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- 群言堂・松場登美さんの、自分を大切にする服と暮らし
島根県の石見銀山を拠点に豊かなライフスタイルを提案して人気の「群言堂」。昔ながらの知恵や職人技を守りつつ、現代の暮らしに生かし続けるファッションや生活用品を生み出すデザイナーの松場登美さんに、服作りへのこだわりと群言堂の精神を伺いました。
着て楽、見て楽、心が元気。それが群言堂の服作りの要です
島根県の世界遺産、石見銀山。山間の町を訪れると、センスのよい服に身を包んだ人々を見掛けます。それはこの土地で働く「群言堂」のスタッフたち。着心地のよさそうなシルエット、周りの自然に溶け込む美しい色。そして何より、その服をまとった人たちの健やかな笑顔に目を引かれます。
「人は、特に女性は、着るものに影響を受けやすい。だから群言堂の服作りでは、見て楽、着て楽、心が元気、の3つを常に大切にしています」。そう話すのは、群言堂の代表でもあり、デザイナーでもある松場登美(まつば・とみ)さん。
そんな登美さんがデザインした服には、日本の職人の手で作られた天然素材の生地が多く使われています。
「皮膚は内臓の一部ともいいますが、肌で感じたことは体や心に直接影響するもの。そのため、肌ざわりは特に大切にしています。素材の気持ちよさを一番感じるのは、汗や日差しで敏感になる夏場。日本の職人は、夏を過ごしやすくする知恵に長け、ちぢみや楊柳(ようりゅう)など優れた生地をたくさん作り出してきました」
しかし、そうした技術を持つ機屋の数は徐々に減り、全盛期に何百軒とあった機屋が今はほんの数軒だけ、という土地も少なくありません。
「そういう職人の技術を今の服や暮らしに生かすことで、優れた技術を残していこうという気持ちでものづくりを行っています。また職人さんと一緒に『どうやったら心地よく楽しく着ていただけるだろう』ってあれこれお話しすることで、他にない群言堂ならではの素材が生まれてくるのです」
普段の装いが体に大きな影響をもたらす
「以前、中国の古書の中に『飲食衣服大薬なり』という言葉を見つけました。漢方やお灸などの治療より、食事や服が何より薬になる。そんな教えがあったのかと、目からうろこでした。その『服薬』の考えが、群言堂には生きているんです」と、登美さん。
あるとき登美さんは、大病をした友人へのお見舞いに服を贈ったそう。その友人は、届いた服を部屋であれこれ着替えているうちに気分がよくなり、そのまま散歩に行ったところ、近所の方から「今日は元気そうだね」と声を掛けられた、というエピソードが。
「服にはそういう力があるんだ、とあらためて気付かされました。洋服は見た目も大切な要素ですが、さらに心地いい素材を身にまとうことで、確実に体も心も元気になります」
さらに登美さんは続けます。
「その人がその人らしく素敵に見える、そんな服作りが理想です。体に合わせて融通が利いて、身長も体形も、年齢も気にせず着られる。見た目に自信がなくても『私は私よ』って思える、自分を愛せる服をこれからも作り続けたいですね」
昔の知恵を今に生かす「復古創新」の精神を大切に
「もう一つ、群言堂が大事にしている考え方に『復古創新』という精神があります。単に昔に戻るということではなく、古くから受け継がれてきたものを、新しい形で今の生活に取り込んでいくという考え方です」。そう登美さんは続けます。
「例えばエアコンのなかった時代、雨戸を開け放って家の中に風を通し、うちわをもって縁側で涼む……という風景が日常でしたが、時代とともに暮らしは変化し、そんなライフスタイルもなかなか見なくなりました。そもそも最近は夏が暑すぎて、昔のままでいることはより難しくなってきています。
でも朝起きて、毎日暑くて嫌だなあって思うよりも、マンションの窓を開けて風鈴を吊るしたり、カーテンやソファーのカバーを夏向けの生地に変えてみたりするだけで、気分はガラッと変わります。人は五感を使って暮らしているので、温度が実際に何度下がったという事実よりも、身の回りを少し工夫することで、今より何倍も過ごしやすくなります」と登美さん。
「先ほどの職人さんの知恵も同じこと。昔から伝わる優れた知恵を生かしながら、今現在のライフスタイルに合った服や暮らしを提案するのが群言堂のやり方です」
松場登美さんのプロフィール
松場登美
まつば とみ 1949年、三重県生まれ。81年に夫の実家がある島根県大田市大森町(石見銀山)に帰郷。88年、有限会社「松田屋」を設立。98年、株式会社「石見銀山生活文化研究所」を設立し、アパレル事業とともに、古民家再生に取り組む。98年に築200年以上の武家屋敷を買い取り、改修に着手。2008年から「暮らす宿 他郷阿部家」として宿泊を受け入れている。
撮影=タナカタイゾー、中西裕人(モデル)
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