キルト作家 林アメリーさんの自宅

更新日:2023年04月02日 公開日:2019年05月31日

「無駄のない暮らし」で心軽やかに

林アメリーさんの着物リフォームのある暮らし

クリスチャン・ディオールのお針子として第一線で活躍し、86歳(取材当時)になっても着物のキルト作家として多くのファンに支持される林アメリーさん。無駄のない暮らしを実践するアメリーさんのご自宅に伺い、リサイクルの知恵をのぞかせてもらいました。

キルト作家・林アメリーさんとは?

林アメリ―さんは1933年、フランス・オートヴィエンヌ県生まれ。きもの地でキルトを制作するキルト作家として活動しています。

アメリ―さんの“糸と針の人生”は、10歳のときに古い服からスカートを作ったことから始まりました。14歳からパリの裁縫学校で学び、卒業と同時にクリスチャン・ディオールのアトリエへ。お針子として働き始め、24歳の若さでアトリエの主任補佐となり、イギリスのマーガレット王女のドレス制作に携わるなど活躍しました。ディオール亡きあとイヴ・サンローランがディオールブランドの後継者となり、アメリ―さんもサンローランと現場を共にします。

イヴ・サンローランと林アメリ―さん
1958年、ディオール時代にイヴ・サンローラン(中央)と。
右から3人目がアメリ―さん(林アメリ―さん提供)

その後、アメリーさんはディオールを離れ、若手デザイナーとして頭角を現していたギ・ラロッシュのアトリエへ。そこで転機を迎えます。ギ・ラロッシュが日本の三越百貨店とオートクチュールの契約を結び、現地裁縫責任者として来日することになったのです。

一度フランスへ帰国したものの、三越百貨店から依頼を受けふたたび来日。日本人建築家と結婚したことをきっかけに、以来半世紀近くにわたって東京で暮らしています。

アメリーさんは日本で出合った「きもの」の美しさに惹かれ、最初はきもの地をブラウスやスカートにリフォームして楽しんでいました。その際に出る端切れさえも「もったいない」と感じるようになり、キルト作りを始めるようになりました。

編集部は、そんなアメリーさんの自宅を訪ね、制作の様子とともに物をいつくしむ暮らしを取材させていただきました。

着なくなったきものでキルトや洋服を作る

アメリーさんの家を訪れる人は、みんなしばらくの間、テーブルに着くことができません。なぜなら、部屋のあちこちに飾られたアメリーさんの手作り作品にワクワクして、鑑賞に夢中になってしまうから。

「暮らしの中で使われてこそ、作品が生きてくる」と考えるアメリーさんは、制作に1年近くかかったキルトもソファーカバーにしたり、アンティークの帯を大胆に使ってテーブルセンターにしたり。この作品たちは、季節や来客ごとに入れ替えられます。なので、訪れるたびに新しい作品に出合う楽しみがあるのです。

林アメリ―さんのキルト
寝室のベッドカバーはアメリ―さん手作りのキルト

「私の人生はね、子どもの頃からずっとリサイクルの人生なの」。アメリーさんはよくこう言います。着なくなったきものでキルトや洋服を作り、さらにその端切れも余すところなくきれいに使い切る——。「きものは世界一手間のかかった美しい手仕事ですもの。ひとつも無駄にすることはできないですよ」

木の根も鍵も、見方次第で作品になる!

林アメリ―さんの自宅
屋根裏のアトリエからちょこんと顔をのぞかせるキュートなアメリ―さん。
和箪笥の上にあるのが、庭の山椒の木の根を色付けしたオブジェ

リサイクルは、きものにとどまりません。リビングの箪笥の上の中央に飾られた朱色のオブジェも、実はアメリーさんの手作り。「これ、庭の山椒の木の根っこ。抜いたらながーく伸びたきれいな形をしていたから、赤く色をつけてこうして飾ってるの」。部屋に飾られた花をモチーフにしたような壁飾りは、よくよく見ると使わなくなった古い鍵でできています。

林アメリ―さんのオブジェ
さりげなく掛けられた壁飾り。よく見ると古い鍵でできています

「全部隣にあったおじいさんの家で使われていた鍵です。かわいい形をしているから、捨てるのがもったいなくて」。好奇心と遊び心いっぱいのアメリーさんの目には、すべての物が創作の材料として、キラキラと輝いて映るのです。

今ある物で豊かに暮らす工夫を始めた理由

林アメリ―さん
このテーブルクロスは、なんと古い布団の側生地!

アメリーさんの「リサイクル人生」が始まったのは、10歳の頃。5人きょうだいの末っ子だったため、おさがりの洋服ばかりだったアメリーさんが、古くなった布をリフォームして、初めて自分のお気に入りのスカートを縫ったことがきっかけでした。

林アメリ―さんのおやつ
庭のカリンでジャムを作った後、残った果肉を天日干しにしておやつに。
食材も残さず使い切ります
林アメリ―さん
きもの地に限らず、気に入った布はリサイクル。
お皿カバーも布団の側生地で

当時は第二次世界大戦の真っただ中。故郷フランス・オートヴィエンヌ県はナチス・ドイツの占領下にあり、物資が不足。貧しい暮らしを余儀なくされていました。そのため、限られた物を大切に使い、繕う暮らしが必然と身についたといいます。

「食料も衣類も配給制。貧しい中でも母は着古したセーターをほどいて服やクッションカバーを編んでくれて、新品でなくてもそれがとてもうれしかった。当時はいらない物や捨てる物なんて何もなくて、ここにある物でいかに豊かに暮らすか、そんな工夫をしながら生活していたものです」

手仕事の楽しみは、物に居場所を作ってあげること

今アメリーさんがライフワークとしている「パッチワーク・キルト」も、イギリスやアイルランドからアメリカへ移住した人たちが、着古した洋服や余り布を大事に持ち寄って作ったことが始まりといわれています。

写真のこの部屋は、ご自宅にあるアトリエです。
屋根裏のアトリエにて。CDを毛糸で黒い帯地に付けて、タペストリーに

「どんな物にも必ず生かされる『居場所』があるんですよ。この鮮やかな色のはぎれは、あのキルトに使えば映えるかな。いただきもののお菓子のリボンを集めて、タペストリーにあしらったらかわいくなりそう。そうやって頭の中でイメージして、それぞれに居場所を作ってあげるのね」

そう話しながら、CDを手にとったアメリーさんは、おもむろにオレンジの毛糸で黒い帯にくくり付け始めました。CDの新たな居場所は、新作の帯のタペストリーに決まったようです。

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取材・文=小林美香(ハルメク編集部)撮影=門間新弥
※この記事は、2015年4月号「ハルメク」を再編集しています。




林アメリーさんの著書『アメリーのきものやわらか暮らし』(1620円 ハルメク刊)は、全国の書店で好評発売中。Amazonハルメク通販でもご購入いただけます。ディオール勤務時代のエピソードやキルト作品の数々などアメリーさんの魅力を余すことなくご紹介しています。

※雑誌「ハルメク」は定期購読誌です。書店ではお買い求めいただけません。詳しくは雑誌ハルメクのサイトをご確認ください。


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