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- 社会学者・鶴見和子さんが託した「膨大な学問と思想」
「ハルメク」でエッセイ講座を担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回は、社会学者の「鶴見和子」さん。大病により「学問が再編成された」という彼女から託された膨大な学問と思想…日本における霊性とは。
好きな先輩「鶴見和子(つるみ・かずこ)」さん
1918-2006年 社会学者
東京都生まれ。政治家で著述家の鶴見祐輔の長女として誕生。46年、丸山眞男、弟の鶴見俊輔と「思想の科学」を創刊。69年、上智大学教授。比較常民学の研究を進め、柳田國男、南方熊楠らの民俗学を分析・継承。多彩な著述を残した。
優雅にして気魄(きはく)あり
鶴見和子。
あこがれの先輩にちがいないけれど、社会学者、作家であること、「思想の科学」(1946-96)の創立メンバーのひとりであったこと、鶴見俊輔(しゅんすけ)の姉であることのほか、知っていることは多くはなかったのです。
1980-90年代、仕事先でときどきお見かけする機会がありました。いつも和服を着こなしておられ、たとえば大雨の日でも、それに変わりはありませんでした。ただの和服姿でないことはわたしにも伝わって、優雅にして気魄(きはく)あり、と畏敬の念をおぼえていました。
2012年、わたしが東京都武蔵野市の教育委員を拝命してからは、何かを学ぼうとするたび、書物のなかで鶴見和子と出会うことになるのでした。手帖には、抜き書きがいくつも残っています。
ことに市町村の文化行政について頭を悩ましていたとき、文化と福祉とはつながってくるという視点を与えられたことは大きな支えとなりました。
いまのところ、わたしが読んだのは柳田國男(やなぎた・くにお)論、南方熊楠(みなかた・くまぐす)論、水俣に関する数冊、それから内発的発展論(先に記した地域社会と文化に関する読書はここに含まれます)にとどまっています。
細胞の一つ一つが花開く
いまもっとも読みたいと考えているのが『回生』。
これは歌集です。1995年に脳出血で倒れ、左半身の麻痺で車椅子の生活をしていたときに生まれました。
鶴見俊輔によると、「姉」のなかに噴きだしてきた歌によって、それまでの学問が再編成されたといいます。
短歌が学問をひっぱってゆく……。そのきっかけをつくったのは脳出血という病気の経験であったことになりはしないでしょうか。
鶴見和子が残し、のちの時代に託そうとした膨大な学問と思想に、病気の経験を価値として成立した世界を加える必要があります。
「細胞の一つ一つが花開く 今朝のめざめは得がたき宝」
鶴見和子が思想のなかで展開したアニミズム(万物に魂が宿るという思想)について、日本における霊性についても書いておきたかったけれど、紙数が尽きてしまいました。
しかしながら、これから先霊性の問題に近づいてゆく時間がわたしにはまだ残されているようです。
まずは歌集『回生』を開いてみようと思います。
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2020年9月号を再編集し、掲載しています。
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