ダウン症の書家の最高に純粋な世界#3

金澤翔子の言葉|お母様、幸せ?

公開日:2023.06.05

更新日:2023.06.11

ダウン症の書家・金澤翔子と母・金澤泰子さん。二人三脚で「書」の道を歩んできた二人、翔子さんの「書」と母の解説。ダウン症の書家の、最高に純粋(ピュア)な世界から、美しい心で生きるヒントが見つかります。《シリーズ第3回》

金澤翔子さん・泰子さんのプロフィール

1985(昭和60)年、東京生まれ。生後すぐダウン症と診断される。5歳で母・泰子(やすこ)に師事し、書道を始める。20歳で初の個展を開催。鎌倉の建長寺、京都の建仁寺、奈良の東大寺ほか、各地で個展を開く。2023年6月より、初のドキュメンタリー映画「共に生きる 書家・金澤翔子」が上映中。金澤翔子 公式ホームページ:https://k-shoko.org/

お母様、幸せ?

広島のホテルでのこと。大きな窓からの月の光に照らされて、翔子が私に「お母様、幸せ?」と問いかけてきた。

「うん、幸せだよ」と答えると、「お母様、うれしい?」と聞いてくる。私はこのとき涙が止まらなかった。翔子が誕生した二十数年前、ダウン症の告知を受けて涙にくれ、その日から余りの苦しさに日記をつけ始めた。

告知された日、「今日、私は日本でいちばん悲しい母だろう」と書いた。その後もオロオロと悲嘆に暮れて、この世から消えてしまおうと、もがいていた。それでも時間に助けられ、今、私は「母さんは日本一幸せだよ」と答えられる。

死のうとしても死ねなかった私は思う。生きていれば絶望は無いと。

翔子には、悪いところが一つもない

翔子の純粋さ、愛情の深さは比類のないものです。

ほんとうに、翔子には悪いところが一つもない。たぶん私の方が、翔子の愛と笑顔に支えられ、守られているのでしょう。翔子の愛情は書にあふれ、書を見てくださる方々にあふれて、昨日より今日、今日より明日をよりよい世の中に変えていっているのだと思います。

金澤泰子――『お母様、大好き』あとがきより

写真=中西裕人
※この記事は書籍『お母様、大好き』(ハルメク刊:2014年発売)より一部抜粋しています。

■シリーズ「ダウン症の書家・金澤翔子さん、泰子さん母娘の歩み」(全5回)

  1. ダウン症の書家・金澤翔子さん・泰子さん母娘の歩み
  2. 金澤泰子|自分が死んだ後、娘は一人でどうなるか?
  3. ダウン症の書家・金澤翔子さんの念願のひとり暮らし
  4. 金澤泰子|ダウン症の書家・翔子の母が語る親の使命
  5. 金澤泰子|人間は生きているだけで大成功なんです

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