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- 作家・住井すゑさん「本来、人生は遊戯である」
「ハルメク」でエッセイ講座を担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回は、作家の「住井すゑ」さん。ライフワークとして命と平和の尊さを訴えつづけ、人間平等の思想を貫いた作家の、今に通じる考えについて語ります。
好きな先輩「住井すゑ(すみい・すえ)」さん
1902-1997年 作家
奈良県生まれ。17歳で上京、講談社に入社。21年、作家犬田卯と結婚、農民文学運動で活躍。35年、夫の郷里、茨城県牛久に移住。59年、『橋のない川』の執筆を始め、73年に第6部で完結したが、92年90歳にして第7部を発表した。
本来、人生は遊戯である
誰かの読みさしの本が、卓の上にぽん、と置かれていました。
『寅さんと日本の民衆』。
映画「男はつらいよ」ファンの長女が寅さんの本を読んでるんだな……と思いながら手にとり、驚きました。抱樸舎(ほうぼくしゃ)の本だったからです。
抱樸舎といえば、『橋のない川』で知られる作家・住井すゑの住まいであり、創作活動とさまざまな学習会の開かれた拠点ではありませんか(現在の茨城県牛久市)。
住井すゑと寅さん?と面食らいましたが、寅さんの人柄を愛する作家と、それを生みだした山田洋次(やまだ・ようじ)監督との対談で構成された本なのでした。
住井すゑの「はじめに」の語りを読んで、わたしは跳び上がりました。
本来、人生は遊戯である。(中略)七〇年、八〇年の生涯を楽しむための場なんです。人間、楽しめるように地球の構造は安全にできているわけなんです。それを争うために地球をぶっ壊しかねない、こんなばかなことあるもんじゃありませんね
跳び上がらずにおれませんでした。ひとはたのしむために生まれてきたのだ、とわたしも信じてきたけれど、なかなかおおっぴらに云(い)えずにいたのですもの。
本来の人間の楽しさをおしえてくれる存在
『橋のない川』を読んだのは20歳代後半。わたしに、作品に描かれた被差別部落への差別の惨(むご)さ、理不尽さが重くのしかかりました。
「差別をなくし、部落解放をするために書いている」という作家のことばを唱えながら、必死で読書したのでした。
全7部作ですが、95歳の死の間際まで、第8部の構想を練っていた証拠に、書斎の机上には「橋のない川 第八部」と書かれた原稿用紙が重なっていたそうです。
ここで冒頭の『寅さんと日本の民衆』にはなしをもどしましょう。寅さん登場です。住井すゑは寅さんを、社会の権力構造、人間の争いなんかという、そんな次元を超えて、本来の人間の楽しさをおしえてくれる象徴的存在としてとらえています。
おお、そうです。ライフワークとして、命と平和の尊さを訴えつづけ、人間平等の思想を貫いた作家は、ひとを愛する人情家でした!
そうしてすゑさん、『橋のない川』の「橋」は、いろいろな相手に、世界に、ここからは見えないだけでやがてあらわれる何かに向かって「架ける」意識のことですね。
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2020年8月号を再編集し、掲載しています。
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