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- 群言堂・松場登美さんの「使いきる」暮らし
石見銀山で衣料ブランド「群言堂」を運営するかたわら、古民家の再生を手がける松場登美さん。古い家に宿る魂を大切にしながら、今の暮らしに生かすのが楽しいと言います。登美さんの暮らしぶりに触れたくて、宿泊施設「他郷阿部家」を訪ねました。
家の声に耳を傾ける
松場登美さんが夫・大吉さんの実家がある石見銀山で暮らし始めたのは37年前のこと。豊かな自然や昔ながらの美しい町並み、近所の人たちとの心の通った付き合いなどを通して、「この土地は自分らしく生きていける、神様が私に授けてくださった場所だと確信した」と言います。1989年に雑貨ブランド「ブラハウス」店舗(現・群言堂石見銀山本店)を立ち上げ、修復した古民家を店舗にしたのをきっかけに、古民家の再生がライフワークになりました。「家の声に耳を傾けると、どう修復して、どう使おうか見えてくる」
その集大成ともいえるのが、築230年の武家屋敷を再生した「他郷阿部家(たきょうあべけ)」です。10年以上かけ、武家屋敷としての品格を残しつつ、登美さんらしい暮らしが息づいた“理想の”空間に生まれ変わりました。
「“他郷”というのは、異郷の地でまるで自分の故郷のように迎えられる喜び、縁の尊さを意味する中国の言葉に由来しています」
「他郷阿部家」を訪れた人の縁で、2018年、バンコクで開催されたユネスコ国際シンポジウムで登美さんが事例発表を行いました。「暮らしに対する価値観や環境問題への意識の高さなど、人口400人の小さな町の暮らしが、世界中の人たちから注目を集めました。日本人の感性や美意識がこの土地から発信できたらいいなと思っています」
最後まで使いきる、あるものを生かしきる
「結婚した当初、二人ともお金がなくて、家具や家電は道端で拾ったものを修繕し、リメイクして使っていました。そのとき新しいものが買えないストレスよりも、磨いたり工夫したりして再生することの楽しさを感じていました」と登美さんは言います。「思えばその当時から古いものを新しい形で再生させる“復古創新”をしていましたね」
「他郷阿部家」では、さまざまな“復古創新”のものが使われています。例えば食堂に置かれた長机とパイプ椅子は、解体された小学校で使われていたもの。床に張られた木材は、体育館で使われていたものだそう。通路には石見焼の窯で使われなくなった耐火レンガが敷かれています。「廃材には使い込まれた味わいがあって美しく、古民家にもすっとなじむんです。一つの役目を終えたものを、次は何に使おうか考えるとワクワクします」
障子は破れたところにつぎはぎでいろいろな紙が張られ、ガラス戸もパッチワークのように柄が組み合わさり、透ける光が美しい模様を作り出していました。洗面所には半分に割れた甕かめをきれいに加工したボウルも。
「もちろん便利なもの、新しいものを否定するわけではないです。私はそういうものも気に入れば積極的に取り入れます」と登美さん。「ただ、壊れても簡単に捨てることはせず、修復しながら最後まで使いきる。今あるものでどうにかできないか工夫してみる。若い世代の人たちには、そういった丁寧に暮らすことを受け継いでもらいたいです」
取材・文=三橋桃子(ハルメク編集部) 撮影=青木倫紀 ※この記事は「ハルメク」2018年11月号に掲載された内容を再編集しています。
他郷阿部家
住所:島根県大田市大森町ハ159-1
電話:0854-89-0022
群言堂本店
住所:島根県大田市大森町ハ183
電話:0854-89-0077
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