけ医に相談しましょう。
家族・周囲のサポート
ご家族や友人と一緒にウォーキングを始めるなど、周りを巻き込むのも長続きの秘訣です。「一緒にやろう」と声をかけ、励まし合うことで、楽しく運動を習慣化できます。
よくある質問(FAQ)
Q1: どんな運動から始めたらよいですか?
A: まずは「ウォーキング」から始めるのがおすすめです。特別な道具も必要なく、ご自身のペースで安全に行えます。1日10分程度から始め、慣れてきたら少しずつ時間を延ばしてみてください。「もう少しできそう」と感じたら、スクワットなどの簡単な筋トレを加えていくと、さらに効果的です。大切なのは、無理なく「楽しい」と思えること。楽しければ自然と続けられますよ。
Q2: 運動は毎日しないと意味がありませんか?
A: 毎日できなくても大丈夫です。週に2〜3回でも、継続することで体力は着実に向上します。むしろ、がんばりすぎて体を痛めてしまっては元も子もありません。雨の日や体調が優れない日は思い切って休み、代わりにストレッチをするなど、柔軟に考えましょう。「継続は力なり」です。ご自身の生活リズムに合わせて、無理のない計画を立てることが成功の鍵です。
Q3: 食が細くなり、あまり食べられません。どうすればよいですか?
A: 50代以上になると、一度にたくさんの量を食べるのが難しくなることがありますね。その場合は、食事の回数を1日3回から4〜5回に分けて、一度に食べる量を減らす「分食」を試してみてはいかがでしょうか。また、調理法を工夫して、少量でも栄養価の高いものが摂れるようにするのも良い方法です。例えば、お味噌汁に卵や豆腐、野菜をたくさん入れるだけでも、立派な栄養補給になります。
Q4: 運動する時間がないのですが、どうすれば体力をつけられますか?
A: まとまった時間が取れなくても、日常生活の中に運動を取り入れる「ながら運動」がおすすめです。例えば、歯を磨きながらかかとを上げ下げする、テレビを見ながらその場で足踏みをする、エスカレーターではなく階段を使用するなど、小さな工夫の積み重ねが大きな力になります。まずは「座っている時間を減らす」ことを意識するだけでも、体は変わってきますよ。
Q5: 膝や腰が痛いのですが、どんな運動ならできますか?
A: 膝や腰に痛みがある場合は、無理は禁物です。まずは、かかりつけの医師や理学療法士に相談し、どのような運動が適しているかアドバイスをもらいましょう。一般的には、膝や腰への負担が少ない「水中ウォーキング」や、椅子に座って行う筋力トレーニングなどが推奨されます。痛みを悪化させないためにも、自己判断で運動を始めるのは避けてください。
Q6: プロテインを飲んだ方が良いですか?
A: プロテインはたんぱく質を手軽に補給できる便利な補助食品ですが、必ずしも全員が必要なわけではありません。まずは、毎日の食事から十分なたんぱく質を摂ることを基本に考えましょう。肉・魚・卵・大豆製品などをバランスよく食べていれば、多くの場合、必要量は満たされます。食が細くてどうしても食事が摂れない場合や、運動量が多い場合に、補助的に利用するのは良いでしょう。利用する際は、医師や管理栄養士に相談することをおすすめします。
Q7: 更年期症状もあって、体も心もつらいです。
A: 更年期はホルモンバランスが大きく変化するため、体だけでなく心にも不調が現れやすい時期です。体力の低下と相まって、つらいお気持ちを抱えていらっしゃるのですね。一人で抱え込まず、まずは婦人科やかかりつけ医にご相談ください。ホルモン補充療法(HRT)や漢方薬などで症状が和らぐこともあります。また、ヨガやストレッチなど、ゆったりとした動きは自律神経を整え、心を落ち着かせる効果も期待できます。
Q8: 体力をつけるのに、どれくらいかかりますか?
A: 体力の向上には個人差がありますが、一般的に、運動習慣を始めてから「少し楽になったかな?」と感じ始めるまでに、2〜3か月かかると言われています。焦らず、長期的な視点で取り組むことが大切です。昨日より今日、今日より明日と、少しずつの変化をご自身で褒めてあげながら、気長に続けていきましょう。
Q9: やる気が出ない日でも、無理して運動した方が良いですか?
A: やる気が出ない日に無理をする必要はありません。そんな日は、心と体を休ませることも大切なトレーニングの一部です。散歩に出て気分転換をしたり、好きな音楽を聴きながら軽いストレッチをしたりするだけでも十分です。運動を「義務」と捉えず、「気分転換の手段」の一つとして、気楽に付き合っていくのが長続きのコツですよ。
Q10: 家族に協力してもらうには、どうすれば良いですか?
A: ご自身の体力への不安や、「これから健康のために運動を始めたい」という気持ちを、素直にご家族に話してみてはいかがでしょうか。「一緒にウォーキングしない?」と誘ってみたり、「食事でこんな工夫をしたいんだけど、協力してくれる?」とお願いしてみたり。ご家族も、あなたの健康を願っているはずです。共通の目標を持つことで、きっと良いサポーターになってくれますよ。
まとめ
この記事では、50代以上の女性が無理なく体力をつけるための方法について、運動・食事・休養の観点から解説しました。
大切なポイント
- 体力低下は加齢やホルモンバランスの変化、生活習慣が原因。
- 「今より少しでも多く動く」意識から始め、ウォーキングや簡単な筋トレを習慣に。
- 筋肉の材料となるたんぱく質を意識した、バランスの良い食事を心がける。
- 十分な睡眠とストレスケアで、心と体をしっかり休ませることも重要。
体力の変化を感じる今こそ、ご自身の体と向き合う絶好の機会です。焦る必要はありません。ご自身のペースで、できることから一つずつ始めてみませんか。昨日より少しでも元気に、笑顔で過ごせる日が増えること、それが体力づくりの素晴らしいゴールです。
健康に関するご相談は最寄りのかかりつけ医へ
この記事の健康情報は一般的な内容です。ご自身の症状や体調について心配なことがある場合は、必ずかかりつけ医にご相談ください。
適切な診断・治療には専門医による個別の判断が不可欠です。自己判断せず、まずは信頼できる医師にお話しすることをおすすめします。
監修者プロフィール:菊池 大和さん

きくち総合診療クリニック(神奈川県綾瀬市)院長。医療法人ONE理事長。日本慢性期医療協会総合診療認定医。日本医師会認定健康スポーツ医。認知症サポート医。身体障害者福祉法指定医(呼吸器)。「病気を診て、人を診て、一人でも多くの命をやさしく包み込む医療を提供する」を理念に診療にあたる。著書に『「総合診療かかりつけ医」が患者を救う』(2021年)、『「総合診療かかりつけ医」がこれからの日本の医療に必要だと私は考えます。』(2024年)。




