特集|草笛光子さんに学ぶ「きれいに生きる」姿勢#7

草笛光子さん「80歳も90歳も面白がって生きる」

公開日:2023.10.27

2023年10月に90歳を迎えた女優の草笛光子さん。輝くような白髪、気品ある凛とした佇まいは多くの女性の憧れですが、話し始めたとたん、茶目っ気たっぷりの飾らない素顔をのぞかせます。そんな草笛さんの日常とこれからについてお聞きしました。

おっくうに負けないための習慣

おっくうに負けないための習慣

草笛さんが体力の衰えを自覚して、週に1回、筋トレとストレッチを中心としたトレーニングを始めたのは72歳のとき。年を重ねるにつれ、だんだん思い通りにならなくなる体と真摯に向き合いながら、老いって何だろうと考えるようになった草笛さんが、80代でたどり着いたのが、「老いとは“おっくう”との闘いである」という結論でした。

「年を取ると心身が重たくなって、ちょっとしたことがおっくうになる。朝目が覚めて、すぐに『よし、今日もがんばりましょう』とは思えませんよ。つい『もうちょっと寝られるわ』って二度寝したくなる。そこで、おっくうな気持ちをエイヤッと振り払い、いかにやる気になるか。それが私の闘いですね」

毎朝、おっくうとの闘いに負けないために草笛さんが続けている習慣があります。

「目が覚めたら、まずはベッドの上で手の指を1本ずつ動かしてから腕全体をグーンと伸ばします。腕が動いたら、今度は足の指を動かして脚全体をグーンと伸ばす。そうやって順番に背中や腰も少しずつ動かして、やっとベッドからゆっくりと起き上がるんです」

最初に手の指から動かすのには、ちゃんと理由があるのだそう。

「私は朝一番、おいしいお煎茶を淹れて、そこに梅干しを入れて飲むことを大事にしているんですね。だから、寝ぼけて湯飲みや急須を割ったり、熱いお湯でやけどをしたりしないように、こわばった手指をほぐすことから始めるの。動かす順番ややり方は全部、自己流です。

動かない体を動くようにしていくのはほんとに大変で、毎日続けられるかが勝負。だから『今日も一日、元気でいるために大事なのは体よ』と、おっくうな自分をだましだまし指を動かします。そうすると、やっぱり体は動いたときのうれしさをわかっているから、ちゃんと応えてくれるんです」

元気な一日を過ごすために、もう一つ大事にしているのが食事です。

「私は食べることが大好きで、特にお肉は好きね。朝ごはんを食べながら『今日の夜ごはんは何にしよう? やっぱりお肉がいいな』って考えているくらい(笑)。人と食事をする時間も大切にしていて、時々ごはんだけ食べに家にやってくる友達もいます」

年齢の壁なんて取り払わなきゃ

年齢の壁なんて取り払わなきゃ

2023年の誕生日に、いよいよ90歳を迎える草笛さん。「年齢の壁を感じることはありますか?」と問い掛けると、「壁があると思ったらつらいじゃない。壁なんて取り払わなきゃ」ときっぱり。

「私だって脚が言うことを聞かないとか、お酒を飲むとすぐに酔っ払っちゃうとか、『ああ、嫌だなあ』って癪(しゃく)にさわることはありますよ。でも、そこで落ち込んでしまったら損だから、80歳なら80歳、90歳なら90歳の自分を茶化してやるというか、どこか面白がっていますね。

例えば『へえ、80歳になると夜眠れなくなったりするのね。ならいっそのこと、夜の一人時間を楽しんじゃおう』とかね。年を取ることを楽しむとまではいかなくても、面白がって生きればいい。実は私、大ざっぱだから幸せなんですよ」

そんな大らかな生き方は、死生観にもつながっています。

「この頃は、『私はいつ、この世からいなくなるのかな』って思うと、鼻の奥がツンときますね。だってこの年になれば、明日いなくなるかもしれないわけでしょう。でもクヨクヨしても仕方ないから、明日は明日の風が吹くで、考えないようにしています。今日という一日を精いっぱい生きていれば、いつお迎えが来たっていいんじゃないかしら」

大事な人に“最後の化粧”を

大事な人に“最後の化粧”を

ここ数年、草笛さんは親しい友人を次々見送ってきました。19年には“心の友”といえる間柄だった旅行ジャーナリストの兼高(かねたか)かおるさんの最期を看取り、21年は公私ともに付き合いの長かった衣装デザイナーのワダエミさんとの別れがありました。

「エミさんが体調を崩されてから亡くなるまで、私は毎朝、『おはよう。ちゃんと眠れた?』『今朝は何食べたの? もうちょっと食べなきゃだめよ』って電話をしていました。
彼女は一人暮らしでしたから『何でも欲しいものがあったら言って』と連絡して、食べ物や着る物も届けていましたね。

兼高さんのときも、本当に最後の最後までお部屋に通って、亡くなる数十分前までそばにいたんです。でも家に帰ったとたんに電話が来て、息を引き取ったと。私は急いでお化粧品を持って戻り、兼高さんの顔にきれいにお化粧しました。

エミさんが亡くなったときも、お化粧品を持ってかけつけて、ベッドの上で亡くなったばかりのお顔にうっすらと口紅と頬紅をつけました。本当にきれいでしたよ」

大切な人が亡くなったとき、必ずお化粧品を持参するのには理由があると言います。

「亡くなった後は、親族や親しい方がたくさん会いにいらっしゃるでしょう。そのとき、本人のためにも、いらっしゃる方のためにも、やっぱり病んだお顔で会わせたくない。きれいなお顔で会わせてあげたいの」

そう語る草笛さんが、初めて“最後のお化粧”を施したのは、昭和を代表する女優の一人、高峰三枝子さんでした。

「高峰さんとは、市川崑監督の映画『犬神家の一族』で共演しました。その撮影中、白塗りをするシーンで私が自分でお化粧をしていたら、高峰さんが『とても上手ね』と言ってくださって。『今度、私が舞台に出るときは、お化粧してね』と頼まれたんです。

それから私が舞台で地方を回っていたときに、駅でテレビを見たら“高峰三枝子さん死去”と報じられていて。私は急いで東京に帰って、化粧品を持って高峰さんのご自宅に伺いました。『すみません。私、お化粧をする約束をしていたので来ました』と伝えたら中に通されて、最後のお化粧をしました。

楊貴妃(ようきひ)はこんな顔だったかと思うくらい美しくて、『約束通り、ちゃんとやりましたよ』とお伝えしました」

目下のところの心配事は「私が死んだとき、誰が化粧をしてくれるのか」だと話します。

「自分で言うのも何ですが、私はお化粧が上手なの。だからいつ死んでもいいように毎日お化粧をして寝るか、『そろそろご臨終です』というときに自分でお化粧をするか。そんな冗談を言いながら明るく生きています(笑)」

くさぶえ・みつこ
1933(昭和8)年神奈川県生まれ。50年松竹歌劇団に入団。53年に映画デビュー。日本ミュージカル界の草分け的存在で「ラ・マンチャの男」「シカゴ」などの日本初演に参加。舞台・映画・テレビと幅広く活躍し、芸術祭賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、毎日芸術賞、日本アカデミー賞助演女優賞など受賞多数。「週刊文春」にて隔週でエッセーを連載中。99年に紫綬褒章、05年に旭日小綬章を受章。

草笛光子さん!90歳を迎えての主演映画「九十歳。何がめでたい」

©2024『九⼗歳。何がめでたい』製作委員会Ⓒ佐藤愛⼦/⼩学館

直⽊賞をはじめ数々の賞を受賞し、2023年11⽉5⽇に100歳を迎える作家・佐藤愛⼦のベストセラーエッセイ集『九⼗歳。何がめでたい』の実写映画化が決定!2023年10⽉22⽇に“90歳”を迎え、益々活躍の幅を広げる草笛光⼦さんが実在の主⼈公・作家 佐藤愛⼦を演じます。(2024年6月21日(金)全国公開)

取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部) 撮影=中西裕人 ヘアメイク=中田マリ子 スタイリング=清水恵子(アレンジメントK)

※この記事は「ハルメク」2023年1月号を再編集して掲載しています。

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